かっこいい、 草刈さんと周防さん。
第10回 現場がすべて。
糸井 ダンスのOK、NGは
ダンサーが出していた、というのは、
つまり周防さんは
NGを出してないということですか?
周防 そうです。
撮影側の、テクニカルな部分のNGは出しますが、
いわゆる「演技のNG」は
出していないということです。
観終わって、
「考えてみたら、台詞ないんですよね」
っていう人がいらっしゃって(笑)。
糸井 そう(笑)。ないんですよね。
バレエの部分は、
ものすごいシーン数を
撮っているんでしょう?
周防 そうでもないです。
草刈 基本的に2回通して踊って、
それを2キャメで撮るという感じです。
糸井 つまり、4テイク?
周防 はい。
「この曲のこの部分だけはこの位置から撮りたい」
というカットは、その部分だけを
踊ってもらったりしましたが、基本は4。
ですから、カメラマンが
いちばん大変だったと思います。
緊張したと思うなぁ。
自分のミスで「もう1回」って言えないから。
糸井 いやぁ、それはそうだよね。
スポーツの話してるみたい。
「さっきの打席を再現しろ」って
言えないもんね。
周防 なおかつ、芝居と違って、
最後のテイクがよかったなんてことは
ほぼない世界です。
踊れば踊るほどクオリティが下がって
どんどん体が動かなくなっちゃうから。
糸井 2回、同じ日に撮るんですか?
周防 そう。
草刈 1日1曲ずつ、2回。
しかも、わりとみんな年配だったので(笑)。
糸井 ああ、60歳の人(ルイジさん)も
いましたからね。
草刈 ですから、私たちは
一発勝負の集中力が
めちゃくちゃ高くなるわけです。
年を重ねれば重ねるほどにそうなりますし、
ルイジさんのような
ああいう種類の踊りは、特にそう。
周防 あと何回踊ったらいいかわかんない状況では
踊れないですね。
草刈 それは、できないです。
もしかしたらダンサーは
それはいちばんきかないかもしれないですね。
糸井 ああ、無理なんだね。
草刈 プロ意識が高ければ高いほど、
「じゃあ、これで撮ります」と言われたときに、
そこで出し切ってしまいます。
1回の撮り直しでしたら
まだ対応できるでしょうけど、3回も4回も
ということになっていくと、きつい。
そのイニシアチブが
自分にないということが
どれだけ不自由かということを
みんなわかっているので。
糸井 それをわからない監督がいたら、
地獄ですね。
草刈 踊りは撮れないでしょうね。
糸井 特に映像がデジタル化してからは、
そういうことも、多くなったんじゃないかな。
いくつもの同じような画面の中から
いちばんいいものを選んでつなげることが
増えちゃったから。
周防 ですから今回は、
踊りの部分はフィルム撮りにしました。
まぁ、黒バックだったんで、
黒の深みを出したいとか、
いろんな理由があったんですが、
フィルムは、撮る側の緊張感が高まりますから。
その緊張感があってはじめて、
ダンサーと対峙できる気がして。
ビデオってね、やりだすと果てしないんですよ。
糸井 そうですね。
機械に頼れる部分を
ちょっとでもあてにしたら、
ガタガタガタっと崩れそうな話ですね。
周防 ぼくはこの映画に限らず、ひとつ
自分に言い聞かせていることがあります。
「編集でなんとかなるとは思うな」
「現場がすべてだ」
ということです。
だって、結局のところ
撮れた画しかないんですもん。
編集でなんとかすると思ってやってると、
どんどん崩れていっちゃうから。
糸井 いまはあらゆる映画が
絵コンテをどう再現するか、という
アニメのようになっているところがあるでしょう。
現場で考えなくてもできるように
なってますよね。
これは、あらゆる仕事がそうですよ、たぶん。
材料しか作ってないという状況。
これはねぇ、まずいですよ。
周防 気持ちはわかるんです。
ぼくだって、そう思うときは多々ありますから。
糸井 あれをやりはじめたら、どこまでも行きます。
肉体を伴ってやってる人たちは、
そんなことはもう、考えもしないことで。
草刈 そうですね。
糸井 その意味では、
デジタルに慣れ切っちゃった人に
この映画を見せるというのはおもしろいね。
周防 (笑)
糸井 「材料だけ揃えれば料理できると思ったら
 大間違いだよ」
ということが、如実にわかる映画ですよ。
周防 はい、とにかく現場がすべてです。
ジャンプを撮るときに
高さを出したいんだったら
カメラのアングルを
ああだこうだ考えればいいんですが、
すごく高く飛んだということが
この作品にとってどういう意味を持つんだ、
と考えないとね。
ジャンプは高けりゃいいのか?
高さより美しさを
考えなければならないこともある。
そういうふうに、踊りを
壊さないようにしなければいけないんです。
草刈 今回の映像を
粗編集のときに観たときも感じたんですが、
映像に趣があります。
作品をちゃんと映像で表現している感じがした。
そういう映像は、バレエの場合、
なかなかないんですよ。
糸井 いわゆる劇場中継のようなものは
たくさんあるけど。
草刈 劇場中継か、あるいは
凝りすぎちゃって、
その監督の技術を見せることになりがちです。
凝りすぎると、踊りを通して
何を表現するかが
映像からはわからなくなってしまう。
新しい試みをする映像は、
ほとんどそこに陥ってしまいます。

それは、踊りに例えると、
テクニカルな踊りです。
結局何を見せたいのか、わからなくなる。

だけど、この作品は、
作品を表現することが芯にあるから、
すごく映画的でありながら
踊りとしても、全部がきちっと立っています。
監督の、踊りの振付を読み取る力は
15年の間に高まってるので(笑)。
周防 15年のあいだ、いっしょに
いろいろな人の踊りも観に行ってるんで、
おそらく日本の映画監督で
いちばんバレエを観てるんじゃないかと
思います。
(つづきます)
2011-07-06-WED
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HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN