わたしのおはし
拭漆 塗師 東端唯ひがしばたゆいさん
京都で漆工芸(蒔絵師)の家に
生まれ育った東端唯さん。
高校卒業後、漆芸を基礎から習得したのち、
大学でデザインを学びました。
若き「塗師(ぬし)」である東端さんのふだんの仕事は、
ホテルのインテリアや家具製作など、
大きなものがほとんど。
じつは、竹箸に拭漆をほどこすのは、
はじめてのこころみでした。
竹屋さん(長尾さん)のつくられた箸に、
漆を塗ってみたらどうだろうか、と、
三角屋さんから依頼を受けました。
拭漆というのは、字のごとく、
塗ってからそのまま拭き上げる手法です。
表面を拭いても、
奥のほうには漆が入ってるんですよ。
オイルステンとか、オイルフィニッシュみたいな、
ああいう感じです。
一般的な漆は、塗りっぱなしで、
地の質感がほとんど出ませんが、
拭漆は、木地の良さを
よりよく引き立たせることができます。
漆の効果としては「塗り」と同じです。
腐りにくくしたり、水に強くするということです。
竹の目を殺さずにそれができるのが拭漆です。
ただし、竹の表面だけは、漆が染み込みにくい。
ですからそこは残して、他の面すべてに
拭漆をほどこしました。
サンプルで何色か、濃い・薄いを作り、
まったく塗ってないものとくらべて、
この濃い色に落ち着きました。
1本ずつ手作業です。
そして1回だけじゃなくて、
3回塗って、3回拭きあげます。
1回目は木地に吸い込ませるための作業。
2回目は色を付けるための作業。
3回目は艶をつけるための作業です。
1本ずつ拭きあげる理由は、大量にやっていくと、
どうしても拭きムラが出るからです。
やっぱり1本1本、
塗っては拭きあげていかないと、
きれいに仕上がらないんです。
作業時間は、1本1分ぐらい。
けれども乾かすのに1晩から丸1日置いときます。
湿度80%、温度20度の環境の乾燥室に入れます。
完成したあとも、製品として出すために、
しっかり乾かさないとなりませんから、
2週間以上は寝かしています。
拭漆には、上生漆っていう、生の漆を使います。
もうほとんど木から採りたての漆ですね。
木から採って、ある程度かすを取って、
水分を多少抜いたものです。
これが漆刷毛(うるしばけ)です。このお箸も、
これを使って塗っています。
普通の刷毛でもいいんですけど、
この漆刷毛を使うのは、
漆が薄く均等に塗れるからです。
この低い作業台がパレットがわりになります。
むかしの職人さんはもっと低い盆台を使っていましたが、
ぼくは身長にあわせて少し高くしています。
上生漆は、最初、こんなふうにクリーム色なんです。
ヘラで掬って混ぜると、だんだん黒に近づいていきます。
最初は漆刷毛を押し広げて埃を出します。
とともに、刷毛が固まらないように塗ってある油が、
塗るときに混ざらないように掃除をするんです。
そうして埃や油の混じった漆は捨てて、
あたらしい漆を薄く付けて塗ります。
3方塗ってから拭き上げます。
絶対に1方向です。
そしてすぐにしっかり拭きます。
最後にはみだした漆を、
逆方向からもういちど拭きます。
両方の小口は最後に、乾かした後で塗ります。
作業は、集中力が切れるまでやるんですけど、
多い時で1日、300膳くらいかな。
お箸ってやっぱり毎日使うものだから、
漆もはげていきます。
それはもうどうしようもないです。
けれどもメンテナンスが効くというのが、
漆のいいところなんです。
塗り直しができるんです。
もともとは茶道具をつくっていました。
けれども、仕事の数はどうしても減ってきています。
茶道具というのは楽しいんですけど、
だいたい奥にしまわれてるものですから、
どんどん使ってもらえる普段使いのものが
つくりたいと思うようになりました。
この、竹のお箸に拭漆っていうのは、
初めての体験ですけれど、
とてもうれしく思っています。
大事にしまうというよりも、
普段、気軽に、さり気なく使ってもらいたいと思います。

次回は「桐」。北地明郎さんのところに伺います!
2013-09-03-TUE
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