楽しまないともったいないから。春風亭昇太さん×糸井重里 対談
第6回
いま、中世がおもしろい。
糸井
昇太さんは城見物が趣味だそうですが、
子どものころに
水木さんの言葉と出会ったという体験と、
城好きというのは、
なにか結びついているんですか?
昇太
いや、そこは結びついてないです。
城が好きなのは、
「中世の時代が好き」
という理由がまずあります。
糸井
江戸になる前ですね。
昇太
はい。その時代のお城は、
作り方が統一されていないから、
見ているだけで楽しいんですよ。
それぞれ特徴があるから、
お城の堀の形を見ただけで、
「これ、武田だな」とか分かるんです。
あと、お城って、
どうやったら人を撃退できるかを
考え抜いて作られているから、
各地のお城を見に行って、
それぞれの「企み」みたいな形跡を
見つけると、キュンとするんです。
糸井
企みといっても、普通の企みじゃなくて、
命がかかってるものだから、
すごいでしょうね。
昇太さんは、地方で落語をやるときに、
「ここへ行くなら、この城を見よう」とか、
考えて行ってるんですか?
昇太
そうです。公演する場所を聞いたら、
まずは、近くにお城とか、
城跡がないか調べます。
それで3時間ぐらい前に行って、
そこを見てから、劇場に入って落語をやります。
糸井
はあー、いい趣味ですね。
昇太
実は日本全国で城がない町って、
ほとんどないんですよ。
みんながイメージする天守閣があるお城、
あれは近世の一国一城制の時代のもの。
その前の時代は、
村長さんや町内会長が1つずつ
お城を持っているくらいの感覚で
たくさん作られていたんです。
だから、日本にいくつ城があるかというと、
多すぎてわかっていないんです。
専門家は3万から4万と言う。
ここだけで、1万の差があります。
糸井
それ、おもしろい。
昇太
なかには5万だと言ってる人もいます。
糸井
もう2万の差が(笑)。
じゃあ、日本には、
小さい城がいっぱいあったわけですね。
昇太
ええ。専門の研究者でも、
日本のお城全てに行った人は
誰もいないと思います。
糸井
ああ、そうでしょうね。
昇太さんはいくつぐらい行ってます?
昇太
600くらいです。
でも、それは、お城好きの中では、
多い方ではないんです。
とにかく無数にあるし、
まだまだ分かってないことがたくさんあります。
あと、いままでの日本史研究って、
古代史研究が中心だったんですよ。
歴史博物館に行くと一目瞭然なんですが、
古代史の展示がだいたい7割ぐらいあって、
中世のコーナーはちょこっとで、
すぐ近代のコーナーになるんです。
糸井
時間の長さでいうと、中世は長いのにね。
昇太
ねぇ。
しかも、日本人は戦国モノが好きなのに、
戦国時代のことも
あまり研究されてないんです。
時代劇や大河ドラマに描かれたことが
真実だと思っている人も多くて。
まぁ、歴史番組じゃないので、
どんなふうに作ったっていいんですけどね。
今度、大河ドラマで
ぼくが今川義元の役をやるんですけど、
世間では彼のイメージがかなり悪いんです。
なんか、ナヨナヨとしてて、
信長にバッとやられちゃった、
みたいなイメージがあるでしょ?
糸井
ちょっと卑怯な人、みたいなね。
昇太
どうも、今川義元というと
「桶狭間の戦い」が有名になりすぎて、
あの一戦だけでやられたみたいに
思われているんですが、
実際はその前に何度も戦っているし、
最後は相手と斬り合って死んでるんですよ。
糸井
じゃあ結構、勇壮なんですか。
昇太
そうなんです。
だけどいつの間にか、映画では、
おしろいつけて、「おほほ」なんて笑いながら、
「ヒエ~」なんてやられてる。
糸井
信長を強調するあまりに。
昇太
はい。信長をヒーローにするためには、
今川義元が格好の材料だったから
そうなってるんです。
今川氏の研究をしている先生の本を読むと、
最新鋭の領国経営をやってて、
家臣団の組織も、
ものすごくしっかり作っているんです。
「バカ大名」のようなイメージがありますが、
本当は超一流の戦国大名なんですよ。
そういう中世の研究が、
少しずつ進んでるところなんです。

(つづきます)
2016-09-08-THU