その4 お尻叩いてでも、喧嘩してでも。
糸井 そしてこのお箸にはもう一工程、
仕上げが入ってますよね。
三浦 はい、拭漆(ふきうるし)です。
糸井 竹屋さんから次に行ってるんですね。
三浦 はい。東端唯(ひがしばた・ゆい)という、
もともと三角屋にいて、
自立して5年ぐらいの職人に託しました。
彼は、家が代々の蒔絵師(まきえし)なんです。
糸井 三角屋さんの工房で拝見したことがあります。
三浦 はい。様々な仕上げができる職人です。
拭漆というのは、直接素材に漆を塗って、拭き取り、
乾かしてから磨いて、また塗って、と繰り返す技法です。
乾燥まで含めたら、仕上げるのに
3カ月ぐらいかかってるんです。
しかも、人工うるしは使わず、
100%天然の漆です。
糸井 そういう3人が、この箸を作っているんですね。
今日の話でよくわかったのは、
箸であろうが、建物であろうが、
全体像として、その世界観みたいなものと
離せないんだよっていうことですね。
箸も、箸だけを見つめたんじゃ面白くない。
今回、三浦さんが探してくださった
職人さんたちと組むことで、
僕らがあえて「大事にしてくださいね」っていう意味が
通じやすくなるということですよね。
たとえば茶道の名人みたいな人が、
どこかで石ころを拾ってきて、
「これはええなあ」ってここに置いたら、
それは意味が出るんです。
── まさしく千利休ですね。
京都の若い職人さんと話をしていて、
「聚楽土」の話が出たんです。
千利休が聚楽第からただ持って来た土を
茶室の壁にがっと塗ってよしとした。
「ただの土です」っていう話なんですが、
そういうことなんですね。
糸井 そういうものなんだよ。
誰かが、「じゃ、だったら俺の石も」「俺の土も」
といっても駄目なんです。
それを認めさせる力がないと。
今回の箸は、全部それをやってきた人が
組み合わさっていったものなんです。
自由をふんだんに扱える権利って、
王様しか持ってない。
2番目の大臣は駄目なんだよ。
でも、その王様の瞬間っていうのは誰もが持ってる、
っていうのが、ぼくの考える「俺民主主義」なんです。
三浦 僕が京都の職人たちに思うのは、
彼らの提案がどんどん取り入れられて行く、
っていうのは、
あんまりいい姿じゃないということです。
そこには未来がない気がすごくする。
やっぱりそこは耐えないと。
何かが来るまで耐えないと。
受けたものを100%以上、102%でいいんですけど、
そうやって繰り返してると、次がまた来る。
その繰り返ししかない。
スタートは受けるほうとして
ミットを持って待ってないと。
糸井 この箸のプロジェクト、三浦さんとは
じつは次のものを、考えはじめているんですよね。
三浦 はい。素材は、糸井さんも気に入って
使われているという青黒檀で作ります。
姿形は基本的には四角なんですけど、
あとはどのぐらいの細さにするかっていうところで
試作を繰り返しているところです。
糸井 とても楽しみです。
三浦 こういうこととの組立で
世の中の人に物を届けていくっていうのは、
ぜひ継続して関わらせていただきたいなと思ってます。
やっぱり彼らの背後に、
いまの若手の職人たちが控えてることもあって、
今回のように、彼らの1個上の世代の人たちとの
取組みっていうのを少しでも始めてると、
次の世代がひじょうに動きやすくなる。
糸井 大人にちゃんと頑張ってもらわないと、
若い人はついていけないですよね。
大人がちょっと拗ねてるのかもね、いまはね。
三浦 こういう職人と組むというのは、
時間はかかるんですけど、
やっぱりもうお尻叩いてでも、喧嘩してでも、
この世代の人たちとある表現をやって、
世の中に出していくところを、
次の世代に見てほしいんですね。
糸井 とてもよくわかります。
最後になりますが、
使い方に気を遣うことはないんですよね。
‥‥多少は、ありますか。
三浦 やっぱり洗剤は控えめに。
糸井 ナイロンたわしでゴシゴシとかは避ける?
軽めに洗ったほうがよさそうですね。
三浦 そうですね。そんなに神経質にならなくても
大丈夫ですけれど。
── 食洗機はやめてねという感じでしょうか。
三浦 そのレベルです。
洗剤はそんなに使わなくていいよっていう。
長く使っていただけたらと思います。
糸井 ありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いします。
三浦 こちらこそありがとうございました。
  (9月2日からは、3人の職人さんたちを
 順番にご紹介してまいります。
 どうぞおたのしみに!)
2013-09-01-SUN
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