毎年春、SIRI SIRIとほぼ日でつくる
パールのジュエリー、HOBO SIRI SIRI。
2023年で7年目を迎えます。



コンテンポラリージュエリーとして、
エッジのきいたデザインが特徴のSIRI SIRIに、
少しやわらかいチューニングをくわえたのが
HOBO SIRI SIRIです。



2023年は、いつものパールのジュエリーの他、
あたらしくガラスのジュエリーも加わる予定です。



この7年で、変わったこと、変わらないこと。
ブランドとしてのSIRI SIRIのこと、
今とこれからのこと、
あたらしいコレクションのことなどを
デザイナーの岡本菜穂さんが話してくださいました。

02

素材との出会い、

作り手との巡り合い
江戸切子や籐などの素材を使い、
製造を工芸の職人さんに依頼しているのも
SIRI SIRIのジュエリーの特徴のひとつです。
そこには、どんな出会いがあったのでしょう。


人になじむ、有機的なニュアンス
私、作るものについてお話しするときに
調和とか有機的、っていう言葉が多いですね、
って言われることがあるんですけれど。



そもそも、人間って有機物じゃないですか。
そこに、あえて無機質的なものを
合わせることもできますけれど、
やっぱり有機的な要素を少しだけ残すと、
こう、コンセントのように繋がるというか。
ともすれば削ぎ落としちゃいそうなところを、
大事にするように心がけています。



工業製品みたいなものは、たくさん作ると、
きれいに、均一なものができますけれど、
何かあまりにも遠すぎる気はして、人体と。
やっぱりジュエリーって、
何時間も、1日中つけるものだと思うので
デザインをするうえでは、そこは意識しますね。



ふだんのSIRI SIRIは手工芸で作ってるものが多くて、
手工芸って、そのものにゆらぎがあるんですよね。
どんなにきれいに形を作っても、
どうしても有機的な部分が入ってくるんです。



じつは個人的には、無機質なものがすごく好きなんですよ。
有機的なものはちょっと苦手、なんですけれど、
苦手だからこそ、俯瞰で見てるのかもしれないですし、
俯瞰で見られるから、ちょっとおもしろいデザイン、
形を作り出そうとも思うのかもしれないですね。



今回のコレクションのパールのピアスを
見ていただくと、わかりやすいかもしれません。
金属のパーツとパールそのものとが、
自然につながるようなデザインにしたんです。
有機的なフォルム、ニュアンスをあえて入れて
繋ぎ目にしてる感じですね。


作り手探しから出会った、工芸の世界
SIRI SIRIのスタートが、
アレルギーの自分でも付けられるもの、
っていうこともあって、
素材としてガラスや籐を最初から使っています。
作っているのは、工芸の職人さんたちです。



建築とかインテリアって基本的に
設計する人と作り手さんが違うんですよね。
その感じで作り手さんをを探していたら、
東京の下町のほうに行くと、まだ、
いろいろ技術が残ってることに気づいて、
その方たちに作ってもらえるようになったんです。



たまたまそれが、江戸切子の職人さんとか、
伝統工芸に関わってる方が多かったので、
それでSIRI SIRIも、日本の工芸とか
伝統工芸という切り口で語られたりもしますね。
ただ、最初からそこがコンセプトではなくて、
作ってくれる人を探していたら、
そういう人たちにめぐり合ったんです。



2019年から、若手の職人候補を育てることを目指して、
「ATRIUM」というスクールを始めたんです。
続いて2022には、「マイスター制度」を作りました。
手仕事の文化を継承して、産業としても成り立つように、
っていう活動なんです。



そういう問題意識って以前は、
あんまり感じてなかったんですけれど、
日本に限らず、職人さんが減ってるっていう課題は
とにかく、あるんですよね。
ブランドをやっていて職人さんたちと関わっていると、
その問題は解決しなきゃいけないなって思うようになって。



日本の工芸って分業で作るものが多いせいか、
職人さんたち、意外に繋がってらっしゃらないんですよね。
分業されててよかった時代もあったと思うんですけど、
やっぱり今って、横に繋がって、
全体で一緒にやっていかなきゃいけない時代だと思うんです。
そういう繋ぎ役にはならないといけないな、って思って。



手工芸って、すごく日本らしいものですし、
手に職を付けて一生の仕事にしていきたいっていう方も
増えてきているんですよね。



ただ伝統工芸には、いろんなほかの要素もあって、
技術そのものが門外不出、っていうように、
すごくクローズドな部分が大きかったりもする。
そういうところがむずかしくて、
越えなきゃいけないこともあるんですよね。



それで、もともとSIRI SIRIがお願いしていた職人さんに、
スクールの講師をしていただくとか、
接点のなかった若い方とベテランの方を、
SIRI SIRIを介して繋げたり、技術を教えてもらったり、
そういうことをやっています。



ベテランの方の意識も少し違ってきているみたいで、
伝えていかないと、産業として続かないんだ、
っていうふうに考えてくださる方が増えてますね。
そういうマインドセットになってきています。
ちょっと風通しがよくなったのかな、とは感じますね。


使いたくなる、ガラスという素材
今は、スイスを拠点にしています。
リサイクルガラスを使った照明を、
あちらのガラス職人さんと一緒に作っているんですよ。
製品化はまだ難しいんですけど。



ガラスはやっぱり好きなのかな、と思います。
子どものときからガラスがすごく好きとかではなくて、
とくに意識もしてこなかったんですけれど、
素材としても使いやすいし、
ジュエリーでも照明でもインテリアのものでも、
何か作るときはガラスを使いたいなって思いますね。



透明な感じで、全てのものに同化できるというか、
ハーモニーが作れる、
が表現しやすいなと思うんですけどね、たぶん。



今回のHOBO SIRI SIRIでも、
ガラスのジュエリーを作りました。
SIRI SIRIで使ってるバーナーワークという技術って、
ラボラトリーとかで使うような
ガラスの実験器具とかを作ってた技術なので、
基本的には透明のものしかなかった。



工芸で使うようになったのは
アメリカが発祥らしいんですけど、
私がSIRI SIRIを始めた2006年ごろは、
まだ、工芸やアートに使う人が少なかったので、
本当に色数が少なかったんです。
その中に使いたい色もなかったんですね。



今、2023年までの間に、色がすごく増えたんです。
今回のような、ニュアンスのある色が出てきた。
バーナーワークの技術も
手工芸として認知されてきたんですよね。



HOBO SIRI SIRIでは今まで、
パールと、パールと透明のガラスを組み合わせたり、
そういうコレクションが多かったんですけれど、
今回のガラスのものは、
初めて職人さんの手工芸が登場っていう感じですね。



というのは、職人さんが増えてきて、
ほぼ日さんのお客様ってたくさんいらっしゃるので、
その方たちにも届けられるくらいになったんです。



数が作れるって、大事なんですよね。
SIRI SIRIは、ガラスの作品で結構人気になったので、
いつか、数が作れるようになったら
HOBO SIRI SIRIでもやってみたいなあという、
そういう気持ちもありました。



うんと昔、古代のメソポタミアのような時代の、
発掘されたものの中にも、ガラスってあるんですよね。
そうやって遡ってみると、
ガラスってジュエリーの起源かなあとも思ったり。
そこに戻ってるのかもしれないですね。


アートとデザインはひと続き
デザインするとき、私、あんまり悩まなくて、
なんでもデザインしたい、っていう感じなんです。
ついついデザインしちゃう。
そこはね、自分に与えられた使命かなと
思ってるようなところがあります。神様に。



ジュエリーにとどまらず、
もともとやっていた空間デザインも、もちろん。
ジュエリーってやっぱり小さいので、
もう少し大きなものもやりたいんですよ。



スイスでやってる照明もそんな感じです。
その素材、リサイクルガラスを使って、
オブジェも作ってみたんですよね。
ライフスタイル全般のデザインをしたいので、
表現の幅を広げたいなあと思ってます。
やってみて得意不得意はあると思うんですけど。



今って、いろんな仕事がひと続きっていう感じがするんです。
でも昔も、アートとデザインは一つだったんですよね。
たとえばルネ・ラリックは、
100年ぐらい前のデザイナーであり工芸のアーティストで、
照明のデザインもするし、ジュエリーも、
香水のボトルデザインもするし、っていう。
ファインアートはまた別の文脈ですけど、
生活芸術っていうような、そういうものに関しては
私もあんまり垣根なくデザインしたいと思ってるんです。



機能が少しあって、
日常生活にちょっと芸術的な要素を入れた
生活を支えるデザインっていうんですか、
そういうところに憧れはありますね、やっぱり。



バカラもそうなんですよね。
グラスも作るし、ジュエリーもありますし、
シャンデリアも作ったりする。
そういう存在にはなりたいですね。



ガラスって、素材として可能性があると思うんですよ。
身近な存在としてずっとあるけれど、
技術がさらに発展すれば、できることも変わってくる。



SIRI SIRIも、さすがに2006年からやってると
流れみたいなものが見えてくるんですよね。
今デザインして発表してるものでも、
10年以上前に考えてたけれどできなくて、
やっとできるようになったものもあるんです。



映画監督さんの構想20年とかってあるじゃないですか。
ああいうの、すごくわかるんですよ。
いろんな問題でできなかったことが、
4Dで表現できるようになったからやり始めたとか。
構想20年みたいなもの、私もありますよ。

2023.3.14 AM11:00 START