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- 糸井
- 映画を作るのって不思議な仕事で、
その場にいるみんなと
一緒に夢を見て作ってるわけで、
そのこと自体にものすごい快感があるから、
下手したら、後でどう見えるかを
忘れちゃう一団になりがちだと思うんです。
- 佐藤
- そうですね。
つまり、二次元であるはずのことが、
その現場では三次元で起きていて、
で、また二次元にもどるわけですよね。
- 糸井
- そうです、そうです。
そこが両方見渡せてる人が
役者や監督であったら、
大人っぽい、いい作品になる。
- 佐藤
- そう思います。
- 糸井
- たとえば、過去に問題を起こした
宗教団体やテロ組織とかがあるけど、
それもみんな三次元の中で
おなじ夢を見てるわけで、
後と先が見えてないってことですよね。
で、それは快感になるんです。
- 佐藤
- うん。
- 糸井
- ぼくらの仕事でもそうだけど、
みんなで徹夜して作業するのって、
楽しいからやってることもあるんですよ。
すごくつまんないプレゼンテーションのために、
「あいつ、もう倒れたよ」とか、
「よく頑張ったもんな」とか言って(笑)。
「それは楽しいんだよね」って知ってるけど、
本当は止めなくちゃいけない。
それはたぶん「知性」って
呼ぶものだと思うんです。
- 佐藤
- そうですね。
- 糸井
- 「命がけのバカは一番強い」という状態って
やっぱりまずいんです。
メディアにはそっちのほうが
受けるんですけどね。
ぼくは、どちらかというと
それを止められる、知性の側に立ちたい。
でも、心臓がドキドキ言ってるのも
忘れたくない、みたいな。
- 佐藤
- よくわかります。
- 糸井
- たぶん、プロの役者さんは、
集団でいるときの夢を覚ますのが、
だんだん上手になっていくんでしょうね。
- 佐藤
- あぁ、そうでしょうね。
- 糸井
- ちょっと関連する話なんだけど、
最近、谷川俊太郎さんと、
一緒に仕事をする機会があったんです。
過去にとてもうまくやれたものがあって、
「またやろう」って話になりまして。
そのアイディアというかテーマが
ぼくの中にあったんで、
谷川さんに持ちかけたら、
すごく喜んで、作ってくれたんです。
で、そのときはいいと思ったんですけど、
しばらく経って冷静にそれを見ると、
どうもふたりともピンと来ないんですよ。
いいんです、もちろん。
いいんだけど‥‥
うーん、なにが違うんだろうなって
ふたりで考えたんです。
- 佐藤
- あぁ。
- 糸井
- で、ぼくらが出した結論としては、
「前のものが、偶然も含めて、
うまくいきすぎちゃったから、
考えちゃったんだろうね。
ちょっと距離を置かないと、
本当にいいものってできないんだよね」
ってことになって。
逆に、「技術で見せよう」
くらいの気軽さでやったもののほうが
心の部分がちゃんと入るんですよね。
- 佐藤
- そこの判断って‥‥。
- 糸井
- むずかしいです。
- 佐藤
- すごくむずかしいですよね。
ぼくらが若いころは、
映画を作るのも
集団催眠みたいな状況でしたが、
その瞬間の熱って、
いまでもうらやましくなります。
でも、冷静に振り返ってみると、
そういう自分が
「バカだったよな」って(笑)。
- 糸井
- でも、バカだけど、
愛せることは愛せるんですよね。
- 佐藤
- それはもちろん、そうですね。
- 糸井
- でも、愛だけじゃ
「表現」ってできないんですよね。
なんていうんだろう、
子どもをかばって、
火の中に入っていくっていうのが愛だとすれば、
それは共倒れなわけで、
表現するには、倒れちゃだめなんですよね。
そこのあたりを、80歳の谷川さんと
66歳のぼくが気が付いた(笑)。
- 佐藤
- まさしく『生きる』ですよ。
- 糸井
- こういう話、もっと若いときに
したかったなぁと思うんだけど、
やっぱり勇気がなかったです。
止める勇気がね。
(つづきます)
写真:池田晶紀(
ゆかい)
佐藤浩市さんメイク:辰巳彩(六本木美容室)、スタイリング:喜多尾祥之
2015-06-24-WED
©HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN