「きほんのスピーカーキット」で
とことん気持ちのいい音を聴きたい人のために、
真空管アンプとも組み合わせられます。
森 友治さんがセレクトした
真空管アンプのキット「TU-8150」は、
半田づけをして自作するアンプです。
真空管アンプの入門用として選ばれた
「TU-8150」の特徴や真空管の魅力について、
エレキットブランドの企画開発を手がける
株式会社イーケイジャパン社を訪ねて、
担当の社員さんからお話をうかがいました。
きほんのスピーカーキット開発者
森友治さん
オーディオの担当営業
右田政俊さん(エレキット)
真空管アンプ「TU-8150」開発者
藤田芳継さん(エレキット)
- ──
- 藤田さん、右田さん、はじめまして。
「きほんのスピーカーキット」と組み合わせる
真空管アンプの「TU-8150」について、
お話をうかがえたらと思います。
- 藤田
- 福岡までお越しいただいて、
ありがとうございます。
- 右田
- よろしくお願いいたします。
- ──
- このインタビューには、キットの開発をした
森友治さんにも参加していただきます。
- 森
- はい、よろしくお願いします。
ぼくはもともと『ダカフェ日記』という
家族を題材にしたブログの写真日記をやっていて、
それがじつは写真集にもなっているんです。
その3巻目に、当時小学4年生だった娘が、
夏休みの自由研究として
真空管アンプを作ったシーンが出てくるんです。
それが、エレキットさんの真空管アンプキットでした。
その時に娘が書いた宿題もお持ちしてみました。
- 一同
- すごい(笑)。
- 森
- いま見ると、マニュアルのほぼ丸写しかな、
という出来栄えなんですけどね。
- 藤田
- うちの娘ですら、
真空管アンプを組み立てたことないですよ。
- 森
- はんだ付けそのものは、
すごく楽しそうにしてましたね。
- ──
- 「きほんのスピーカーキット」に
興味を持ってくださったかたの中でも、
スピーカーの自作が初めての人も多いと思います。
まずは「真空管アンプって何?」というところから
ご説明をいただけると嬉しいです。
- 右田
- 真空管アンプの音がどうしていいのか。
これは感じ方にもよりますが、
真空管アンプで音を出すと、
音の「ひずみ」が必ずついてくるんですよ。
ひずみというものは本来、
音響の世界では不要とされているものですが、
このひずみが、真空管では心地よく出るんです。
2次高調波というもので、
たとえば、「ド」という音が出ていたら、
1オクターブ上の「ド」の音がくっついてくる。
- ──
- 音のひずみ。
- 右田
- ヴァイオリンで、倍音と呼ばれるものですね。
これが半導体アンプだと、
ひずみが不協和音みたいに出て音が濁るので、
ひずみ率を0.00001%とか、
すごく低く抑えるように設計されています。
真空管アンプのひずみ率は0.2~0.3%なので、
ひずみの差は、かなりありますよ。
データ上では悪い音に見えるのですが、
聴いている人にとってはすごく心地いいんです。
- 森
- ひずみの話は、ぼくも大好きです。
説明していただいている途中から、
「来るぞ、来るぞ!」と思って(笑)。
- ──
- ひずみが出る、というのは、
悪いことのように聞こえますが、
そこが味になっているんですね。
- 藤田
- 不純物と聞くと悪い印象がありますが、
たとえば、飲み水だっておなじですよ。
すべての不純物を取り除いた
純水を飲んでもおいしくありません。
ミネラルなどが混ざるから、おいしいんですよね。
- ──
- なるほど。
- 藤田
- いい不純物も、悪い不純物もあって、
いい不純物が適度に混ざっていることで
音がよくなっているんですよね。
真空管は基本的に、いいひずみしか出しません。
- ──
- 音のひずみにも種類があるんですね。
ありがとうございます。
真空管アンプにもいろいろあると思いますが、
森さんが「きほんのスピーカーキット」用に
「TU-8150」を選んだ理由も教えていただけますか。
- 森
- ぼくは趣味として、
いろんな真空管アンプを作ってきましたが、
エレキットさんの真空管アンプは、
かなり落ち着いて組み立てられるんです。
特に、この「TU-8150」は、
じぶんで配線をしなくていいのが画期的で。
初心者にとっては、配線が最後の難関ですから。
- 藤田
- 昔は電子機器のワイヤーを
じぶんで配線するのが当たり前でしたが、
今はなかなか、配線をする機会もありませんから。
基板のはんだ付けはきれいにできる人でも、
ワイヤーの配線で苦戦するんです。
辛うじてはんだは付いていても、
ワイヤーの末端処理がうまくいかないようで。
- 森
- すごく作りやすいなと思いましたよ。
じぶんで調べていく中で「TU-8150」には
エレキットさんの気合を感じたんです。
「どうしてもこれを世に出したかった気がする」
と思ったんですよね。
- 右田
- ええ、作りたかったんです。
- 森
- 「TU-8150」は、真空管アンプとしては
入門機にあたるものだと思うんですけど、音もいい。
「真空管アンプだから違うんだ」という音がします。
ぼくは実際に組み立てて聴いてみましたが、
ボーカルがバッと前に出てくる感覚でした。
ずっと聴いていられるぐらい心地いいんですよね。
音を大きくしても、うるさくない感じがするんです。
- 右田
- 長く聴いていても、
聴き疲れしない感じがすると思います。
- ──
- 長く聴くほど違いがわかりそうですね。
- 森
- あとは、アイボリーの色もなんだか懐かしくて好き。
優しい雰囲気がしていて、
デザインされ過ぎていない感じがいいです。
- ──
- 「TU-8150」を購入された方のもとには、
バラバラの状態で届きますよね。
キットの完成には何時間くらいかかりますか?
- 森
- ぼくが作った時は、途中で休んだりしながら、
5、6時間ぐらいでしたね。
- 右田
- 慣れている人なら、そのぐらいだと思います。
ぼくたちが作っても、
それよりもうちょっと早いくらいかなと思うので。
人によって、かかる時間は長くもなりますが、
初心者の方でも、
いつの間にかでき上がっちゃうものですよ。
- 森
- なかなかでき上がらないなぁと思っていたら、
最後のほう、「あらあら? あぁ、できてた」
みたいな感じで、最後がすごく早いんですよね。
完成図を頭に思い浮かべないまま、
プラモデルみたいに作っているので、
気づいたらほぼ完成している。
じぶんで作ってみて、万が一音が出ないようであれば、
「エレキットドクター」という
サービスもあるので安心して作れますよ。
- ──
- 組み立ての際に、一番難しいところを
あえて挙げるとしたらどこですか。
- 右田
- ぼくが一番大変だと思うのは、
最初に抵抗の部品を差すところを
見つけることですかね。
- 森
- まだ基板が埋まってくる前ですね。
- 藤田
- 抵抗のパーツは背が低いですからね。
説明書と基板を照らし合わせながら
「どこだー?」って言いながら探すんです。
最初は時間を取りますけど、
作業の後半になれば部品も大きくなるし、
埋まっていない所を探しさえすればいいんで、
だんだん加速してくるんです。
- ──
- ジグソーパズルにも似ていますね。
- 右田
- だから、ぼくが一番うれしいのは、
最後の抵抗を差した時です。
時間はかかりますが、
その分、おもしろいと思いますよ。
- 森
- 「よーし、抵抗終わり!」という
達成感はありますよね(笑)。
「TU-8150」で特徴的なのが、
真空管の種類をつけ替えることもできますね。
- 右田
- そうですね。
購入時には「6005W」という種類の、
「6AQ5」の高信頼管の
真空管が付属していますが、
ひと回り大きな「6V6」という
真空管にも替えられます。
- 藤田
- その昔、真空管が全盛だった時代に、
自作家が初めてアンプを作る時には
まず「6V6」を使う、
というぐらい一般的なものでした。
- 右田
- 「6AQ5」と「6V6」のふたつは、
大きさは違うけれど、特性はほぼ一緒なんです。
アンプのカバーを取り外して、
ソケットの部分ごと交換することになりますが、
交換するのも、たのしいですよ。
- ──
- 将来的にはカスタマイズもできてうれしいですね。
お話をうかがって、真空管アンプが
もっと身近なものになった気がします。
藤田さん、右田さん、どうもありがとうございました。
(次回の予告では「きほんのスピーカーキット」について
よく訊かれる質問と答えをご紹介します)
2018-07-20-FRI