糸井 |
そして竹ですね。長尾宗湖(そうこ)さん。
このかたは、茶杓をつくるかたなんですよね。
竹は誰か、となったとき、
三浦さんが思いついたのがこのかただったわけですか。
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三浦 |
竹はね、じつは僕たちが付き合ってる、
建築部材としての竹屋さんというのは
おおぜい、いるんです。
庭の竹屋さんもいるし。内装としての竹屋さんもいるし。
この長尾さんは茶杓、ひしゃく。
日常使いのお箸もつくっておられますが、
主に茶道具をつくられている職人です。
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糸井 |
竹の箸ってお茶に登場する場面があるんですか。
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三浦 |
あります。茶懐石ですね。
正式には杉の箸ですけども、竹の箸も使います。
茶事で使うお箸は長かったりするんですけれども、
寸法もやっぱりいろいろ、八寸、一尺、尺二っていって、
もう二寸刻みであるんですけど、
僕たちが見てて、自分が日常使うには、
この八寸っていう、24センチが、
いちばん適してるんじゃないかなと思って。
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糸井 |
デザインについては少しやり取りがありましたよね。
最初に来たのがものすごく繊細で細く、
しなやかな箸でした。
「これがいいんじゃないか」
っていう気持ちはわかったんですが、
もう少し「出かける場所」を意識したかった。
ご飯をかっこむ人もいれば、
トンカツを箸で切ろうとする人もいる、
その現実とどう照らし合わせるかっていうところで、
三浦さんとやり取りしましたよね。
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三浦 |
そうですね。
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糸井 |
そのやり取りは、長尾さんは平気だったんですか。
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三浦 |
平気です。初めに長尾さんにお願いをする時から、
リクエストに対して応えてください、
決まりきったものを作る企画じゃないんです、
ということはもう大前提でした。
ですから基本的にはこちらのリクエストは
すべて聞いていただいています。
僕たちの場合は、つい、
材料から姿形とか仕上げを考えちゃうんで、
竹の特性をより活かした形となると、
いちばん初めにお出しをした、
もう他の材料ではあり得ない、
繊細なものになったんです。
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糸井 |
たしかにカッコよかったですよね。
茶杓をつくる人が箸をつくっているということが、
すごくそのまま納得できるような形でした。
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三浦 |
あれはもう竹にしかできない姿形です。
でも糸井さんのおっしゃる理由はよくよくわかる。
特別な箸ではなくて、毎日使うんだよ、という。
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糸井 |
結局、それを鈍くしたんじゃなくて、
きれいなまんまで実用性のほうに持って行けたというのは、
今回、時間もかかったけれど、面白かったことですね。
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三浦 |
全部の技術とか、その人のセンスとかを出す
必要はないんですけど、
真四角のお箸を作った中で、
長尾さんらしい技術だったり、センスが見える。
もともとが、あまりに繊細ですから、
今回ちょっとそういう「日月(じつげつ)の面取り」を
意匠的につけさせていただいて。
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糸井 |
日月の面取りっていうんだ、これは。
これはよかったよね。
つまり愛着を持つ理由になりますよね。
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三浦 |
これは、すべての形がもちろん一緒じゃなくて、
型があるわけでもないですし、
1本ずつ、パッと、ひじょうに速い速度で
欠き取っているんです。
茶道具の中に出て来る欠き取り
そのものではないんですけど、
技術的に立体的な形状をつくる中に
こういう加工がたくさん出て来ると思います。
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糸井 |
そうなんだ。
カッコいいね。
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三浦 |
長尾さんの作業を見てると、
竹っていう素材に向き合うには
速度がいるんだなってわかります。
長尾さんの作業の姿と速度を見てると、
ひじょうに素材と合った動きをしてると僕は思って、
結果的に長尾さんの顔の見える意匠を
入れさせていただけたことは、
長尾さんにとっても
ひじょうによかったんじゃないかなと思います。
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糸井 |
そう聞くとまた面白くなりますね。
伝統の工芸みたいなところで、
新しいことをやりたい人とやりたくない人がいますよね。
必ずしも新しいことをやりたい人がいい人なんじゃなくて、
やりたくないっていう人とやりたい場合もありますよね。
そのあたりの加減は、プロデュース的に面白いですね。
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三浦 |
そういう意味ではひじょうに頭の固い人たちというか。
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糸井 |
もともとがね。
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三浦 |
もともとひじょうに固いし、
超一級の固いものも作れる人たちなんで、
そういう人と仕事をするのは、
正直、やり取りも多くなるし、
ぶつかる部分もたくさん出て来るんですけど、
それがね、僕らに
期待されてることのような気がするんです。
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糸井 |
三浦さんが触れているのは、
全部そういうタイプの人ばっかりですね。
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三浦 |
そういうタイプばっかりです。
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糸井 |
この真竹に決まるまでに
「煤竹(すすたけ)」というのも見せていただきましたね。
「煤竹は無理だ」っていうところから
始まったとも言えます。
‥‥どのぐらい無理なんですか。
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三浦 |
やっぱり丸が一つ変わります。
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糸井 |
単純にそうなんだ!
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三浦 |
単純に高い。
けれども、いいんですよ。
そういう意味では材質そのものがビンテージで、
1本もので、姿が全部違う。
どこに煤竹の縞が入っているかが、
自分にしかないっていうのは、
特別なお箸にとってはすごくいい素材だと思いますけど、
加工の姿形が違うっていうのはやっぱり不細工だし、
今回のプロジェクトには合わないと思いますね。
選択肢としては、安全な素材としては煤竹と、
こういう真竹と二つありますけど、
その間に染竹っていう、圧力と熱を加えて、
煤竹色にするものもあるんです。
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糸井 |
染めちゃうんですね。
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三浦 |
そうなんですよ。
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糸井 |
圧もかけてるんですね。
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三浦 |
そうですね。でも、それはやっぱり、
口につけるということを含めて、
もう初めから選択肢にない。
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糸井 |
でも、いくらでも売ってますよね。
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三浦 |
売ってますね。お箸じゃなければ
問題があるレベルではないので、たくさん使っていい。
僕らも建築資材に使ってるんですけど、
今回は選択肢から省きました。
だから、竹としてはもう二択なんです。 |
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(次回、最終回は、仕上げのこと、
そして京都の職人さんの話です。) |