「気軽に飲めて、からだにもよくて、
しかもおいしいジュースを作りたい」
そんな思いから、ほぼ日食品チームの
メンバーを中心に発足した「畑deしぼり」チームは、
春、夏、秋、冬と約1年かけて、
つくば市のベルファームさんの畑を訪れました。
初夏には糸井と「鍬入れ式」も行ったんですよ。
ベルファームさんとの出会いから、
ほぼ日オリジナルジュースができるまでを
ぎゅっとしぼった全3回でお届けします。

第1回 ベルファームさんの畑へ。2021-01-20-WED
第2回 初夏の鍬入れ式。2021-01-21-THU
第3回 収穫のとき。2021-01-22-FRI

第2回
初夏の鍬入れ式。

2020年6月、
この日は糸井重里と一緒に農場を訪れました。
糸井はベルファームさんのジュースのファンで、
野菜やフルーツのジュースを
個人的に買い続けているのです。

▲「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

鈴木農場長の案内のもと
畑に向かっている途中、
糸井が道端の紫色の植物に目をとめました。

「この花も植えているんですか?
すごく匂いがいいですね」と糸井。

農場長が説明してくださいます。

「この花はキャットミントというハーブの仲間です。
モンシロチョウたちがこのハーブに寄せられるので、
作物の虫除けになるんです。
よその畑に虫がいくのを防止する目的もあります」

▲薄紫色の花が美しいハーブ「キャットミント」。

「もうひとつ、キャットミントを植えた
一番の目的は、草刈りをしなくてすむからなんです」

「植えると広がるからですか?」

「そうです。ひと株で1メートルくらい
広がるので、他の草があまり生えないんです。
これを生やすことによって、
一番大変な草刈りの時間を短縮して、
そのぶん畑に時間を投入しています。
見た目にもきれいだし、
除草剤も必要なく、環境にもいい。
柵がわりにもなります」

通りがかる人の目も和ませつつ、
虫の被害をできるだけ少なくするアイデア。

農場長はこちらの農場にいらっしゃる前に、
ハーブ園で長年働かれていた経験があるそうです。
農場長と話していると、
このキャットミントだけでなく、
独創的なアイデアが
いくつも施されていることに気づかされます。

この日も、まずはケール畑を見学しました。

▲「ずいぶん大きいなぁ」と糸井。

ベルファームの鈴木社長もいらっしゃって、
一緒に畑を案内してくださることになりました。

「よく見て行ってくださいね。
ふつうは風が吹くと砂埃が舞うんだけど、
どんなに風が吹いても、
うちの畑は埃が立ちにくいんです。
これは、畑が生きているからです」

▲ベルファーム社長、鈴木靜夫さん。

鈴木社長は30年以上前に
大病をなさったあと、青汁作りを決意。
畑を作り、工場を建て、
始めから終わりまで一貫生産する方法を
一から模索してきた方です。

鈴木社長がおっしゃいます。

「生きているものを殺さない、というのが、
私の使命だと思っているんです。
だから、化学合成農薬も一切使ってないです。
虫に食われるってよく言うけど、
虫に食われるほど弱い作物を作っちゃだめ。
虫が出たらハチやクモやスズメが食べてくれるし、
殺すんじゃなくて来ないように知恵を絞ればいい。
そうすると、伸び伸びと育って、
こんなに大きなケールになるんです」

「まあ、そうは言っても、
虫はやっぱり多いし、
雑草はどんどん生えますけどね」と農場長。

炎天下での草取り、虫取り、
農場長やスタッフのみなさんが
汗だくで作業されている様子を、
訪れるたびに目にしました。

つまり、鈴木社長の強い信念に、
農場長たちの努力が重なって、
このすごい野菜たちが
できているということ‥‥。

糸井が質問します。
「青汁は一年中作られているんですか?」

「はい。作ってほしいという声をいただくので、
一年を通して作っています。
ただ、夏に採れるケールは苦味が強いんですよ。
冬のほうが甘みが増しておいしいです」

▲この日はとても暑い日でした。いただいたケールの葉を日傘がわりに。

さて、糸井がこちらに伺ったのは、
ひとつの目的がありました。
これから「ほぼ日の野菜」を育てていただく、
まさにその畑で、「鍬入れ式」を行うのです。

ご存知の方も多いかと思いますが、
「鍬入れ式」とは、開墾や植樹の際に、その土地に
鍬を入れる儀式のことを指します。

▲手際よく、農場長が山を作ってくださって。

▲糸井が鍬を山に‥‥。

▲鍬入れ式、完了!

安全な農作業と、
元気な野菜が育ちますように、と願いをこめ、
無事に鍬入れ式が終わりました。
このあと、何ヶ月もかけて
私たちのにんじんとハニーケールを
この畑で育てていただくことになります。

「よかったら、にんじんや玉ねぎを
持っていってください」
ベルファームさんは、いつ訪れても、
そのときどきの旬の野菜を
どっさりお土産に持たせてくださいます。
それらの野菜を食べると、
おいしくてびっくりする上に、
なんだか畑そのものの栄養やエネルギーが
しみわたっていくような気持ちになります。

▲見事なまでに大きなにんじん!

▲次は玉ねぎ畑へと進みます。

「どうぞ食べてみてください。
玉ねぎだから辛みはもちろんありますけど、
嫌な辛みはないです」
そうおっしゃる鈴木社長、
自ら玉ねぎを丸かじり‥‥!

▲「自分で食べておいしいものをお客さんに出しなさいと常に言ってるんです」
と鈴木社長。

「いただきます。
ぼくはこういう丸かじり経験、
結構あるんですよ。
昔、永田農法の永田先生について
日本中の畑を回ったことがあるんです。
それはとてもたのしい経験でした」と糸井。

▲とはいえ、生の玉ねぎは、さすがにちょっと辛みが‥‥。

「すごく立派な玉ねぎですけど、
この肥料はやっぱり自家製なんですか?」
糸井の質問に、鈴木社長が答えます。

「ほとんどが自家製です。
うちで菌を発酵させているんですが、
土の中の微生物、
目で見ることはできない彼らが
自家堆肥の有機物を発酵分解して
栄養分に変えるんです。
目に見えないからすぐには分からないけど、
そのことを信じてやってきました。
ぼくらはおいしさと安全だけを供給します。
買ってくれたお客さんが、
あぁ、これは安心だねって感じてくれること、
それが第一なんです」

▲30年、土と向き合ってきた鈴木社長の言葉にはひとつひとつ重みがあります。

そんなベルファームさん自慢の畑、
自家製堆肥で作っている土は、
手を入れるとあったかく、
ベッドのようにふかふかで、
ひとたび棒をさせば、どこまでも入っていく‥‥とのこと。

「そこに棒があるから、ぜひやってみてください」
鈴木社長に促され、
糸井がチャレンジすることに。

「下のほうを持って、ぐっとさせばすんなり入ります」
そんなふうにアドバイスを受けながら‥‥。

▲「よっ」

▲「よいしょっ‥‥あれ、何かかたいところにぶつかった」

「大丈夫、入る、もっと入るよ!
もうどこまでも入るから」
鈴木社長が大声で声をかけます。

▲その言葉通り、どんどん入っていきました。「驚いた。こんなに深いんだ!」

「畑に底なしって言葉があるけれど、
微生物が作るこの土はふかふかで、まさに底なし。
無肥料畑に種をまいて苗を作るんですけど、
その苗を植えるときに、
穴を掘って水をたっぷり入れるんです。
その水が下へ行きますよね。
下へ行けば水が取れるってことを根が記憶するんです。
自分で水を取ってこなきゃ生きられないから、
1メートルも2メートルも
自分で取ってくるようになる。
人間は何をするかって言ったら、
彼らの環境を整えるだけです」と鈴木社長。

▲いろんなことを学び、ベルファームさんの事務所に戻ります。

▲初夏に白い花を咲かせるエルダーフラワーが満開でした。

ベルファームさんの事務所では、
しぼりたてのメロンジュースを
出していただきました。

▲「あぁーっ、うまい。完璧」

「おいしいです。
すごくあまくて、すっきりとしていて‥‥」

鈴木社長は、にこにこして、
こうおっしゃいます。

「よく見てもらうとわかるんですけど、
ジュースが濁ってないでしょ?
ミキサーで撹拌すると濁ってしまって、
こういうふうにきれいにはならないです。
うちの搾り機だと、これができるんです。
機械もひとつひとつハンドメイドで作ったんですよ。
どこにも売ってない。
だから、あんまり機械屋さんには
見てほしくないです(笑)」

「すばらしいですね。
さきほど畑を案内していただきましたけど、
はじめから先を見越して、
ここにたどり着こう、と思って
取り組まれてきた社長もすごいし、
農場長も野菜を育てるのに
命をかけているのが伝わってきましたし。
にんじんもハニーケールも、
ジュースになるのが本当にたのしみです。
どうか、よろしくおねがいします」

▲また来ます、の思いをこめた糸井専用の長靴。

(つづきます)

2021-01-21-THU