各県について語りはじめたみうらさん、
1県めの長野では
さまざまな体験があったようです。
さて、今日は2県めですが‥‥。
長崎県 ほしくてほしくてたまらなかった思い出。
ほぼ日
では、ここで次の県に
いってみたいと思います。
みうら
(カードを引く)
きた! 長崎県。‥‥いいねぇ、いい!
ああ、思い出すなぁ。
ほぼ日
何を、でしょう?
みうら
響きがいいじゃん、佐世保って、ね?
ガゼボみたいな。
えーっと、長崎は、ですね、
蛭子能収さんが出身だということを
いま、思った。
いま、思ったけども、
ほぼ日
(コソコソ)オランダ坂とか、眼鏡橋とか。
みうら
いいねぇ、そうだよねぇ。
長崎といえばさ、院長が。
ほぼ日
院長が?
みうら
病院がありましてね、
いろいろな科がある病院なんですよ。
えー、内科、消化器科、循環器科、呼吸器科、
外科、肛門科、リウマチ科。
これは大病院だと思います。
ほぼ日
? はい。
みうら
そこの院長さんの名前がね、
ケイって読むのかな?
このって字。
ほぼ日
ちょっと見せていただいて‥‥そうですね、
これはケイと読むでしょうね。
みうら
礙のですね。
四の下に土をふたつ書いた、
この字が、ほしくて、
ほしくて、ほしくて、
夢にまで見るくらい、ほしかったんですよ。
ほぼ日
みうら
アウトドア般若心経といいまして、
日本各地、いろんな場所にある看板から
「般若心経の文字を全部ゲットしよう!」
ということになって。
ほぼ日
いろんなことをなさってるんですね。
みうら 「これは無理だろう」と言われていた難しい字は、
逆にあっさり見つかりました。
しかし「」が穴馬だったんです。
「四に土土」の単純な字なんだけど、意外とない。
ほぼ日 たしかに、あまり見ませんね。
みうら 「これがナイ!」ということになって、
いろいろ調べてもらったあげく
出てきたのは、病院長。
ほぼ日 病院なら、看板に
院長の名前が書いてあったりしますね。
みうら よく、死体の埋まっている場所とか
透視する人、いるでしょう?
同じように、ぼくにはもう
その風景が見えました。
そこには橋がかかってて、
ここには階段がありまして、
院長の名前が書かれている看板が
ありありと見えました。
「そこに行ったら、終わる(般若心経が)!」
ほぼ日 ははははは。
みうら そのひとつ前に見つけたのは、
阿耨多羅三藐三菩提
(あのくたらさんみゃくさんぼだい)の
「耨」という字でした。
これも見つけるのはキツイと思ったけど、
ありました。
近松門左衛門の戒名に
「耨」が使われていることがわかって、
近松門左衛門の、大阪のお墓に行ったんです。
ほぼ日 それもたいへんなことでしたね。
みうら でも、そこのお寺の人が
「うちは日蓮宗なんですよ」
と、ぼくに言ってくるんです。
日蓮宗は般若心経を唱えないんだって。
いや、ちょっと待ってくれ、
そんなところで、
もめるべきじゃないんじゃないか、
ということになって、
「耨」を撮らせてもらいました。
ほぼ日 よかったですね。
みうら 残るあとひとつが「」ですよ。
「ケイケイケイケイ」
「ワオワオワオワオワオ!」
「ケイケイケイケイ」
「ワオワオワオワオワオ!」
って、おれの頭の中では歓声が響いてるわけです。
ほぼ日 「あとひとり!
 あと一球!」
みうら そう。
だって、ほんとうにあと一文字で
般若心経が完成するんだもん。
思い起こせば、出だしのいちばんはじめは、
新宿の歌舞伎町にあった
「ChankoDining若」の看板でした。
般若心経の「にゃ」という字です。
こんなに身近に
般若の「にゃ」があるんだ、というところから
スタートしたのに。
ほぼ日 思わぬ苦戦が待っていた、と。
みうら 最終的に長崎の病院ですよ。
でも、ちょっと待てよ。
ほぼ日 何をでしょうか。
みうら ぼくは岐阜県で、一度
大徒労したことがあるんです。
あると思っていた字がなかった。
しょうがないから、高山をまわって
帰ってきました。
でね、今回は長崎でしょ?
ほぼ日 ちょっと遠いですね。
みうら 事前に電話を入れてみようと思いまして。
ほんとうはこんなことは
してはいけないことだけど。
ほぼ日 そうなんですか?
みうら アポ取るなんて、
素人にあるまじき行為です。

でも、どこかに隙があったんでしょう、
徒労に終わりたくないという気持ち、
そういう隙が。
長崎、遠いですからね。
飛行機ですからね。
マイレージは貯まるけど、
こっちは金払ってるわけですから。
ほぼ日 それで、どうだったんですか。
みうら 電話をかけて、病院の人に、
「前の看板に絶対に名前があるはず」
と言ったら、それが親切な方で、
「ちょっと待ってください」と、
病院の前まで走って見に行ってくれたんですよ。
「どうでした?」って訊いたら、
「ない」って言うわけ。
ほぼ日 ああああ。
みうら 「院長の名前は、病院の看板には出てない」
って言うんです。
「どこかにないですか」と
食い下がったんですが、「ない」と。
院長さん、なんてつつましげやかな人だろうと
思いましたよ。
「あ〜あ」ということでね、
結局行かなかったんですよ。
ほぼ日 行かなかったんですか!
みうら オランダ坂も行きましたし、
カステラ神社も行った。佐世保も行った。
いっぱい行ったんです。
でも、思い出に残ったのは、
病院長の「」さんの名前です。
ほんとうの思い出って
そういうものでは
ないでしょうか。
ほぼ日 はい。
みうら ぼくは「るるぶ」じゃありません。
これだけは言っておきますが、
いま話してることは、役には立たないですよ、
ぼくの思い出ですから。
「おれの思い出、意外とおもしろいな」とか
「あいつの思い出、おもしろいな」
ということって、
ふだんはあまりないと思いますが
そういうことこそが
日本を盛り上げるんだと思うんです。
ほぼ日 ‥‥‥‥ところで
その、アウトドア般若心経の「」は
結局、あったんですか?
みうら ありました。
メーテルリンクの『青い鳥』という作品、
ありますよね?
遠くに旅したけど、
結局自分に近いところに
青い鳥がいた、というお話。
ほぼ日 ‥‥はい。
みうら 新宿南口の高島屋、知ってる?
ほぼ日 はい。
みうら あそこからちょっと行ったとこにあったんです。
新宿にあるなんて思いもしなかったんですが、
気持ちが奢ってたんですしょうね。
気持ちが、長崎に先走ってた。
ほぼ日 ははは。
みうら 自分の足元を見ろ、
そんな何ステッチも越えるんじゃねぇぞ、
という教えだったんです。
ほぼ日 その般若心経は
アウトドアでないといけないんですか?
みうら そうです。
インドアだったら「苦」という字だって、
世露死苦なんて書いてある
ツッパリのジャケットからだって
撮れるわけですよ?
みなさん、院長の「」の字が
外に出ていることがあれば、
ぜひご一報ください。
それは当然、行かせていただきます。
ほぼ日 アウトドア般若心経は、
何回唱えてもいいんですもんね。
みうら そうです。
ひと回りしたというだけで、
何回やってもいいんですから。
よろしくお願いします。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は、
下の動画でどうぞおたのしみください。

長崎県を語ることを通じて
般若心経の教えを説くように、
みうらじゅんさんは、
ほんとうの旅、
ほんとうの日本を
鮮やかに浮き彫りにしていきます。
次回は3県めにうつります。
1週お休みが入りまして、
次にお会いできるのは再来週の日曜です。
みなさま、よい8月をおすごしくださいね。
2007-08-12-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい長崎県ご当地ソング
「転がる坂のように」を
どうぞお聞きください。