STAMPSの紙上旅行 フィンランドの光 STAMPSの紙上旅行 フィンランドの光
「フィンランドの人たちって、
アートを暮らしに取り入れることが
とても上手なんですねぇ‥‥」
今回、ヘルシンキで取材をするなかで、
インタビュアーをつとめた吉川修一さんが
しみじみと言いました。

そうですよね、ミッラさんのお宅にしても、
レストランやショップやオフィスの、
ちょっとした窓辺の飾りにしても、
アートがさりげなく飾られていたりします。
気負うことなく、自慢するふうでもなく、
そういう感じが、とっても感じいい。
‥‥すると、通訳の森下圭子さんが教えてくれたのです。
「そういえば、近所の仲良しが、
マッティの絵のファンで、
額装してあるのが4作品、額装してないものは
10作品以上持っているんです。
親友のお父さんにまで
プレゼントしちゃうくらいなんですよ。
よかったら、一緒に遊びに行きませんか?」
‥‥あらま、それは、ぜひ、お会いしてみたいし、
お部屋も、見せていただきたいです! 

そうして、ジャーナリストの
アンナ・ムーリネンさんを訪ねることになりました。
吉川さんによる好奇心いっぱいのインタビューをどうぞ。


<アンナ・ムーリネンさんのプロフィール>

Anna Muurinen

民俗学者、編集者、ライター。
[1]

とつぜん開いた「アートの扉」。
吉川
アンナさん、お邪魔します。
わぁ、なんて素敵なんだろう、
この壁にかかっているのは、‥‥ガラスなんですね。
写真
アンナ
アヌ・ペンッティネン(Anu Penttinen)っていう、
イッタラやマリメッコでも活躍していた
ガラス作家の作品です。
上の列3点と、下の真ん中は
「モンスター」というシリーズです。
だから、飾れば、私を守ってくれるかな、って。
下の列には私の好きなロボットを
左右に配置してみました。
もともとは1個ずつ買っていたものなんですけど、
「あれ? シリーズになった!」って思ったときに、
こうやって並べて飾ることにしたんです。
吉川
とっても素敵です。
アンナさんの好きなアートって、
とってもかわいいですね。
アンナ
あら、すごくうれしい! 
吉川
いわゆるアートコレクターの方と違うというか、
アートが生活と一体になっていますね。
アンナ
ふふふ。すべての始まりは、
言ってみれば、マッティのせいかな(笑)。
最初に出会ったのが、この絵なんです。
いつもはリビングルームに飾っているんですけれど。
写真
吉川
これは、ロックスターですか?
アンナ
フィンランドのローディ(Lordi)というロックバンドの
ボーカルであるローディさんです。
「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」で
フィンランドのバンドが優勝したことがあるんですよ。
それが、モンスターのコスプレをして歌う
ローディっていう、このバンドだったんです。
聞いたことあります?
吉川
いえ、フィンランドの音楽には、詳しくなくて。
アンナ
本を持ってきますね。
‥‥こんな姿なんですよ。
写真
吉川
へえ! こういう格好で歌った人がいるんですね。
日本にも「聖飢魔Ⅱ」っていうバンドがありますが、
似てるかも? 
森下
方向性、たしかに似てるかも?(笑) 
Lordiのwebsiteはこちら
最新の写真を見ると、
ユーロビジョンの当時から
ずいぶん進化(深化?)しているみたいです。
森下
アンナさんはいろんな分野における専門家なんですけど、
なかでもフィンランドで
「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」に
一番詳しいと言われてる人なんです。
ユーロビジョンは、ヨーロッパの各国が参加する、
いわば国別対抗歌合戦ですね。
どんなに頑張っても、たとえ世界が終わっても、
フィンランドは「ユーロビジョン」で勝てないって
言われていたんです。
なのに、2006年、彼らが、いきなり、
かつてないくらいの新記録のポイントで
優勝しちゃったんですよ。
吉川
へえーっ。
アンナ
各国で行なわれる、代表を選ぶコンテストも、
私、ぜんぶ追いかけているんです。
昨日もベルギー予選をYouTubeで見ました。
近くの国であるノルウェー予選は、
フィンランドのテレビで見られたりするんですけど。
吉川
ホテルでフィンランドのテレビをつけてても、
音楽番組を見たことがないんです。
アンナ
そう、今は歌番組自体が、すごく少ないから。
私の子どもの頃はすっごくたくさんあったんですよ。
楽団がいて、フィンランドの歌謡曲を聞かせるような番組が
たくさんオンエアされていた時代がありました。
それでね、マッティの絵の話ですよね。
ローディの絵のこと。
写真
吉川
そうです、そうです。
アンナ
あれは、本当になんでもない日だったんですけれども、
マンネルヘイム通りっていう、
近くの大通りを歩いていたら、
「あれ? ちょっと今、
ローディの絵があったような?」
って思ったんです。
1回通り過ぎたんだけれど、
やっぱり気になって、戻ってみたら、
そこは当時のマッティのアトリエでした。
吉川
お知り合いだったんですか?
アンナ
いえ、面識はなくて。
ただ、私もライターをやっているので、
自分が関わっている雑誌で絵を描いてる人だということは
知っていたのだけれど、
マッティがそこにアトリエを持っているとは知らなかった。
吉川
そうだったんですね。
それで、絵を買われた?
アンナ
はい。というのも、ローディっていうのは、
私にとって大きな節目となった存在なんです。
彼らが「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」で
優勝してくれたから、
私は、フィンランドで、子どもの頃から好きだった
音楽を仕事にできるようになったんです。
しかも、翌年は、前年の優勝国が主催国となったので、
それに関する仕事ができたし、
ユーロビジョンに関する本を書いて
出版することもできました。
すごく私にとってはシンボリカルな
出来事だったわけですよ、ローディの優勝って。
写真
吉川
なるほど。
アンナ
だから、「あれ? 私、この絵を
買ってもいいのかもしれない」って、
ふと思ったんです。
吉川
そうですよ!
アンナ
それで、アトリエに入ったらマッティがいて。
マッティは私が来た瞬間、
「あ、『ユーロビジョン』の人だ」って
すぐわかったんだそうです(笑)。
吉川
アンナさん、有名な方なんですね! 
アンナ
テレビに出ていたりしましたから。
それでこの絵を買ったんですが、
買った瞬間に、
「えっ? ヤバいかも? 
私、絵を買っちゃった? 
これって、ひょっとして、
中年クライシスかもしれない!」
ってちょっと思ったの(笑)。
吉川
そんなぁ。
アンナ
それで、マッティと笑いながらおしゃべりしてたら、
「セール」って書かれた箱があったんですよ。
安くなってる絵があった。
その時はローディの絵しか買わず、
それで満足だったにもかかわらず、
なにか引っかかってたんですね、
数日後にもう一度行って、
この冷凍庫の絵を見つけたんです。
写真
アンナ
びっくりしました。冷凍庫ですよ! 
こんなものを、絵にする人はいないでしょう? 
これはまだ飾っていないんですが、
「いつか、こんな冷凍庫の入るような、
大きなキッチンのある部屋に住めたら、
これを飾ろう!」と思っているんです。
吉川
そういう絵の選び方、面白いですね。
アンナ
もう1つ、昔の光景を描いた絵も。
そこには鋳物があって、石臼があって、
昔の服を着た人が描いてあったんです。
それで、思ったんですよね、
「私も太古の服じゃないけれど民族衣装を持ってたなあ、
そういえば、私、鋳物も持ってたなあ、
ちょうど最近、石臼貰ったなあ」って。
吉川
あらっ(笑)!
アンナ
すごくきれいな絵だったんです。
それで思わず2枚とも買っちゃいました。
それは今、田舎の家に置いてありますけれど、
その時思ったのは、
「私が大切にしてる『日常』が芸術の題材になるの?」
ということでした。
吉川
ああ、なるほど。
アンナ
そういう意味で、マッティの絵って、
私にはすごく新しかったんです。
この「ユーロビジョン」もユニークな存在で、
フィンランドではみんながクスクス笑ったりする。
そしてこういう女の人がでっかい冷凍庫に
いろんな保存食を入れている、というのも、
笑いが起きそうな日常ですよね。
「あ、そうか。マッティっていう人は、
そういう一部の人がちょっと笑っちゃうことを、
大切にしている人なんだ」って思ったんです。
そしてその後、マッティのいろんな作品を見て、
「ひょっとして、この人と私は、
価値観が近いのかもしれない」と思いました。
ちょっとノスタルジーというか、
古いものを大切にしてるところとか。
吉川
そうですよね。
アンナさんのキッチンにも、古い台所道具がいっぱい。
写真



写真
アンナ
はい。これは私にとっては特別なことではなくて、
日常として当たり前のように持ち続けてきたものです。
祖母が持っていたものを、
そのまま使っているだけなんですよ。
吉川
はい。
アンナ
私はもともと大学での専攻が民俗学でした。
どういう学問かというと、
人々が暮らしてきた、その生活や日常に
焦点を当てるものなんです。
卒業してジャーナリストとして仕事を始めてからも、
私が大切にし続けてきたのは、やっぱり日常です。
それが自分の軸になっている。
そんな私がマッティの絵に触れて思ったのは、
「そうか、私にも芸術を楽しむ権利がある」
ということでした。
たとえば、美術館に行っても、
私はすべてを理解することはできないかもしれないけれど、
マッティのこの冷凍庫の絵を見ると、
描かれているのが「ああ、イチゴね」
「これはブルーベリー」とわかるわけですよ。
そうしてだんだん芸術に触れるようになり、
子どもたちの描いたスター・ウォーズを飾ったり。
となりの部屋には、実は、
トゥーリッキ・ピエティラの絵があるんですよ! 
写真



写真
森下
トゥーリッキ・ピエティラは、
トーベ・ヤンソンのパートナーだった人ですね。
吉川
そうですよね! 初めて見ました。
雪が積もっている街の景色。
アンナ
これは戦時中に、ヴィープリっていう、
今はロシアになっている町にいて
描かれた絵なんです。
ヴィープリは私の父が生まれたところです。
吉川
すごい。アンナさんにとって、意味のある絵なんだ。
(つづきます)
2023-04-19-WED
フィンランドのイラストレーター / アーティスト、
Matti Pikkujämsä(マッティ・ピックヤムサ)が
インテリアブランド
Kauniste(カウニステ)のために描いた柄をつかって、
ワンピースとスカートをつくりました。
愛嬌たっぷりのイラストがたのしめるキッチンクロスと、
1点ものの壁掛け作品もどうぞ。
写真
STAMP AND DIARY + ほぼ日

日曜日のワンピース

28,600円(税込)
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STAMP AND DIARY + ほぼ日

日曜日のスカート

26,400円(税込)
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Lapuan Kankurit

マッティのキッチンクロス

2,970円~3,850円(税込)
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46,200円~48,400円(税込)