“すき”という単語を
人に使うのが苦手です。

これは素敵なお便りをありがとうございます。
べーたさんの
「“すき”という言葉は簡単に使いたくない。
特別な場面で使っていきたい」
という感覚を、僕はすごく尊いものとして感じます。

こういう話を僕は昔、バイト先の
ファミリーレストランの控室でしていました。
宝物の時間でした。
そこでは、べーたさんが書いてくれたような
「“すき”という言葉を使うのに違和感がある」とか
「私が“すき”という言葉を使うのは生意気に思える」
とかを、誰かが話していた。
多分、そのときの僕は
「自分は遊園地のメリーゴーランドに乗ろうとしたら、
メリーゴーランド側から拒絶をくらうような
存在だと思う」
とか言っていたと思います。

こういった「気恥ずかしさ」の正体って
「自分のいるシーンを常にひとつの画として見る意識」
だと思うんです。
自分がテレビ制作とかのディレクターで、
出演者をジーッとチェックしているような感覚ですね。
若い頃は特にこういう感覚が強くある。

また若い時期には常に
「周囲から浮くこととの戦い」がありますよね。
たとえばみんなでご飯を食べに行って、
あなたが「私、チャーハンとラーメン！」と
絶叫したとします。
でも、一緒に行った人の趣味が体づくりだったりすると
「炭水化物と炭水化物の組み合わせ？ ありえない」
と言われたりすると、
ちょっとしょんぼりしてしまいますよね。
周りの空気にそぐわない発言をして
「浮いてしまう」のって、
けっこうダメージが大きい。

だけどその「気恥ずかしさ」や
「周囲から浮くこととの戦い」というのは
年齢と共に失われていく、
それはそれは貴重な感覚です。

夢も希望もない話に聞こえたら申し訳ないのですが、
いまのべーたさんが持っているその感覚は、
時間が経つにつれて解決していきます。
年齢が30歳に近づいてくると、
みんな平等に体力が落ちてきて、だんだん
「え、ラーメンとチャーハン？ 好きに食べたら？
私は今日はサラダにするわ」
とか言う人の比率が上がってきます。
みんな、他人がどう振る舞うかは、
まぁまぁどうでもよくなってくるんですね。
それよりも、「気が合う」とか
「色々話せる」ということが大事になってくる。

だからべーたさんはその感覚を大切にしながら、
そのまま進んでいってほしい、と思いました。

ちなみに僕は、チーズケーキが大好きだから、
チーズケーキに関してだけは
「これはおいしい」などと
簡単には言わないようにしているんですね。
「このチーズケーキの個性はこういうところにあって、
この部分はおいしい」とか、ちょっと厳しいんです。
こういう感覚を、僕はとても大切なものだと感じています。

もし気持ちが辛くなりすぎるようであれば、
気軽に“すき”と言っていく場所と、
自分が簡単には“すき”を言わない神聖な場所とを
分けていくこともおすすめです。

そしていつか、
「“すき”は使いすぎると嘘になるけど、
そういう嘘もかわいいな」と思える日がきたら
「あ、私は大人になったのかもな」などと思ってみてください。