きのね堂のおかしができるまで。
          きのね堂の「根っこ」のはなし。
神保町の小さな通りに、
行き交う人たちが
「今日は開いてるかな?」と
密かにチェックしているという
クッキー屋さんがあります。
お店の名前は「きのね堂」。

素朴だけどしっかりした味わいの焼菓子は、
一度食べると必ずまた、
ふとしたときに「あれが食べたい」と
思い出すようなおいしさ、といいます。

そんな「きのね堂」と「ほぼ日」がいっしょに
焼菓子のセットを販売することになったので、
店主の中里 萌美(なかざと もみ)さんに、
おいしいおかしができるまでの
ストーリーを聞いてきました。

第一次産業をめざした高校時代

2023.09.21
――
今日は店休日に開けてくださって、
ありがとうございます。
中里
いえいえ、
神保町まで来ていただいて。
――
実はこの場所は、ほぼ日から近いんです。
乗組員のみんなもきのね堂さんのおかしが好きで、
買いに来るチャンスをいつも狙っています(笑)。
いつかなにか一緒にできたらいいなと
思っていたので今回はうれしいです。
中里
ありがとうございます。
よろしくおねがいします。
――
早速ですが、「きのね堂」という名前は
木の根が由来ですか?
中里
はい、そこからきています。
気持ちの根っこというか、
土台が大事だなと思ってつけました。
作る過程で自分がなにを選択するのかとか、
なにをもってそれを始めたのかというような、
「根底の部分」ですね。
――
根底の部分。
中里
はい。
私は作ることも好きなんですけど、
生き方としても、
循環することや、持続可能な選択を
大事にしたいなとつねづね思っていて。
そのために、
ものの選び方でも食材の選び方でもなんでも、
自分が「いい」と思うものを取り入れていきたい。
そういうやり方が私には合っているなと思っています。
自分の生活の中だけでそうしてもいいんですけど、
仕事としてできれば
自分の表現にもなっていくかなと思いました。
なので最初は、
第一次産業を仕事にしたいと思っていたんですよ。
――
農業とか、林業とか、漁業とかの。
中里
はい。
高校を卒業したら自給自足をしたいと思っていて
まずは食べ物を作れたらと考えました。
これは今も思っていることですが、
「衣食住を自分自身で作れたら、
お金も要らないし、回していける」と思って。
だけど実際に有機の専業農家さんで
3週間ほどお手伝いさせてもらったときに、
楽しかった反面、
ひとりでやるのは向いていないと思いました。
そんなふうに、向いていないものを消去していき、
材料を使って「作る」ほうで携わっていきたいなと
やんわり思い始めたのが、はじまりです。
――
食べものを作る側で。
中里
はい。
おかしをつくるときには、
より安心できる食材や、
なくならないでほしい農作物、
調味料を選びたいと思っています。
ただ、その中でも、
例えば伝統的な製法で作られたような食材は、
手間がかかる分、値段もはる傾向にあるので、
おかしの材料には向いていないこともあります。
それでも使いたくて選んでる材料もありますが、
そこはうまくバランスを取っていきたい。
そのためには
食材をちゃんと知らないといけないと思っています。
自分がおいしいと思う食材を選んで、
そこにお金を使えば、応援につながりますから。
まあ、でも、
ただ単純に好きなことを運よく仕事にできたので、
ありがたいです。
――
いや‥‥、たしかに運も大事ですが、
運だけでは仕事は続けられないですよね。
中里
いえいえいえ、でもほんとに運なんです。
お店を持つことも目標にしていなかったですし。
なんというか、のびのびと
ただ「作りたい」っていう気持ちで
続けていけるように、やってきました。
――
中里さんは、東京生まれですか?
中里
そうです、東京生まれ、東京育ちです。
――
つまり、ものがたくさんあるところで
育ったわけですよね。
中里
はい、はい。
――
そういうところで育ってきて、
10代で第一次産業に関わりたいと思ったのは
なにかきっかけがあったのですか?
中里
私は中学のときに不登校になって
立場がマジョリティから
マイノリティになったように自分で受けとめ、
生活に新しい角度が加わって、
視野が広がったと思います。
いま振り返ると大切な分岐点だったけど、
当時は学校が世界の全てという年歳なので、
なんだかすごく
ドロップアウトしてしまった気持ちになって悩みました。
さらに、進学した高校もちょっと変わっていて、
競争社会とか学力主義的ではない教育というのかな。
「答えはひとつじゃない」とか、
「答えを〇と×でわけることが一人ひとりの
評価にはつながらない」
というような考えをしている学校だったんです。
そこで考え方も変わっていったと思います。
学校では畑やものづくりに興味を持っている人も多くて、
そこで影響されて、
第一次産業に興味を持ち始めました。
その中で自然と農業についても知っていきました。
――
その頃、おかしは作っていなかったのですか?
中里
たまに焼いて学校に持っていってました。
友人もよく作っていたので、
もらったおかしがおいしくて真似して作ってみたり。
ストレス発散にもなっていたと思います。
でもそのころは、
「お金を使わない生活を確立したい」ということを
よく考えていました。
――
畑をやりたいと思ってた頃だから、ですね。
中里
そうなんです。
だからいろんな農家さんを訪ねたりしていました。
やっぱり農作物って自然のものだから
ちゃんとできたりできなかったりするんです。
だけどみなさんすごく丁寧に、愛を注いでいました。
私みたいに「興味のある人」にも温かくて
惜しみなく教えてくれる方ばかりでした。
あれはひとつの原点だと思います。
――
いまにつながる体験だったんですね。
中里
はい。その経験から、おかしをつくるときは
共感や尊敬する作り手のものを選びたいですし、
増えていけばいいなと思います。
ただ、それだけしか使わないというわけではなく、
安定して供給される食材も選びます。
焼き菓子には不可欠な小麦粉などがそうです。
そこでは、無農薬ではなくても国産のものだったり、
ポストハーベスト(収穫後に薬剤を散布すること)
でないかどうかで選んだりもしています。
そこはバランスかなと思っ ています。
そのバランスの中で
より共感できる食材を増やしていくことが
目標のひとつです。
――
そう思って店内を見ると、きのね堂さんは、
ことさら「この農家のこれを使ってます」という情報は
押し出していないですよね。
そういう貼り紙もないし。
中里
そうですね。
私は、そういうことは、
自分で気づいて、調べて、知る、
というのが大事なのかなと思っています。
自分で気づくことの価値ってあるので。

もちろん「オーガニック」とか「ヴィーガン」とか
謳うことができるおかしもあるんですけど、
そういう情報で選ぶよりも、
食べておいしくて、裏の表示ラベルを見て、
「あ、こういう食材でできるんだ」と知って、
調べてみて‥‥みたいな伝わり方が自分には心地がいい。
それが自分の生きやすい社会をつくることにも
つながっていく、という感じです。
――
まさに循環ですね。
中里
「きのね堂」の「根っこ」の意味は
そういう感じです。
そうやって、
きのね堂はものを選択しています。
(つづきます)
2023-09-21 THU
イラスト:ZUCK
商品写真:有賀傑

一度食べるとまた食べたくなる‥‥ きのね堂の「焼菓子セット」を
お届けします。

「ほぼ日のおかし」シリーズより
おいしい焼菓子の詰め合わせが登場します。
東京・神保町にあるクッキー屋さん、
「きのね堂」に秋にぴったりな味わいの
オリジナルの焼菓子セットを
つくっていただきました。
お店で定番人気のサブレと、
ピーナッツやクルミなどのナッツがごろごろと入った
秋らしい4種の焼菓子を組み合わせた
ここだけのセットです。
今回は特別にデザインした掛け紙に包んで
みなさまのお手もとにお届けします。
コーヒーや紅茶と合わせるのもおすすめです。
素朴だけどしっかりとした味わいのクッキーで
おやつ時間をお楽しみください。

きのね堂の焼菓子セット3,200円(税込)

2023926日(火)午前11
きのね堂の焼菓子は、ひとつひとつが手焼きのため、
生産量が限られます。
このたびの販売は、
出荷時期を「9月27日~10月31日出荷分」の間、
6回に分けてお届けいたします。
「きのね堂」の焼菓子セット
~5種類のおかしの詰め合わせ~
きのね堂の定番人気のサブレと、
秋らしい味わいのクッキーをあわせた
ここだけのセットです。
それぞれのおいしさを損なわないよう、
種類ごとに包装し、詰め合わせました。
  • メープルサブレ

    メープルサブレ
    やさしい甘みでシンプルな味わいの
    「きのね堂」定番の人気焼菓子です。
    表面にメープルシロップを塗って仕上げました。
  • アーモンドとチョコの酵母スコーン

    アーモンドとチョコの酵母スコーン
    ローストアーモンドがゴロッと入った、
    中はしっとり、外は香ばしい、
    クッキーのように「ギュッ」とした食感。
  • ヘーゼルナッツとコーヒーのサブレ

    ヘーゼルナッツとコーヒーのサブレ
    パウダー状にした
    ローストしたてのヘーゼルナッツと、
    コーヒーを合わせて焼き上げました。
    ふんわり甘く、リッチな味です。
  • ピーナッツクランチ

    ピーナッツクランチ
    ピーナッツをたっぷり味わえるクッキー。
    濃厚でざくっとした食感をおたのしみください。
    ちょこっと乗った塩がアクセント。
  • クルミのクッキー

    クルミのクッキー
    大きめに砕いたクルミをたっぷり入れて
    食感をたのしめるよう、
    ごろっと厚めに焼き上げました。

きのね堂

住所
東京都千代田区神田神保町1-32-22 1F
https://www.instagram.com/kinonedo/
イラスト:ZUCK
商品写真:有賀傑