- 田島
- ただ、太郎さんというのは、
単に子どものまま、裸のまま、
大人になった人ではないんです。
実はものすごく趣味がいい人なんだよね。
もともと趣味がいい家系に
生まれてる人だから。
- ほぼ日
- はい、漫画家の岡本一平さんと
小説家の岡本かの子さんがご両親で。
- 田島
- うん。だけど太郎さんは、
自分のそういう趣味のよさとかも
「ぜんぶ捨てちまえ!」
「裸一貫にならなきゃ!」って、
あるときぜんぶ放り出したんだと思うんです。
太郎さん自身が
こんなことを言ってるんですね。
「子どもの絵は芸術的だけれども、
芸術作品ではない。
意識的にいろいろ考えた上で、
子どもみたいな絵を描くに至る。
それが芸術作品である」
と。
- ほぼ日
- ああー。
- 田島
- つまり、そうなんだよね。
太郎さんは、大ボケ、大馬鹿の道を
自分で意識的に辿ってた。
そして、ぼくにとって太郎さんという人は、
その身を持って
「表現や芸術は、
カッコいいやカッコ悪いじゃない、
人間そのもの、いのちそのものを
描けるかどうかだ」
ってことを教えてくれた人という気がしますね。
自分でも、もともと感じていたことだけど、
太郎さんのおかげで、
理解を深めさせてもらったというか。
太郎さんはずっとそういうことだけを
やろうとしてたし、そこしかやらなかった。
- ほぼ日
- 岡本太郎さんはことばもすごいですよね。
「誤解の満艦飾となれ」とか。
(「誤解される人の姿は美しい。
人は誤解を恐れる。
だが本当に生きる者は当然誤解される。
誤解される分量に応じて、
その人は強く豊かなのだ。
誤解の満艦飾となって、誇らかに華やぐべきだ」
──『芸術は爆発だ! 岡本太郎痛快語録』より)
- 田島
- そうそう! そうなんですよ。
今って、たとえばTwitterで発するだけでも、
常にツッコミが入ってくる時代だから。
ちょっと言うだけで
「なに言ってるんだ!」と非難されるし、
誤解もされる。
だけど、いかにツッコまれようが、
太郎さんは「それでいいんだ」って認めてくれる。
- ほぼ日
- まさに「誤解されていいんだ」と。
- 田島
- そう、だから生きてる上で
いろんな困難にぶち当たればぶち当たるほど、
太郎さんのことばが、すげぇグッと来るんです。
太郎さん自身が丸腰で、無防備のまま、
ガーッとこうアクション付きで
「それでいいんだよ!」
って言ってくれる感じがある。
それも自分の場所を保ちながらカッコよく
言うんじゃなくてね。
- ほぼ日
- もう、ただただ本気で。
- 田島
- うん、太郎さんの言い方って、
ある意味ダサいというか、
もう「この人は馬鹿なのか?」とか
「アホじゃないの?」と思われるような
言い方なんですよ。
- ほぼ日
- (笑)
- 田島
- ‥‥でも、それがね、
すばらしくいいんですよ。
説得力があるっていうか。
だから何度も、何度でも言いますけど、
太郎さん、カッコいいですよ。
すごい好き。
- ほぼ日
- はい、聞いていてカッコいいです。
- 田島
- ぼくは吉本隆明さんと岡本太郎さんって、
それぞれ逆の部分が好きなんですけど、
隆明さんはぼくにとって、
「こらこら、お前、何やってるんだ」って
ツッコんでくれる人なんだよね。
太郎さんは逆で、
人間の最初の
「お前! お前、生きろ!」という
炎の部分を担当してくれてる。
「情熱を持て!」
「情熱を持つことを怯んだりするな!」
「なりふり構わず、とにかく燃えろ!」
って。
- ほぼ日
- 岡本太郎さんは、学生から
「芸術では食えないんですけど」
って言われたときに、自分もお金がないのに、
「じゃあ、俺んちにカレー食いに来ればいい」
と言ったというエピソードもありますね。
- 田島
- そう、そういうこと、
太郎さんはやりかねないですよね。
そういう、
自分をまったく守ってない感じ?
「この人ほど自分を守らない人って
いないんじゃねぇか?」
ってくらいに、守らない。
自分で「マイナスに賭けろ」って決意して、
それを人にもすすめてるような人だから。
- ほぼ日
- 「マイナスに賭けろ」も象徴的なことばですね。
- 田島
- 安全そうな道じゃなくて、
「いつでもあえてマイナスの道を選べ」
っていう。
もちろん安定ってわかるし、
人類の長い歴史を思うと、正しいですよ。
そうしなきゃいけないと思うけれども、
だけども同時にそこで
「マイナスに賭けよう」と決意することによって、
「いのち」の力がワッと湧き上がっていく。
そういう人間の持つ情熱の部分を
「いのちの炎を燃やすんだ!
そこを絶対俺が守ってやるから」
っていう人ですよね。
- ほぼ日
- 田島さんが岡本太郎さんのことを
はじめて知ったのはいつですか?
- 田島
- 15年前くらいだったかな。
岡本太郎美術館にフラッと遊びに行って、
そのときは全然興味なかったんです。
だけど、なんとなくそこで
『自分の中に毒を持て』という本を買ったんですよ。
そして読んでみたら、
当時の自分にぴったりフィットして、
「なんだ、この本は?!」とびっくりして。
それから毎日読んでました。
ほぼ全ページ、全フレーズに線を引きながら、
まるでお経を唱えるかのように(笑)。
- ほぼ日
- (笑)
- 田島
- その後、もちろん太郎さんのことを
考えない時期もあるけど、
それでも自分の土台のところに
ずっといる人ですよね。
今日も『自分の中に毒を持て』を
持ってきましたけど、
これ、全フレーズいいですよ。
全部いいですね、本当‥‥これはいい。
勇気が出てきます。
本当にみんなにすすめたくなっちゃうの。
もう、読まなくてもぜんぶ覚えてるというか、
体に染みついちゃってるよね。
家に10数冊あります(笑)。
- ほぼ日
- すごい数(笑)。
- 田島
- 人にあげてたりもしましたから。
そして太郎さんのことは
自分のお守りみたいな感じで、
いつでも持っておきたいんですよ。
そして自分がなんだか
ボヤーンとしてきたり、飽きてきたり、
落ち込んできたりとかしたら、
「ああ、太郎成分欠けてきたな
‥‥本読むか!」
みたいなさ。
- ほぼ日
- 自分の生活に太郎さんがいると、
ちょっとうれしいというか。
- 田島
- まさにそう。
いまってみんな、スマホを常に持ってたり、
情報がまとわりついてる状態でしょ?
こういった暮らしの中で
太郎さんみたいな存在って、
うれしいんですよ。
「とにかくどう思われようが、突き進め!」
って言ってくれるから。
ああ、だから‥‥そう!
この手帳も持ってるとちょっと
お守りみたいな感じになるんだよね。
- ほぼ日
- たしかにお守りみたいな感じ、
ありますね。
- 田島
- そうそう、これは最高にうれしいよ。
超うれしい。
ぼくもこれまでガワ(カバー)をとっかえひっかえ
手帳を使ってきてますけど、
これはうれしいでしょう。カッコいいですよ。
もう、満面の笑みです。
- ほぼ日
- (笑)うれしいです。
- 田島
- 太郎さんの芸術からひしひしと感じるのは
やっぱり「いのち」でね、
「いのち」をね、全力で讃えてる。
人間も、まずその前に動物で、
生きものとしての「いのち」を
まず土台に置くことが大事なんだって。
もちろん「人間らしさ」だって
絶対必要なんだけど。
‥‥で、その
「人間らしさ」と「動物らしさ」が
葛藤してぶつかり合って、
とても悲しいことになったり、
喜ばしいことになったり、
人類の歴史にはいろんなことが起こる。
そういった、その、
「いのち」のぶつかる火花みたいなものを
ずっと描きつづけてたみたいなね、
そんな感じがするんですよ。
- ほぼ日
- 「いのち」の火花を描きつづけたひと。
- 田島
- そうして「とにかく生きていく」ってことが
大事なんだっていう。
‥‥だから、太郎さんっていうのは
あらゆる人に必要な芸術なんですよね。
太郎さんのように生きることは
まずむずかしい気がするけど、
その奥にあるものは、
みんなに通じることだと思うんです。
だから、その言動を見ていると
いろんなツッコミどころが
あるように見えるかもしれないけど、
太郎さんって、そういうんじゃないんですよ。
いろいろな困難にぶち当たっても、
「大事なのはぶち当たっていくことなんだ。
ぶつかって、燃え上がれ!
負けてもいいじゃないか」
ってことを最初に言いきってくれてる人。
太郎さんの姿勢って、一生そうだったもんね。
そこから踏み外したことないっていうか。
カッコいい言い方は、一切しなくて。
自分を守りながら発していたことばは、
ひとつもない気がします。
だから、やっぱり大好きですよ。
太郎さん、大好きですね。
(田島貴男さん編は、こちらでおしまいです。
明日4日(木)からの
平野暁臣さん編に、つづきます)
2016-02-03-WED