きのね堂のおかしができるまで。
          きのね堂の「根っこ」のはなし。
神保町の小さな通りに、
行き交う人たちが
「今日は開いてるかな?」と
密かにチェックしているという
クッキー屋さんがあります。
お店の名前は「きのね堂」。

素朴だけどしっかりした味わいの焼菓子は、
一度食べると必ずまた、
ふとしたときに「あれが食べたい」と
思い出すようなおいしさ、といいます。

そんな「きのね堂」と「ほぼ日」がいっしょに
焼菓子のセットを販売することになったので、
店主の中里 萌美(なかざと もみ)さんに、
おいしいおかしができるまでの
ストーリーを聞いてきました。

おかしがひろげる世界

2023.09.22
――
第一次産業への興味から始まって、
中里さんはどうしておかしを
作るようになったんですか?
中里
ねえ。ほんとに。
他にできなかったんですよ。
やれることがあまりなくて。
――
おかしとはいつ出会ったのですか?
中里
高校を卒業して最初に働いた長野のお店です。
ペンションのレストランだったのですが、
おかし担当がいなくなるということで、
声をかけてもらいました。
でも当時19歳で、
アルバイトもしたことなかったんですよ。
それも伝えたんですけど、
「やる気があればいいよ」と言ってくださって。
実際、やる気だけでは足りず
たくさんフォローしてもらいましたが。
――
調理学校に行ったわけでもないんですよね。
中里
そうです、そうです。
さすがにすごく練習しました。
でも当時のシェフがわりと自由にやらせてくれる方で。
自分の作ったものを
お客さんがお金を出して食べてくれるという経験を
19歳でできたのは大きかったです。
――
でもなぜ未経験の中里さんが、
誘われたのですか?
中里
そのペンションは高校生のときに友人と、
何回か泊りに行ったんです。
そこは持続可能な生活を実践しているところで
気持ちよかったので、
いつか働きたいと思っていました。
でもそれは、経験を積んで、
自分が働き手として使えるようになってからの話で。
――
技術を磨いてから。
中里
そうです。
そのつもりだったんですが、
あるとき、一緒に行った子がシェフに、
「この子、ここで働きたいそうです」と話して、
シェフに
「空きあったら連絡する」
と言われて、その半年後ぐらいに連絡が来ました。
――
へえー!
中里
運がよかったんです。
そこでおかしを1年焼きました。
コースディナーの最後のデザートとか、
焼菓子の詰め合わせとか、
いろんなパターンのおかしを作らせてもらいました。
その中でも、クッキーを作って詰めて販売するのが
一番楽しかったんですね。
――
クッキー、どういうところが楽しかったですか?
中里
クッキーの工程、全部です。
始めた頃から今もずっと楽しいです。
私はもともと飽き性で、
続かなかったことがたくさんあるんですけど、
おかしを焼くことだけは、10年続けても飽きません。
よかったです、そういうものを見つけられて。
――
長野のお店で1年働いた後、
きのね堂はどうやって始めたのですか?
中里
帰ってきたときは、
東京に長くいるつもりはありませんでした。
水がきれいで、空気がきれいで、食材も新鮮なところで、
仕事をしたいなと思っていて。
「どうしようかな」と考えながら、
全国の、サステナブルな取り組みをしている
シェフのお店に行ってみたりもしました。
でも、その一方でなんとなく、
実家にいたらお金も使わないし、
あまり働く意味はないなと思ったりもしていて。

その時期、友人に会うときに
おかしを作って食べてもらったりしていたんです。
そしたら友人のお母さんが
アトリエを持っている人で、
「うちに来る人たち、絶対このおかし好きだから、
作って持ってきてみたら?」
と言ってくれました。
作って包装して持って行ったら、
本当にみんながその場で喜んで買ってくれて、
すぐ売り切れました。
しかもその場で食べてくれて、
「おいしい」「どうやって作るの?」とか声をかけてくれて、
おかしを焼くのも楽しくて、包装するのも楽しくて、
お金までもらえて、こんなによろこんでもらえて、
「え!? 楽しいことしかない!」
「これを仕事にしよう」と思いました。
とにかく楽しかったんです、全部が。
――
わ、きのね堂の始まりですね。
中里
そうですね。
まずはお金をかけずに始めたい、と思って
いろいろ考えていたら、
ふと、以前バイトでお世話になったお店の社長が、
キッチンスペースを
「ゆくゆくは、地域の人にも使ってもらいたい」
と話していたのを思い出しました。
それで連絡を取って、
働く代わりに1日貸してもらえませんかと
相談しました。
――
ほお!
中里
そしたら1日働く代わりに1日貸してくれることになって。
最終的には労働時間以上にたくさん貸していただいて。
そこでは3年ほどお世話になりました。
その後は、恵比寿のマンションの1室を借りて、
保健所の許可を取って、5年ぐらい。
そういう感じでちょっとずつ、始まりました。
――
販売はどのようにして始めたんですか?
中里
最初は、注文をもらったら作るような感じでした。
友人のお母さんに頼まれたり、
あとはアルバイト先でこの話をしたら、
「えー、買いたい!」と言ってくれて、
毎週5袋とか10袋とか、
買い続けてくれる人もいました。
――
毎週、そんなに。すごい。
注文はオンラインで?
中里
メールで、
「今週のラインナップはこれです」って送ると、
「じゃあ、これでお願いします」と返信をくれて、
それを紙に書き出していました(笑)。
――
なかなか地道な手順‥‥!
じゃあはじめは、限られたコミュニティだったんですね。
中里
そうなんです、そうなんです。
でもB5のメモ帳が一枚埋まるくらいの注文を
毎週作ってました 。
そんなことにはなると思わなかったんですけどね。
そのときに出会って、今も繋がっている友人もいます。
――
そこからいまのように広がっていったのは、
なにかきっかけがあったのですか?
中里
いろんな人におかしを知ってもらえたのは、
「FOOD&COMPANY」に置かせてもらったことだと思います。
――
オーガニックの野菜などを販売している
食料品のお店ですね。
私も新宿駅のお店をけっこう利用しています。
中里
アルバイト先でおかしを買ってくれていた友人が、
オープン準備中だったFOOD&COMPANYの代表に、
紹介してくれたんです。
それで、おかしを置いてもらうことになって、
一気にいろんな人に知ってもらえました。
(つづきます)
2023-09-22 FRI
イラスト:ZUCK
商品写真:有賀傑

一度食べるとまた食べたくなる‥‥ きのね堂の「焼菓子セット」を
お届けします。

「ほぼ日のおかし」シリーズより
おいしい焼菓子の詰め合わせが登場します。
東京・神保町にあるクッキー屋さん、
「きのね堂」に秋にぴったりな味わいの
オリジナルの焼菓子セットを
つくっていただきました。
お店で定番人気のサブレと、
ピーナッツやクルミなどのナッツがごろごろと入った
秋らしい4種の焼菓子を組み合わせた
ここだけのセットです。
今回は特別にデザインした掛け紙に包んで
みなさまのお手もとにお届けします。
コーヒーや紅茶と合わせるのもおすすめです。
素朴だけどしっかりとした味わいのクッキーで
おやつ時間をお楽しみください。

きのね堂の焼菓子セット3,200円(税込)

2023926日(火)午前11
きのね堂の焼菓子は、ひとつひとつが手焼きのため、
生産量が限られます。
このたびの販売は、
出荷時期を「9月27日~10月31日出荷分」の間、
6回に分けてお届けいたします。
「きのね堂」の焼菓子セット
~5種類のおかしの詰め合わせ~
きのね堂の定番人気のサブレと、
秋らしい味わいのクッキーをあわせた
ここだけのセットです。
それぞれのおいしさを損なわないよう、
種類ごとに包装し、詰め合わせました。
  • メープルサブレ

    メープルサブレ
    やさしい甘みでシンプルな味わいの
    「きのね堂」定番の人気焼菓子です。
    表面にメープルシロップを塗って仕上げました。
  • アーモンドとチョコの酵母スコーン

    アーモンドとチョコの酵母スコーン
    ローストアーモンドがゴロッと入った、
    中はしっとり、外は香ばしい、
    クッキーのように「ギュッ」とした食感。
  • ヘーゼルナッツとコーヒーのサブレ

    ヘーゼルナッツとコーヒーのサブレ
    パウダー状にした
    ローストしたてのヘーゼルナッツと、
    コーヒーを合わせて焼き上げました。
    ふんわり甘く、リッチな味です。
  • ピーナッツクランチ

    ピーナッツクランチ
    ピーナッツをたっぷり味わえるクッキー。
    濃厚でざくっとした食感をおたのしみください。
    ちょこっと乗った塩がアクセント。
  • クルミのクッキー

    クルミのクッキー
    大きめに砕いたクルミをたっぷり入れて
    食感をたのしめるよう、
    ごろっと厚めに焼き上げました。

きのね堂

住所
東京都千代田区神田神保町1-32-22 1F
https://www.instagram.com/kinonedo/
イラスト:ZUCK
商品写真:有賀傑