- 増田
- (奥の部屋に入って)
ここはちょっと、
シークレットルームになってます。
- 糸井
- ほどよいシークレットですね。
ああ、いいねえ。この店。
- 増田
- ほんとですか。
- 糸井
- うん。どうも初めまして、糸井です。
今日はよろしくお願いします。
- 増田
- わあ、うれしい。
糸井さんにお会いするの、
とてもたのしみだったんです。
よろしくお願いします。
- 糸井
- 今日は、どんな話になっても
おもしろそうだと思ってます。
じつはぼくは増田さんのような距離感の人と
会うことって、めったにないんです。
- 増田
- そうなんですか。
- 糸井
- まず、この「カワイイモンスターカフェ」に
ぼくが来たこと自体、すでに珍しいんです。
じつはぼくはものぐさで、
新しい何かができても行かないし、
人が集まる場所や話題の場所にも
まったく縁がないほうなんです。
だけど、ここは何か、
「よけちゃだめだぞ」と思いました。
- 増田
- 光栄です。
- 糸井
- もともとネットか何かのニュースで見て、
気になってたんです。
だけど「さすがにひとりじゃ無理だ」と思って、
会社のみんながいるときに、そのまま来ました。
モンスターガールのみなさんにも会って、
いっぱい写真も撮らせてもらって。
- 増田
- うれしいです。
ありがとうございます。
- 糸井
- ただ、お店に実際に来てみて
「あれ、なんだか怪しいぞ?」と思いました。
ここって、ファンタジーですよね。
だけどこのお店は、みんなが期待するかわいいものを
きれいにラッピングして出しているようなものとは違う。
もっと「はらわたっぽい」というか。
確信犯で、何かをぶつけてる気がしたんです。
- 増田
- はい、そうですね。
- 糸井
- そして実際に来ると、このお店を作るのって、
そうとう根性がいるのがわかるんです。
きっと、途中で投げ出したくなるような大変さですから。
そして、自分がここに来たということを、
「なかったことにするわけにいかないぞ」
と思いました。
そこから増田さんという人がやってると知って、
増田さんのお店の『6%DOKIDOKI』の
ムック本を探して買ったりしました。
あと増田さんが半生を書いた
『家系図カッター』も読んだよ。おもしろかった。
- 増田
- すごい、『家系図カッター』まで。
ありがとうございます。
- 糸井
- あの本、書きかたはまったく違いますけど、
永ちゃん(矢沢永吉さん)の
『成りあがり』ですよね。
- 増田
- あ、そうですか?
- 糸井
- だと思います。
「まだ自分はゴールについちゃいない」
みたいに書いてるけど、
「こんなひどい場所にいられるか」からはじまって、
いろんなおもしろいエピソードを通過しながら、
いまの場所までたどりついた物語。
あの本を出された時点から、
もう、さらに何年も経っていますけど。
- 増田
- そうですね、
じつは『家系図カッター』は震災前に出た本で、
まだきゃりーぱみゅぱみゅも
登場していない時期のものなんです。
- 糸井
- だから今日は、本に書かれていない
増田さんの「その後」のお話も
教えてもらえたらと思ってやってきました。
- 増田
- はい、よろしくお願いします。
じつは今日は糸井さんと話せている時点で、
ぼくはとても感慨深いんです。
みなさんそうだと思うのですが、
ぼくも、糸井さんのされてきた仕事に
ずいぶん影響を受けてきました。
ぼくは寺山修司さんに憧れてこの道を目指したので、
自分にとっては「ことば」がとても重要なんです。
- 糸井
- そうなんだ。
- 増田
- ええ、この店のいろんな装飾も
なにより「ことば」が先で、
「ことばの力をビジュアル化してる」という
考えかたで作っているんですね。
- 糸井
- そっか、「ことば」が先なんだ。
だからずいぶんと
無理なことをされてるんですね。
- 増田
- あ、無理なこと(笑)。
- 糸井
- つまり、最初に「ビジュアル」から作るなら、
それを広げていくのはしやすいんです。
だけど「ことば」が先だとそうはいかない。
たとえば「えもいわれぬカフェ」という
ことばを思いついたとしても、
それだけではこの店はできあがらない。
自分であらためて
「えもいわれぬカフェ」のビジュアルを
ひとつずつ作る必要があります。
それはけっこう、労力のいる仕事だと思います。
- 増田
- そうですね、労力はかかってますね。
ただ、大変ではありながらも、
ぼくにとって「ビジュアル」というのは、
自分のメッセージを伝える手段として、
すごく大切なものなんです。
ビジュアルだからこそ、
言語を飛び越えて、世界に伝わっていく。
ビジュアルはぼくにとって
ある意味「もうひとつのことば」でもあるんです。
- 糸井
- まさにそうなってますよね。
- 増田
- あと「ことばをビジュアル化する」と、
できあがりが自分の元の想像を超えていくのも、
おもしろいんです。
ぼくはじつは
自分の最初の想像どおりに仕上がるものは
ちょっとつまらないんですね。
というのも、なにかを作るときには
徹底的に頭の中でシュミレーションするほうなので、
いったんその時点で、自分が飽きるんです。
だから、いろんな人が関わったり、
ときには誰かが間違えちゃったりしながら、
完成形が自分の想像を超えていくものが好きなんです。
- 糸井
- その感覚、すごくよくわかります。
ぼくも自分がわかってることだけが
そのまま実現するのはいやなんです。
自分がなにかを作るときにも、
「型にはめる作りかた」よりも、
「粘土をこねて徐々に形を作るような方法」
が好きですね。
自分で粘土をこねながら、
「この部分はもっと突き出させてやれ」とか、
考えながら、完成させていく。
自分の文章も、たいてい書き出す前は
「だいたい何を書くか」しか決めてないです。
- 増田
- 糸井さんは、書き出したらあとは
「筆が走るまま」ですか?
- 糸井
- そうですね‥‥ぼくの筆、
走るわけでもないんですけど。
「何を書きたいかを、自分で自分に聞きながら書いてる」
という感じです。
このやりかたはたぶん、
増田さんのいまおっしゃった作品の作りかたと
似ている気もしますね。
『家系図カッター』もそうですよね。
とつぜん詩のようになる部分もあるし。
- 増田
- はい、ふつうの文章だったのが、
急に詩のようなスタイルになる場所が
あったりします。
- 糸井
- ぼくが増田さんに会いたいと思った理由には、
そのあたりもあるんです。
本を読みながら、そのあたりの思考方法が
似てるかもしれないと思いました。
- 増田
- 『家系図カッター』は
最初、編集者の人と細かく相談しながら
書いていたんです。
けれど後半は、書きながらハイな状態になって、
何かが降りてきて書いた感じでした。
- 糸井
- 書きながら、自然とその状態になってますよね。
どこかで急に「俺にマイクを貸せ、語らせろ」
となっているというか。
- 増田
- そのたとえ、いいですね。
まさにそんな感じだったんです。
- 糸井
- あと『家系図カッター』を読んで
さすがだなと思ったのが、
増田さんの表現に集まる人たちって、
つらい子が多いじゃないですか。
- 増田
- そうですね。
どこかちょっと傷付いて、
そのまま大人になった人が多いと思います。
- 糸井
- だけど、増田さんは、
そういう子たちとの距離感のとりかたが
すごく健康だと思ったんです。
「ぼくが救うよ」とも言ってないし、
徹底してフラットに接している。
あの姿勢は、けっこうな自信がないと、
できないと思います。
- 増田
- 本にも書きましたけど、
なぜか昔からぼくのまわりの人たちは、
全員が全員そういう感じだったんです。
『6%DOKIDOKI』のショップの店員たちや
このカフェに集まるお客さんの中にも
そういう子たちが多い。
ぼくはそういう人を集めたいわけでもないし、
「世直し先生」みたいな存在になりたいわけでもない。
だけど実際には、そういう子たちが集まってくる。
そういう状態が昔からずっと続いていて、
もう、こうなってくると、
逆に自分はその子たちに支えられてるなと
思うようになりました。
- 糸井
- それはちょっと、ナウシカみたいだね。
最後、王蟲に持ち上げられて。
- 増田
- そうですね、たしかにナウシカっぽい
立ち位置でもあるかもしれないです。
(つづきます。)
2015-12-21-MON