通常、建物の設計をする場合、
「設計に見込んでおくべき地震の大きさ」や
「材料の強さ」、
「風や光などの自然条件値」など、
設計において指針とする数値が、
「建築基準法」という法律や
日本建築学会が発行している諸基準に記されていて、
これに準拠するかたちで設計していきます。
ですが、東京スカイツリーは、
高さ634mというこれまで日本になかった高さです。
そのため、建築基準法においても
指針がないものがありました。
文字通り規格外の建物なんですね!
例えば「風」。
これまでに建っている超高層ビルは
300m弱の高さですから、
これもやむなし、だと思いますが、
東京スカイツリーが建設されるような
場所(平野部、都市部)での
350mより高層の風速分布については
指針がありませんでした。
でもタワーの場合は、
地震だけでなくて、風の影響がすごく大きいのです。
特に、風は高層になるほど
だんだん強く吹いているということがわかっています。
東京スカイツリーは設計時から600m超の高さが
想定されていましたから、
指針に示されている350mまでの風速分布から
予測はつくものの、
実際にどうなっているのかを
調べないとなりませんでした。
そこで、登場したのが、
「ラジオゾンデ」という気象観測気球です。
ようは、GPSのような発信機をつけた気球を飛ばして、
それがどのくらいの時間でどの方向へ
どのくらい流されるのかを調べて、
上空の風の状態を調査したのです。
この調査は、2006年10月から約1年に渡って、
気球を50回飛ばして行っています。
また、低層の風については、
計画地に建っていた東武鉄道旧本社の鉄塔を利用して、
地上65mに取り付けた超音波風向風速計をはじめ、
4台の風観測装置を鉄塔に設置して、
2006年1月から風観測を行いました。
これらのデータは、
気象庁の約130年分の記録とも照合して、
計画地の風速分布推定を行っています。
こうした調査から得られた風のデータは、
設計における基礎データとして、
また、予備風洞実験を行う際の入力値などとして
活用されています。
ちなみに、高さ610mでの、
設計に用いた平均風速は79.1m/sです。
台風時のニュースなどで聞く風速よりも
ずいぶん大きくて驚かれるでしょうが、
気象ニュースで用いられる「風速」とは、
地上10mの高さでの10分間平均の速度なんです。
(「瞬間最大風速」は、
0.25秒ごとに更新される
3秒〈12サンプル〉平均の最大値。)
東京スカイツリーの数値を地上10mの高さで見ると、
設計に用いた平均風速は42.8m/sです。
‥‥これでも大きなものですね。
なお、安全上は、
再現期間(毎年独立で一定の発生確率をもつ事象の
平均的な再来期間)1500年(!)、暴風が来ても、
建物の機能が維持できるように設計しています。
高さ600m超という未知の領域に挑むには、
こうしたリサーチが欠かせませんでした。
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」とは
孫子の兵法の一節ですが、
東京スカイツリーの設計も、
まさにその通りなんです。
もうひとつ特殊な調査ものがあるので、
それは次回に。 |