糸井 |
そして、最初のサンプルが出来上がったとき、
「誰がつくってるんだろう」ということを思いました。
そのへんは三浦さんがプロデュースしてるわけですから、
「誰か」が絶対あるはずだと。
順番にお聞きしますが、
箱に使う桐はまずどうしたんですか。
|
三浦 |
やっぱり僕らにとって、桐っていうのは
“スーパー特殊”な素材です。
三角屋も数寄屋をつくりますから、
他の木材の工務店よりもはるかにたくさんの
いろいろな素材を持っているんですけれど、
桐は多くはありません。
というのは、ほかの木材と比べて、
乾燥する速度、保管方法が違いすぎるんですね。
木で木じゃないというか、もうまったく違います。
そこで今回は、北路(きたじ)桐材店さんに
お願いをしたんです。
|
|
糸井 |
家で桐って、どういうところで使うものなんですか。
|
三浦 |
かつては欄間とか、上等な襖、障子が桐でした。
障子というのは軽くて柔らかいっていう、
その両方の特性が欲しいので、
そういう意味でひじょうに上品でいいんです。
|
糸井 |
ぼくの京都の家の2階のクローゼットは──。
|
三浦 |
全部桐です。
|
糸井 |
やっぱり!
|
三浦 |
壁ごと全部桐にしています。
|
糸井 |
あれ、しびれますね。
で、しかも昔の箪笥じゃなくて、
いまの箪笥なんですよ。
|
|
三浦 |
はい、現代のデザインです。
かつて着物を並べてたものとは違う、
まあ言うたら、立体的な箪笥ですよね。
人が入っていける箪笥。
だから床も壁も桐で、引出し等も桐です。
僕らが使うとしたら、保湿性とか保温性、
快適ないい環境を維持するために
「包む」ようなところには桐を使うんです。
あとは、床の間の落とし掛け、いいものは桐ですね。
力のある床柱に対して、力のあるものを当ててくると、
やっぱり野暮なんです。
そこで、ひじょうに柔らかくて軽快なんだけど、
大切な材質として桐を使うんですよ。
|
糸井 |
桐が生えてるところって、そんな見ないですよね。
|
三浦 |
そうですよ。なかなかそんなに。
|
糸井 |
花札にはありますから、
あるような気はするんだけれど。
|
三浦 |
僕の感じ的には、姿形のカッコいい木じゃないんです。
たとえば、娘さんが嫁入りする時の
桐箪笥用に植えるとか、
景色ではなくて。何かの理由があって植える。
やはり使うために植えてる木だと思うんですよ。
|
|
糸井 |
炭にするために木を山に植えたっていうのと似てますね。
|
三浦 |
似てますね。
やっぱりまず手に触れることとか、
この大切なお箸を包み込むものとしては、
もう桐以外にないということは、すごく比較的早く
決断できました。
あとは、日本の桐であることが重要です。
いまたくさん中国産の桐が日本に入って来ていますが、
正確にはだいぶ違う。
|
糸井 |
桐は桐でも桐じゃない?
|
三浦 |
桐のようだけど、圧倒的に違ってる。
薬剤が滲みこみやすいし、そういう意味では、
どういう処理をしてここまできたかっていうのが
見えないところから受け取るというのは、
ひじょうに怖いんです。
そういう意味では北路さんは、
日本の国産の桐を、自分が全部原木から製材して、
乾燥まで全部自分の目の届く範囲で、
このいい状態まで持って来てるんですね。
製材から製品になるまでに
たぶん10年近くかかってると思います。
その過程はやっぱり人に任せられない。
|
糸井 |
そういう桐を分けてもらったんですね。
|
三浦 |
そういうことも含めてケアができる、
ちゃんと安心して口に入れるお箸を包む桐は
やっぱり北路さんしかいない。
北路さんにとっても箸箱ってたぶん経験がないんですけど、
包むっていうこととか、桐箪笥をつくる中に
ノウハウってたくさん入り込んでるので、
彼とやり取りをすれば、最終的なお箸の
箱の形になるんじゃないかと。
|
糸井 |
これはくり貫きなんですよね。
|
|
三浦 |
くり貫きなんです。
その理由は、掃除のしやすさです。
この隅の部分っていうのは不潔になりやすいので、
丸くして、掃除しやすく清潔に保てるようにしたいと。
加工しやすいのは、パーツ、パーツで、
面ごとに組み立てていくのがはるかに楽なんですけど、
そうすると、継ぎ目の部分にいろんなものが入り込んで。
|
糸井 |
こんな話聞くと、
箱だけくださいって言いたくなる(笑)。
そういう人が現われるかもしれない。
|
── |
磁石を付けるみたいなことは
どちらが考えられたんですか。
|
三浦 |
これはこちらから、当初からです。
他のものはよく、留まってなかったり、
もう一つゴムを巻いたり紐を付けたり、
もう1パーツが要るんですけど、
でも、そのパーツはね、僕の経験上、
なくなるんですよ。
どこか行っちゃうっていうのがすごく多くて。
結果的には、そのへんにある輪ゴムで締めてる。
それってひじょうにカッコがよくない。
|
糸井 |
昔だったら、こういう、こういうスライド式のね。
|
|
三浦 |
ありました。
けれどもスライド式だと溝があるので、
そこに不潔なものが入り込みやすい。
もう極力シンプルなものにするには
磁石がいちばんだったんですよ。
|
糸井 |
しかもスライド式は
桐には向いてないですよね。
|
三浦 |
そうなんですよ、もたないんで。
|
糸井 |
この微妙なエンタシスのような曲線もきれいですね。
これは、こういうふうに機械を
セッティングするんですか。鉋というか。
|
三浦 |
そうですね。標準の姿は決めてますけど、
誤差の範囲は調整しながら、
並べて比較して調整してます。
ほぼ一緒ですけども、
問題ない範囲での誤差はあります。
|
糸井 |
だから膨らみを感じるんですね。
|
三浦 |
桐は柔らかいんで、
エッジが立ってても丸くなっていくんです。
この丸みを初めからつけておくことで、
これからつく丸みがプラスに、
いい丸みに見えてくるんじゃないかなと。
|
糸井 |
とげとげしいところをなくしてますね。 |
|
(次回は「竹」の話です。) |