今の仕事は、週に1度の木工教室の講師を中心に、
オーダー家具の窓口として、
発注したり図面を描いたりしています。
家具のオーダーを受けるときに心がけているのは、
買い替えによる問題解決を具体的に話すこと。
たとえば、テレビボードを買い替えたい人が
今はどういうテレビボードを使っていて、
なにが問題かを明確にすることから始めます。
原因はデザインなのかもしれないし、
あるいは使い勝手のせいかもしれません。
僕らがコミュニケーションの中で踏み込んでいって
お客さんに答えてもらうことで、
一緒に問題解決するんです。
僕らには定番の商品があるわけじゃなく、
ひとつずつ異なるものを作らなければならないんで、
相手の意図をどれだけ読みとれるか、
それが僕の仕事の基本だと思うんです。
僕が家具づくりと出会ったきっかけは
高校時代の美術の先生でした。
英語科にいたこともあって、
なんとなく自分は英語系の大学に
進むのかなと思っていたんだけど、
選択科目でとっていた美術の先生と仲良くなって。
その先生が美術作品として家具を作っていて
「あ、俺も家具やりたいっす」って伝えたら
家具デザインを専門に学べる大学を薦めてくれました。
それまでは鹿児島で育ってきた僕ですが、
先生に薦めてもらった大学に通うようになって、
そこから13年間、ずっと北海道の旭川にいました。
大学を卒業して、すぐ家具職人になったんじゃなく
いろんな出会いとタイミングがあって
逗子で家具作りをする今につながっているんです。
それまで営業の仕事をしたり、
商店街の振興組合で広報として
旭川を盛り上げようとするなかで
プレスリリースを書くようになって、
その頃から、人に何かを伝える”言葉”を
意識するようになりました。
ゆくゆくは家具の世界に戻ろうと思っていたけれど、
大学では家具のデザインの勉強をしていたので、
家具づくりを学ぶために訓練校に入りました。
訓練校にいたころは、
これからずっと家具を作り続ける
人生になるのかなと想像していましたが、
東京のオーダーキッチン屋さんが
人を探していると耳にしたんです。
そこの仕事は現場の施工管理のほかに、
営業もできる人を探しているってことで
「ツルダ、行け!」みたいに周りに乗せられて、
30歳にして初めて東京に出てきたんです。
‥‥でも、そこの会社と感覚が合わなくて
たったの半年で辞めちゃった(笑)。
今思えば、自分もかなり意固地だったかな。
振り返ると、そういう考えもあるんだと
自分の価値観が広がりました。
今では、打ち合わせでお客さんからの
希望や提案に対しても
「あなたの言いたいことはこうですね」って
いろんな捉え方ができるようになっています。
そういう経験や感じたことを、
大学時代から手帳に記録するようにしていて
もう十何冊と残っているんだけど、
必ず手の届くところに置くようにしているんです。
その会社を辞めたあとは、
オーダー家具屋を経てフリーになって、
今の相談家具屋ウッドワークセンターというところで
働くようになったのが1年前のこと。
フリーで仕事を受けていた頃は、
図面を描いて、作って、納めるってことを
全部自分ひとりでこなしていたんですけど、
ひとりでやることに限界を感じたんですね。
そんなときに、今の社長と知り合って、
もともと教えるということに興味があったので
「土曜日の木工教室の講師を探してるんだけど」
「あ、やります」みたいにして入りました。
過去の手帳はよく読み返すようにしていて、
去年の今頃は何してたかなとか振り返ります。
スケジュールの他にも
嬉しいことも悔しいことも書いてあって、
悔しかったことなんて思い出したくもないけど、
そこからのリカバリーがあるから、
今の僕があるんですよね。
打ち合わせでアイディアスケッチを書くノートは
白紙のものを愛用しているんですが、
日ごとの予定を細かく書くようになったのは
ほぼ日手帳を使うようになった最近の話なんです。
その日のTO DOを大なり小なり
成果の記録として全部書いています。
ほぼ日手帳に書きながら
木工教室での出来事を考えていたときの話ですが、
木工は減点法なんだと改めて思うことがありました。
パーフェクトなものがあって、
そこにどれだけ至らないか。
教室の生徒さんに
最初に作ってもらう基本の「ほぞ組み」は、
凹の穴をあけて、凸のほぞを作るんです。
隙間なくT字を作るんですが、
その作業に慣れないうちは
穴あけの時に、きれいな四角を作ろうとして
どんどん形を崩していっちゃう。
穴は隠れて見えなくなる部分なので、
中がどうであれキチンと入ればいいんです、本来は。
組み立てて成り立つT字をつくる事が
目的だったはずなのに、
キレイな穴をあけることが、
目的になってしまうんですね。
家具には図面があるから
完成品として決められた形があります。
教室では、作りながらどこが間違っているかを
チェックしていくんです。
木工ってすごく理屈っぽい世界で、
切ったように切れて、彫ったように彫れて、
削った分だけ薄くなるものです。
下手でも下手なりにはできるけど、
いきなり上手にはならないんですね。
だから僕は、上から引き上げるというより、
下からの底上げをする感覚で
じっくり教えるように心がけています。
はじめはみんな「うまくできない」とか
「もうやだ」って言うんですが、
その理由はもう、ハッキリしてるんです。
うまく切っていないから、うまく切れないだけで、
うまくできない理由を考えてもらうのが、僕の伝え方。
立ち姿が定まっていないひとは、
できあがったものも落ち着きなくソワソワしてるし、
ノコだって、ほんとうに手をまっすぐずらせば
まっすぐ切れるはずなのに、それができないんです。
だから、はじめの段階ほど厳しめに教えます。
そのほうがやっぱり、
できるようになったときに嬉しいと思うので。
たとえば僕は、訓練校時代に初めて自分のかんなを買って
ちゃんと仕込んで削れたときは、すごく嬉しかった。
ホームセンターで売っているようなものなら
すぐにでも使えちゃうんだけど、
ほんとうは仕込みが必要なんです。
刃を研いで、台に刃を入れるんだけど、
その刃に合わせて台を調整してやらなきゃなりません。
その時のかんな屑は、今でも額に入れて飾ってますもん。
こういう、自分の手がかかったものを見ると
夢中でやってたなっていうのがわかるんですよね。
それと同じことを今、生徒さんがやっている。
ちゃんと理解して、ちゃんと結果が出れば、
うれしいんだっていうことを、
いつか感じとってもらえたらうれしいです。
そうすればもっと、ものづくりが好きになると思います。 |