HOBONICHI

Yasashii Towel 2024 SUMMER

やさしいタオル2024 vol.1小川洋平さんが描く、
どこにもないのに、
どこかにある場所。

今年の「やさしいタオル」のイラストは、
画家の小川洋平さんに描いていただきました。
どこかは思い出せないけれど、
なぜか慰められる風景。
小川さんの作品は、そんな景色を想起させます。いままでのラインナップとは
ひと味違うタオルをつくってくださった小川さんに、
制作スタイルや原体験をお聞きしました。
前編、後編にわたってお届けします。

> 小川洋平さんプロフィール

1985年生まれ。新潟県出身、静岡県在住。
古着店や飲食店を経て、学芸大学駅前のカレー店
「VOVO」のシェフに就任。
2015年に「HATOS OUTSIDE」をオープン。
画家としても作品展示を中心に活躍しており、
2023年から画業に仕事を移す。

2.
無人の景色に、人が集まる。

──
タオルのような、
日常使いのアイテムに絵を描くにあたって、
普段と違った考えはありましたか? 
小川
それは、あまりなかったです。
タオルもひとつのキャンバスと捉えていたので、
普段どおりの描き方でつくりました。
──
たしかに「このタオルを絵みたいに飾りたいね」
と、社内でも話題になっていました。
小川
ありがとうございます。
僕自身は、空が絶妙な色になったなと思って、
とくに気に入っています。
──
岩のイラストもすごくかわいいです。
タオルの絵のモチーフは、
触り心地のよさそうなものや
おいしそうなものにすることが多いのですが、
この岩が、すごく気持ちよく感じられます。
小川
あぁ、それはよかったです。
──
小川さんはこれまで、
いろんな種類のプロダクトを
つくってらっしゃいますが、
どんなものを制作しているときがたのしいですか。
小川
そうですね‥‥。
場所やモノの使い道によって、
どういうものをつくるか考えること自体が、
僕にとってはおもしろいです。
例えば、今回の個展会場はレコードショップなので、
レコードのジャケットにイラストを描いています。
こんなふうに、商品制作のご依頼があったら、
その都度たのしんで制作していますね。
──
たしかに、これまでどんなコラボでも
的確に打ち返していらっしゃる印象がありました。
いろいろなプロダクトを制作なさっていますが、
やはり活動の中心は絵で、
お肩書は「画家」でしょうか。 
小川
うーん、いちおうそうなのですが、
ちょっと気恥ずかしいというか‥‥
「アーティスト」というガラでもないですし。
「元カレー屋」が
一番しっくりくるかもしれないです。
──
(笑)。
ちなみに、
タオルにも描いてくださったあの鳥は、
なんの鳥かお聞きしてもいいですか。

(シャワー)

小川
これは、
とくになんの鳥というわけでもないですね(笑)。
もともとは、絵を描き始めたときに、
サインとして作品の裏に描いてたんです。
──
サインだったんですね! 
小川
はい。当初は、作品を買ってくれた人だけが
気づく存在だったんですよ。
でも、買ってくれた人たちから
「この鳥のキャラクター、いいですね」
と言っていただくことがけっこうあったんです。
なので、昨年あたりから、
10点のうち1点に登場するぐらいの割合で、
ちょっとずつ表に出しています。
──
懐かしいキャラクターのような雰囲気で、
1羽いてくれるとかわいいです。
小川
よく見ると、
ちょっと憎たらしい顔をしてるんですよ。
──
ほんとだ、口角が下がってますね(笑)。
ニヒルな感じです。
小川
そうそう、
人間を悲観的に見ている鳥という
イメージなんです。
──
小川さんご自身もこの鳥のように、
わりと冷静な視線で、
人々やものごとを見ていらっしゃるんですか。
小川
僕自身は悲観的ではないんですけど、
大勢のなかに入って騒ぐことは、
たしかにあまりないですね。
趣味のスケボーやサーフィンも、
1人でやることが多いです。
個展のように
人がたくさん集まってくださる機会もあるんですが、
それは僕にとっては非日常です。
──
だからこそ、幼少期の人のいない風景が、
小川さんの心に
強く残っているのかもしれないですね。
小川
そうだと思います。
「プラダ・マーファ」って聞いたことありますか? 
アメリカのアートプロジェクトでつくられた、
PRADAの店舗に似せた無人の建物なんです。
──
初めて聞きました。
(画像を検索して)あっ、これですか?
小川
あぁ、そうそうそう! 
これが、僕の一番好きな景色なんです。
何年か前に「プラダ・マーファ」の写真と出会って
「わあ、これは、めちゃくちゃかっこいいな」
と感じて。
──
あぁー、たしかに、
小川さんの絵の建物と雰囲気が似ています。
「こういう静かな場所がどこかにあるんだ」
と想像するだけで、心が落ち着く感じが。
小川
僕は、自然だけの風景よりも
「人工物が少しある」風景に
惹かれるんだと思います。
生まれ育った地元も、まさにそんな風景でした。
──
そうなんですね。
ヤシの木も生えていたんですか? 
小川
いや、僕のいた新潟には
ヤシの木は生えてなかったです(笑)。
もともと好きなのでよく描くんですよ。
ビヨーンと伸びていて、サワサワ揺れていて
「のんびりしたものの象徴」
みたいなイメージがあります。
──
あぁ、わかります。
それに、群れてない感じもしますね。
1本でもたのしく揺れているというか。
小川
そうそう(笑)。
──
元になっているのは日本海側の風景でも、
ヤシの木が描かれることで南国らしさも入ってきて、
より惹き込まれますね。
どこでもない景色だけれど、
どこかで見たことがあるような親しみを感じます。
小川
うん、ヤシの木はそういうイメージで描いてます。
──
こういったひとけのない景色が、
小川さんが描くことによっていろんな人に届いて、
展示会で人に囲まれたり
賑やかな場の中心になったりしているのが、
すごくすてきなことだと思いました。
小川
ありがたいです。
──
タオルも、
ぜひいろんな場所で使っていただきたいですね。
小川さん、きょうはありがとうございました。
小川
こちらこそ、ありがとうございました! 

(おわります)

2024-07-09-TUE