糸井 | ダンスのOK、NGは ダンサーが出していた、というのは、 つまり周防さんは NGを出してないということですか? |
||
周防 | そうです。 撮影側の、テクニカルな部分のNGは出しますが、 いわゆる「演技のNG」は 出していないということです。 観終わって、 「考えてみたら、台詞ないんですよね」 っていう人がいらっしゃって(笑)。 |
||
糸井 | そう(笑)。ないんですよね。 バレエの部分は、 ものすごいシーン数を 撮っているんでしょう? |
||
周防 | そうでもないです。 | ||
草刈 | 基本的に2回通して踊って、 それを2キャメで撮るという感じです。 |
||
糸井 | つまり、4テイク? | ||
周防 | はい。 「この曲のこの部分だけはこの位置から撮りたい」 というカットは、その部分だけを 踊ってもらったりしましたが、基本は4。 ですから、カメラマンが いちばん大変だったと思います。 緊張したと思うなぁ。 自分のミスで「もう1回」って言えないから。 |
||
糸井 | いやぁ、それはそうだよね。 スポーツの話してるみたい。 「さっきの打席を再現しろ」って 言えないもんね。 |
||
周防 | なおかつ、芝居と違って、 最後のテイクがよかったなんてことは ほぼない世界です。 踊れば踊るほどクオリティが下がって どんどん体が動かなくなっちゃうから。 |
||
糸井 | 2回、同じ日に撮るんですか? |
||
周防 | そう。 |
||
草刈 | 1日1曲ずつ、2回。 しかも、わりとみんな年配だったので(笑)。 |
||
糸井 | ああ、60歳の人(ルイジさん)も いましたからね。 |
||
草刈 | ですから、私たちは 一発勝負の集中力が めちゃくちゃ高くなるわけです。 年を重ねれば重ねるほどにそうなりますし、 ルイジさんのような ああいう種類の踊りは、特にそう。 |
||
周防 | あと何回踊ったらいいかわかんない状況では 踊れないですね。 |
||
草刈 | それは、できないです。 もしかしたらダンサーは それはいちばんきかないかもしれないですね。 |
||
糸井 | ああ、無理なんだね。 |
||
草刈 | プロ意識が高ければ高いほど、 「じゃあ、これで撮ります」と言われたときに、 そこで出し切ってしまいます。 1回の撮り直しでしたら まだ対応できるでしょうけど、3回も4回も ということになっていくと、きつい。 そのイニシアチブが 自分にないということが どれだけ不自由かということを みんなわかっているので。 |
||
糸井 | それをわからない監督がいたら、 地獄ですね。 |
||
草刈 | 踊りは撮れないでしょうね。 |
||
糸井 | 特に映像がデジタル化してからは、 そういうことも、多くなったんじゃないかな。 いくつもの同じような画面の中から いちばんいいものを選んでつなげることが 増えちゃったから。 |
||
周防 | ですから今回は、 踊りの部分はフィルム撮りにしました。 まぁ、黒バックだったんで、 黒の深みを出したいとか、 いろんな理由があったんですが、 フィルムは、撮る側の緊張感が高まりますから。 その緊張感があってはじめて、 ダンサーと対峙できる気がして。 ビデオってね、やりだすと果てしないんですよ。 |
||
糸井 | そうですね。 機械に頼れる部分を ちょっとでもあてにしたら、 ガタガタガタっと崩れそうな話ですね。 |
||
周防 | ぼくはこの映画に限らず、ひとつ 自分に言い聞かせていることがあります。 「編集でなんとかなるとは思うな」 「現場がすべてだ」 ということです。 だって、結局のところ 撮れた画しかないんですもん。 編集でなんとかすると思ってやってると、 どんどん崩れていっちゃうから。 |
||
糸井 | いまはあらゆる映画が 絵コンテをどう再現するか、という アニメのようになっているところがあるでしょう。 現場で考えなくてもできるように なってますよね。 これは、あらゆる仕事がそうですよ、たぶん。 材料しか作ってないという状況。 これはねぇ、まずいですよ。 |
||
周防 | 気持ちはわかるんです。 ぼくだって、そう思うときは多々ありますから。 |
||
糸井 | あれをやりはじめたら、どこまでも行きます。 肉体を伴ってやってる人たちは、 そんなことはもう、考えもしないことで。 |
||
草刈 | そうですね。 |
||
糸井 | その意味では、 デジタルに慣れ切っちゃった人に この映画を見せるというのはおもしろいね。 |
||
周防 | (笑) |
||
糸井 | 「材料だけ揃えれば料理できると思ったら 大間違いだよ」 ということが、如実にわかる映画ですよ。 |
||
周防 | はい、とにかく現場がすべてです。 ジャンプを撮るときに 高さを出したいんだったら カメラのアングルを ああだこうだ考えればいいんですが、 すごく高く飛んだということが この作品にとってどういう意味を持つんだ、 と考えないとね。 ジャンプは高けりゃいいのか? 高さより美しさを 考えなければならないこともある。 そういうふうに、踊りを 壊さないようにしなければいけないんです。 |
||
草刈 | 今回の映像を 粗編集のときに観たときも感じたんですが、 映像に趣があります。 作品をちゃんと映像で表現している感じがした。 そういう映像は、バレエの場合、 なかなかないんですよ。 |
||
糸井 | いわゆる劇場中継のようなものは たくさんあるけど。 |
||
草刈 | 劇場中継か、あるいは 凝りすぎちゃって、 その監督の技術を見せることになりがちです。 凝りすぎると、踊りを通して 何を表現するかが 映像からはわからなくなってしまう。 新しい試みをする映像は、 ほとんどそこに陥ってしまいます。 それは、踊りに例えると、 テクニカルな踊りです。 結局何を見せたいのか、わからなくなる。 だけど、この作品は、 作品を表現することが芯にあるから、 すごく映画的でありながら 踊りとしても、全部がきちっと立っています。 監督の、踊りの振付を読み取る力は 15年の間に高まってるので(笑)。 |
||
周防 | 15年のあいだ、いっしょに いろいろな人の踊りも観に行ってるんで、 おそらく日本の映画監督で いちばんバレエを観てるんじゃないかと 思います。 |
||
(つづきます) | |||
2011-07-06-WED |