糸井 |
以前、ぼくはお世話になったかたに、
お箸を配ったことがあるんです。
たしか三浦さんにも──。
|
|
三浦 |
はい、いただきました。
|
糸井 |
それは「青黒檀」という木を削ってつくった、
江戸伝統の箸でした。
いまも自分で使っていて、気に入っているんですが、
いっぽうで、「ほぼ日でお箸は作らないんですか?」
と訊かれたことがあったんです。
その時、「それは、あるな」と思ったんですね。
その人は「ほぼ日手帳」のように、
愛着という部分でお箸ができないだろうか、
と言ってくれたんですよ。
|
三浦 |
なるほど。
|
|
糸井 |
考えてみると、お弁当が流行っていたり、
日常の食事を大事にしようっていう気持ちが
みんなにあるんだけれど、
いざお箸を探すと、観光旅行のコースみたいな、
「これでいいんじゃないですか」
というところに収まっていますよね。
それよりも「これがいいんだ!」って、
使ってるうちにどんどん思えてくるような箸、
ほんとうに気に入る箸って、
どんなもんだろうと考えたときに、
先ほどの青黒檀じゃないけれど、
素材ってすごく重要だぞと。
ならばまずは知識のある人に相談したい。
そこで三浦さんにお声掛けさせていただいたんです。
三浦さんは、お箸を作るというのは、
職業ではないのですけれど。
|
三浦 |
もちろん、ないですね。
つくっているのは、家ですからね。
|
糸井 |
僕が三浦さんに頼んだ意図っていうのは、
単純にこういうことなんですよ。
家、日本建築、とくに数寄屋は、茶道と同じなんです。
お茶の道と、家をつくるっていうことは、じつは同じ。
この家にどの掛軸が合うだろうとか、
この家の庭はどうつくるべきかとか、
この柱はどうなんだろうかっていうことを、
教養とともに提案しないと、
京都では通用しないんですよね。
少なくとも「この書ですね」とか、
「この花ですね」みたいなことを理解していなければ、
三浦さんは生きて来られなかったはずなんです。
工業製品としてだとか、機能で選んでも、
「その心は?」みたいなところがいつもあるわけで、
「その心は、こうです」
とちゃんと言えるだけの歴史とか知識とかを
持ってるということが大事なんです。
それこそ人間国宝の先生が
「こうしたいんだけど」って言った時に。
「それはどういうことですか」
って聞いてはなりませんから。
|
三浦 |
はい(笑)。
|
|
糸井 |
何でもかんでも通じない人は
生きていけないんです、あの世界で。
たとえ、ごまかしごまかしでも。
|
三浦 |
そうですね。
|
糸井 |
だからお茶の先生から、料亭から、人間国宝から、
つまりお施主さんに呼ばれた時に、
大丈夫ですっていうものを
提案しないといけないっていうベースがある。
そんな三浦さんですから、ぼくたちは、
まず全部大丈夫っていうふうに決めてから、
こちらの意見をまっすぐ伝えればいい。
そうして意見を交換していくと、
新しい本当の伝統が作れるはずですから、
そこにお客さんに来てもらえばいい。
そういう気持ちがあって、
三浦さんにお声掛けをしたんです。
|
三浦 |
ありがとうございます。
僕は僕で、これはどういう意図なのか、
どういう思いがあるのかな、ということを、
自分たちなりに整理するのに時間をかけました。
あえて箸は専門外である僕に声を掛けていただいた、
ならばどういうスタートをすればいいかな、と、
僕と三角屋の清水と二人でだいぶ議論をしていたんですね。
|
糸井 |
ああ、面白いですね。
|
|
三浦 |
そういうふうな議論をしてる中で、
朝比奈に相談をしたら、もう即答で、
「箸は竹で、箱は桐やろ」と。
|
糸井 |
はっはっはっ、そう言ったんですね?
|
三浦 |
「それしかないやろ」って。
さんざん悩んでいたのがあっという間に答えが出ちゃって、
それを僕と清水は茫然と聞いていました。
たしかによくわかるんです。
素材の特性を含めて、よくよくわかる。
納得しました。
そこでその答えをもとに、
次にどうやって商品化へアプローチするかを
考えはじめました。
|
糸井 |
ぼくはぼくで、三浦さんからの提案で
最初にしびれたのは、そこなんです。
「箱があることが前提」だったことなんですよ。
三浦さんが箱っていうのを
セットで考えられたところにしびれたんです。
|
── |
「箸は竹、箱は桐」。
|
三浦 |
そうでしたか。
朝比奈に相談する前に、そこまでは、
僕と清水で組立てていました。
|
|
糸井 |
やっぱり「当然」のように考えているわけですよね。
そうしなかったら、大切にするっていう意識も、
「わたしの」っていう嬉しさも、弱くなっちゃうから。
|
三浦 |
そうなんですよ。
|
糸井 |
そこにしびれました。
|
三浦 |
箱があるのは「エコ」からの発想ではないんですよ。
|
糸井 |
理由から来てるんじゃないってことですね。
|
三浦 |
初めから言ってたことは、これをやっぱり持ち出す時に、
ちゃんと後ろポッケにピッと挿して歩けるくらい、
スマートじゃないと、持たないよねと。
この姿じゃないと、好きな箸でも、持ち出さない。
|
糸井 |
なるほどね。そうですよね。
箸だけを持って歩く人はいない。
三浦さんは、ぼくらが箸を考えた時よりも、
この箱を出したことで、動かしたんですよ。
三浦さんって「人に頼まれた以上は」って、
はっちゃけるんですよね。
しかも桐っていうところの品質感と、
触り心地と、磁石という仕組み。
いいねえって思いながら、
すぐにぼくが言ったのは、
「高くないか?」(笑)でしたね。
もちろんわかっててやってることだから、
受け入れたいと思ったのが前提ですが。 |
|
(次回、箱の素材「桐」の話につづきます。) |