乗組員やえの疑問

世界一高い自立式電波塔をつくるにあたって
特別な調査をされたとか。教えてその2

スカイツリーおじさんの解説

前回は、風の調査についてお話しましたが、
今回は、地盤の調査についてのお話です。

みなさん、地震による建物の揺れって
どういう風に起こるかご存知でしょうか?

地球の表面は、つるりと
1枚の殻で覆われているのではなく、
10数枚のプレートで覆われています。
そしてそのプレートはそれぞれが違う方向へ動き、
ぶつかったり、沈み込んだりしています。
そのため、これらのプレートが接する境界とその付近では
「ひずみ」が蓄積し、それが限界を超えたときに、
地殻がずれて、地震が発生します。

ちなみに、接しているプレートの境界面が
ずれることで発生する地震を
「プレート境界地震」、
プレート内の断層(活断層)に
蓄積された「ひずみ」が
開放されて発生する地震を
「内陸直下型地震」と呼んでいます。

さて、ある建物の地震による揺れは、
次のようなプロセスを踏みます。
1.地殻がずれて断層を生じ、地震の震源となる。
2.震源から、揺れが岩盤を伝わる。
3.揺れが、岩盤から地表部分までの堆積層を伝わり、
  その際に揺れが増幅される。
   (堆積層は岩盤よりも柔らかくて、
    ここを伝わる際に揺れが大きくなるのです)
4.堆積層を伝わった揺れが
さらに地表に建つ建物に伝わり、
  建物の揺れとなる。

となると、ある建物の揺れは、
・断層のずれ方(上記1の段階)、
・震源からある建物までの距離(上記2の段階)、
・ある建物が建っているところの堆積層の固さや厚さ
(上記3の段階) 
によって「違いが生じる」ということが分かります。

断層のずれ方を別とすれば、
ある建物が建っている、
固有の場所そのものから
影響を受けるということです。

断層のずれ方や予測される震源地は、
これまでの歴史を調べることや
地震観測結果などの地震情報から
得ることができます。
ただ、
「ある建物が建っている固有な場所の、
堆積層の固さや厚さ」は
実際にその場所で調査されていないかぎり、
推測はできるものの、精確な情報は得られません。

東京スカイツリーでは、大きな地震が起きた時に、
実際にこの場所でどういう揺れ方をするのかを
特定するために、この地の地盤を調査しています。

特に、スカイツリーの一次固有周期
(建物が左右に一往復揺れて
 もとの位置に戻るまでの時間を固有周期といい、
 そのもっとも長いもの)と
共振するような成分をもつ
地震の「波」があるかどうかを調べる必要もありました。
このためには、地表から数km下の地盤の特性を
つかまなければなりませんでした。

そこで、「微動アレイ探査」という調査方法で、
計画地周囲数kmの範囲で、
地下3km程までの深層地盤を調査したのです。
この調査は、実際に地下3kmまで掘るのではなく、
複数箇所に設置した地震計で、
地盤の微動
(なんと、地盤はわずかながら常に動いているのです!)
を同時観測し、このデータを処理することによって
観測地点の地下の特性を求める深部地盤探査法で、
近年急速に発展してきている探査法です。

この調査データから、
長周期地震動についても十分考慮した、
この地に固有の模擬地震動
(人工地震波=サイト波)を作成し、
構造設計のシミュレーションに役立てています。

また、通常の建設工事と同じくボーリング調査も行って、
地盤を詳細に調査しました。
この調査から、
スカイツリーの重量を支持させる地盤を確定すると共に、
これで得られたデータから、
比較的浅い層の地震の増幅特性を
調べるのに役立ちました。

建築とは、ある場所に建つ「一品生産品」です。
放送機能をもち、かつてない高さの今回の計画では、
特に安全・安心な設計とするために、
その場所固有の性質を、仔細に調査したというわけです。
いわば、とびきりのオーダーメイド服を仕立てるときに、
体の各寸法をはじめ、
体の動き方のクセまで調べるのと同じ、
といえるでしょうか。

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2010-06-29-TUE