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「わたしのおはし」の箸箱は、
むくの桐材でつくられています。
基本は、くり貫き。
側板から底板がひとつにつながっており
丸く削られているので、隅にごみがたまるのを防ぎます。
そして、蓋がかちりと閉まるように、
端板と蓋の重なる部分には小さな磁石を埋め込んでいます。
一見シャープに見える外観も、
角の面取りがされているのと、
中央部分がゆるやかにふくらんでいるので、
全体的に、ふくよかで、やわらかな印象をもっています。
この桐箱を考えたのが、北路明郎さん率いる
北路桐材店のみなさんです。
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箸箱を桐にしようと思った理由は、
やっぱり、手触りですよ。
この感じは、他の木では絶対あり得ない。
これ、アンリさんの革じゃないけど、
やっぱりね、どんどんよくなりますよ。
傷は付くけれど、汚れじゃなくて、
自分のものになっていくし。
このあったかい感じもね、他ではあり得ない。
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触ってみると、全然違いますやろ?
桐は、物理的な言い方をすると、
熱伝導効率が日本の木の中で一番低いんです。
自分の熱がすぐに返っちゃうんで、
触るとあたたかいんですね。
桐の下駄履くと、他の下駄履けないっちゅうのは、
これのことですな。
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普通はね、「桐の木、触らなんといでください」って、
家具屋さん行くと言われる。
桐の木は、手垢が付くのが
当たり前だと思われているんですね。
私も昔は「桐の木は触らん所に使いなさい」
と言われました。
落とし掛けや欄間板に使ったんですね。
それを、私、もうまったく反対にしてしもうて、
「触ってみてください」っていうところにも使います。
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自慢しますけど、私のところは、
みんな、素手で触ってくれてかまわない。
別に秘密ってことでもないんだけど、
「これ、いつ頃引いた木やったかな。忘れたでぇ」
ちゅうくらい、時間をかけているからなんです。
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桐の木の製品って本当にもう真っ白けの、
なんか青臭いのが多いんですけど、
そういうのは原木からすぐに製材をしてるんですね。
漂白剤で処理をしているのも多いです。
だから手垢がつくんです。 |
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いろんな桐の木がありますね。
こういう杢(もく)が出た木もありますし、
初めからストレートなスーッとした木もありますし。
まぁ人間みたいなもんですね。
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いいもんは、原木のまま、
皮がずる剥けになるくらい置いておくんですね。
それから割っておいて、いいやつはまだ3年ほど置いて。
それから、製材して、アク出しして。
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アク出しっていうのは、雨当てて乾いて、
雨当てて乾いてを繰り返すうちに、
中のアクが表面へ出て来る。
だから桐屋は「誘い水」って言います、雨のことを。
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私ら、本来は材料屋なんですね。
大正5年に私の祖父さんが起こして、
親父が大きくして、私がそれを継いでる。
細く、切れへんように。
息子で4代になりますが、
じつは箸箱っていうのは初めてなんです。
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材料を売るのが私の商売ですから、
こういうものを作るっていうのは、
仕事の1割にもなりません。
こうして置いてある箪笥も、
材料で置いておくか、製品で置いておくかの違いで。
ただ時々、材料ばっかり売ってても、
おもしろうない時ありましてね。
たまに、思いつきでものをつくります。
うちの親父によう言われましたな、
「あれは思いつきや」って(笑)。
それでも、北路行って、こんなん見て来たとかね、
こんなんがあったっていうふうに
覚えておいてもらうのが嬉しくて。
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その大昔、北大路魯山人が家の床板を
桐でやられたことあるんですよ。
桐の床は、傷もつきますが、
へこんだところに、
濡れ布巾当ててアイロンをかけるとね、
元に戻ります。
繊維が切れちゃうと駄目ですけど、
丁寧に使えばほんとうに長持ちする素材です。
この箸箱も、長くお使いいただけたらと思います。
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