少年よ、無理をするなかれ。
糸井
いままでの話もそうだけど、
「変なできごと」って、
それと合う人のところに来ますよね。
昇太さん、いっぱい来るタイプでしょう?
昇太
そうですね。
糸井
なんですかねぇ、それって。
昇太
なんでしょうねえ。
鶴瓶師匠もそうなんですよ。
あの人のところには、
不思議なことばっかり寄ってくる。
寄ってくるというか、
師匠から寄って行ってる感じもしますけど。
糸井
鶴瓶さんは、
明らかに取りに行ってますよ。
声かけられる前に「どうしたん?」って。
でも、昇太さんは
取りに行っている感じではないですね。
昇太
ぼくは人見知りなので、
そんなに取りに行けないタイプです。
糸井
人見知りということでいうと、
いまの世の中、
前に出ないで仕事を保ってる人って、
あんまり多くないですよね。
「はいはいっ!」って手を挙げないと
ダメな時代じゃないですか。
でも、昇太さんは、
そこをあえてやらないできましたよね。
昇太
そうですね。
この仕事をやりはじめて、まず思ったのは、
「先頭に立たないようにしよう」
ということなんです。
「ぼくは、5、6位でいこう」と。
たとえば、雑誌で落語特集があったら、
必ず名前は載るけど、
1番最初のページじゃない、
という感じでいきたいなと。
糸井
5、6位あたり、いいねぇ。
4位だったら、四捨五入したら
1位のグループにいるんだけど、
5、6位だと10位のグループにいるくらいの
感じですよね。
昇太
あっはっはっは。
そうですね。
糸井
なんで若いころに、そんなことを
落ち着いて考えられたんでしょうか。
昇太
それはですね、さきほど糸井さんから
水木先生のお話が出ましたけど、
実は水木しげる先生の影響が
すごく大きいんですよ。
糸井
ほぉー。
昇太
水木先生のことで
強烈に覚えてる出来事があるんです。
子どものころ、兄の友達の家で
少年漫画を読んでいたら、
巻頭ページに
いろんな漫画家の色紙が載ってたんですよ。
そこに水木先生の色紙があって、
「少年よ、無理をするなかれ」
と書いてあったんです。
そのころは、ちょうどこれから
東京オリンピックがはじまるというときで、
イケイケの時代でした。
漫画だと『巨人の星』のような
根性ものが流行っていて、
「根性だ!」「行け!」という時代だったときに、
「少年よ、無理をするなかれ」。
糸井
すごいねー。
昇太
ぼく、子ども心に、
それ見て「えーっ?」と思って、
ほわ~っと全身の力が抜けたんですよ。
「あー、これいいな、すごいな」と。
糸井
でも、小さいころでしょう?
小学校の1、2年生くらい?
昇太
小学3年生くらいだったと思います。
糸井
ませてますね。
「無理をするな」が染みこむというのは、
よっぽどの読解力がありますよ。
昇太
いやあ。
でも、そのとき、
「水木先生ってこういう人なんだ」
と思ったんです。
で、その言葉を頭に入れて、
その後『ゲゲゲの鬼太郎』とか読むでしょ。
そうすると、なんとなく分かるんですよ。
糸井
そんなキャラクターばかり出てくる。
昇太
ええ。
「少年よ、無理をするなかれ」を
読んでいたおかげで、
たぶん他の子よりも、水木作品を
深く理解できたんじゃないかなと思います。
糸井
鬼太郎だって、なんか解決しても、
クールに帰っちゃうもんね。
カランコロン~って、
あれ、帰りの下駄の音だからね。
昇太
そうそう。
そうなんですよ。
糸井
水木さんのその言葉が、
昇太さんの人生に
大きな影響を与えたというのは、いいですね。
子どもって、大人よりも心が柔らかいと言うけど、
実は子どものほうが硬いんですよね。
できることが少ないから。
だから、自分と違う意見を持ってる人を、
「あんなもの!」
と思うのが普通なんです。
「少年よ、無理をするなかれ」を読んでも、
「なに言ってやがんでい」
と思う可能性もあったはずなのに、
昇太さんは、その三つ子の魂でずっと来ている。
昇太
はい。
その後のものの考え方に、
とても影響してると思います。
糸井
偶然にも、今日の「ほぼ日」のコラムに
似たようなことを書いたんです。
「身を粉にしてがんばる、というけど、
身を粉にしたら死んじゃうじゃないか」
という内容なんですけど。
昇太
死んじゃうじゃないか(笑)。
そうですねぇ。
糸井
「身を粉にして」という状況は、
ぼく自身も好きなんです。
たとえば野球選手が
身を粉にしてがんばった、
という話が聞こえてくると、
「いい選手だね」と思うんだけど、
あれは、その世界の中で、
ある年齢のときだけやってることなんです。
一生を通じてやっている話ではないからいいけど、
普通に生きている人が
「身を粉にして」に価値を置きすぎたら、
やっぱりろくなことがないと思うんです。
昇太
そうですね。
常に「身を粉にして!」って生きてたら、
辛いですよね。
糸井
辛いです。
あと、自分がけっこうやってるつもりのときって、
人にも強要しますよね。
昇太
あっはっはっは。
糸井
「俺がどんだけ苦労してきたと思ってんだ。
お前は甘い」って。
そのあたりの苦労話って、
めずらしいから人は文章にしたがるんです。
でも、本当はなるべくそういう言葉を忘れて、
楽しくやればいいと思います。
昇太
そうですね。
糸井
いや、この話は、
さっきの柳昇さん、水木さんの話と
共通するものがありますね。
昇太
はい。師匠も、水木先生もそうですし、
戦争体験のある人たちが
いつもぼくのまわりにいてくれました。
よく思うのが、日本が
世界の国を相手に戦争したのって、
ついこのあいだじゃないですか。
ぼくは昭和34年生まれだから、
ぼくが生まれる14年前まで戦争してたんです。
もっと、さかのぼれば、
明治維新のときには内戦もありましたし。
そう思うと、ものすごくラッキーな時代に
生まれているんですよ。
糸井
戦争に懲りたところから
はじまってますからね。
昇太
そうなんです。
奇跡的に、いまはいい時代なんです。
だから楽しまないと損だなと。
糸井
うんうん。せっかくだからね。
昇太
この時代に愚痴を言いながら暮らしていたら、
もったいないですよ。
糸井
そうですね。
いま、なんか柳昇さんが降りてきましたね。
柳昇さんと水木さんがおっしゃってるのは、
「寝ていいのに寝ないやつはおかしい」
っていうことですよね。
スポ根漫画はおもしろかったけど、
やっぱり経験を積んでいくと、
「ああ、あれは流行だったんだな」
と思うことが多いんですよね。
デカイ声を出すのが流行だった時代は、
みんなデカイ声を出してましたよ。
「ケンカをやめろー!」
と言う奴らが殴りあう、みたいな。
「ケンカをやめろ」と言いながら殴りあってる、
その状況も含めてケンカだろう、
ということに気づくのは、
だいぶ時間が経ってからですよね。
昇太
はい。
糸井
それにしても、
「少年よ、無理をするなかれ」っていいなあ。
特に「少年よ」という書き出しが、
またいいですねぇ。
昇太
そうですね。
「少年よ、大志を抱け」
のパクリでギャグなんでしょうけど、
あれは良かったですね。
ずっと覚えてますから。
やっぱり子どものころの体験って、
重要なんだなと思います。
(つづきます)
2016-09-07-WED
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN