Mistletoe株式会社の孫泰蔵さんと、
糸井重里が対談をしました。
きっかけは孫さんがSNSで、糸井が尊敬する
岩井克人さんについて語っていたこと。
しかも孫さんの会社
「Mistletoe(ミスルトウ)」があるのは、
ほぼ日の事務所と同じビル。
そんな縁もあって、4月のある日、
ふたつの会社のメンバーが観客となった、
とくべつな公開対談がおこなわれました。
対談後、みんなが口々に
「おもしろかった!」と言い合った、
その日のトークをご紹介します。
- 糸井
- 受験勉強もされたんですか?
- 孫
- 大学に入るときに2浪しました。
- 糸井
- お父さんがそこの猶予をくれたんですね。
- 孫
- まぁそうですね。
親父は8人兄弟の長男なんですけど、
中学を卒業後すぐに働かざるを得なかった人で、
だから息子たちには好きなだけ
勉強してもらいたいと思っていたんです。
そういう父親なので、
環境はすごく恵まれていたと思います。
- 糸井
- なるほど。
- 孫
- 親父の話をすこしだけすると、
自分に学がなかったというコンプレックスで、
82歳のいまも、誰より勉強してるんです。
つい先週も孫の顔を見せに
里帰りしたんですけど、
「お前、最近AIすごいな。ディープラーニングぞ」
とか言われて
「‥‥おおお、はい」となりました。
- 糸井
- そこまでですか。
- 孫
- なんだかずっと勉強してますね。
- 糸井
- だけど今日の話を聞いてると
孫さんにはその2浪分が
すごく大事だったという気がしますね。
- 孫
- 2浪のときもね、すごかったです。
僕は男子校でずっと育って、いまで言う
「コミュ障(コミュニケーション障害)」
だったんですね。
まったく女の子と話せなくて。
それが高3のとき、
初めてガールフレンドができまして。
- 糸井
- おぉ(笑)。
- 孫
- もう舞い上がって。
西鉄久留米駅のマックで
待ち合わせとかをするわけです。
一緒にシェイク飲んで帰るだけなんですけど。
そうしたら、見事に受験に落ちまして。
- 会場
- (笑)
- 孫
- だけど、1浪のときの時間が最高に楽しくて。
学校に行かなくていいでしょう?
親父に「免許取っていい?」って聞いたら
「まぁ、車はもう現代の馬やけんな」と。
- 糸井
- お父さん、いちいち良いですね。
- 孫
- で、サクッと取りに行きまして、
その子は短大に行ったんですけど、
彼女を送り迎えしてあげてたんです。
- 糸井
- あぁ、誇りある浪人生ですね。
- 孫
- 単純にアッシー君ですね。
- 糸井
- でも、うれしかったですよね。
- 孫
- うれしくてしょうがなくて。
もう車に乗れたこともうれしいし
「俺はどこにでも行こうと思えば、
行けるっつぇ~」みたいな。
なんかそういう、気持ちに羽が生えたようで。
「長崎でも行けるっつぇ~」みたいな。
- 糸井
- それは相当遠い(笑)。
- 孫
- 送り迎えをしたりして、もう楽しくて。
- 糸井
- 1浪のときに。
- 孫
- でも短大って忙しいんですよね。
だから彼女も保母さんになるって言って、
一生懸命勉強してたんですけど。
‥‥なんで僕はいまこんなプライベートの話を
してるんでしょう?
- 会場
- (笑)
- 孫
- ふと我に返っちゃった。恥ずかしい。
- 糸井
- いやいやすごい。
下地が見えてきちゃったね。
- 孫
- それで「図書館で勉強しようね」って言って、
一緒に出かけて僕は受験勉強、
彼女は短大の勉強をするというので、
また楽しくて。
- 糸井
- かわいいなぁ。
- 孫
- ‥‥それでまた落ちまして。
- 会場
- (笑)
- 糸井
- やっぱり東大を狙ってたんですか?
- 孫
- いや、全部落ちたんです。
6校くらい受けたんですけど、
滑り止めもなにもかも、全部落ちました。
- 糸井
- それほど楽しかったんですね。
- 孫
- だけど、それでヤバいってなったんです。
進学校だったんで、
周りに2浪なんていないんですよ。
親父は「もう行かんでいいやないか」とか
言ってたんですけど、
そのとき、マサヨシ(孫正義氏)に東京に
呼びつけられまして。
- 糸井
- あ、そこで登場するんですか。
- 孫
- はい。「お前、どういうこっちゃ」と。
「いや、ちょっとなんか、
一所懸命頑張ってるんだけど‥‥」
とかなんとか言って。
- 会場
- (爆笑)
- 孫
- 「力不足でした」と言ったら
「お前の人生やからまぁいいけど、
志望校とかいちおうあるんやろ?」
と聞かれるわけです。
で、「いちおうありますよ、二、三‥‥」と。
- 糸井
- うん。
- 孫
- それで兄が言うわけです。
「じゃあお前は、その志望校に対して、
もうこれ以上はないっていうくらい
全力でやったんか」と。
- 糸井
- おぉ。
- 孫
- 「いや、全力かって言われれば全力ではないです」
- 会場
- (笑)
- 孫
- それで
「いやね、もしお前が全力で、
『俺は完全にやり切った』と思えるくらいやれば、
たとえそれがうまくいかなかったとしても、
お前の人生はその後にいけるだろう。
だけど、それもやらずに結局ダメで、
そのとき自分にいろんな言い訳をして、
斜に構えて、
世の中に『ケッ』とか言いながら
『俺は行きたくなかったんで』とか言って、
そんなふうに自分にずっと
言い訳を続けるような人生で
‥‥うれしいか、お前は!」って言われて。
- 糸井
- おぉー。
- 孫
- なんかグサグサ来るような、
言われていちばん嫌なことばっかりを
グリグリ言われて。グリグリ。
- 糸井
- (笑)当たりばっかりを。
- 孫
- はい。頭にも来るんですけど、そのとおりで。
それで兄が
「お前も一回でもいいから
『もうこれ以上やれん!』ってくらいやってみろ。
俺はやったぞ」とか言うわけです。
彼はバークレー(カリフォルニア大学
バークレー校)に行くときに、
すごく頑張ったんですよね。
それは聞いていたので。
- 糸井
- ああ。
- 孫
- しかも彼女にはフラれまして。
- 糸井
- 1浪中にフラれたんですか。
- 孫
- そうなんです。
もう受験は落ちるわ、フラれるわ、
いろいろなことでグリグリされまして。
これはもう耐えるしかないと思って
東京にやって来たんです。
友達がいると、僕はつい楽しくなるので。
- 会場
- (笑)
- 孫
- それで東京に来て、駿台予備校へ行って。
自分なりに突き詰めようということで、
1年間、これ以上ないってくらい
やったんですよね。
兄のアドバイスもあるんですけど、
まず親父に
「出世払いで返すから」とお金を借りて、
本屋さんに行って
あらゆる受験参考書を全部買ったんです。
そしてそれを
「全部2回ずつマスターする」というのを
1年間でやるという目標にしたんですね。
- 糸井
- それ、誰が考えたんですか?
- 孫
- それは兄が
「経営の神髄をお前に教えてやろう」
みたいなことで。
- 糸井
- あ、えぇ?
- 孫
- 「受験に成功する・しない」は
コントロール不可能じゃないですか。
でも「自分が努力するかどうか」は
自分でコントロールできる。
だから「これだけやる」とやることを決めて、
ひたすら集中してそれをやれ、という。
- 糸井
- つまり余計なことを
考える隙がなくなるわけですね。
- 孫
- はい、その参考書が
段ボール8つ分くらいありまして。
- 糸井
- 段ボール8つ? それはひどい(笑)。
- 孫
- 6畳一間にそれを入れて
「これを全部やるんだ‥‥」
みたいな感じでしたね。
- 糸井
- なんだか、本宮ひろ志の漫画みたいですね。
- 孫
- 実は僕、本宮先生も大好きなんです。
- 糸井
- (笑)
- 孫
- それで兄からは
「1日に6時間寝れば十分だ。
18時間、勉強し続けるのをやってみろ」
とか言われて
「俺はそれはやったぞ。おれはやった」って。
- 糸井
- はぁー。
- 孫
- だけど、続けてこうも言うわけです。
「でもお前、18時間やるのは無理よ。
むずかしいよ。
できないかと言われればできるんだけど、
集中力が、切れる。
だから最初で最後だ。
集中力が切れん方法をお前に教えてやる」
とか言われまして。
「それはだな‥‥30分とか1時間単位で
教科書を変えればいいんだ」と。
つまり、
「30分経てば、新しい教科書!」
- 糸井
- (笑)新鮮になるわけですね。
- 孫
- それで根性がつくと。
- 糸井
- 孫正義さん、本宮ひろ志マニアだったんですか?
- 孫
- そんなことないです。
でも「巨人の星」世代なんですよね。
あの人、小学生のときに
鉄ゲタ作ってるんですよ。
木工所とか鉄工所行って、おっちゃんに
「鉄ゲタば作ってください」
とか言ったらしいんです。
だから「お前、鉄ゲタ知っとるか。
あれはな、鉄のまま作ると歩けんのだよ。
曲がる機構がないと、
鼻緒が重くてうまくいかない。
だからヒンジを作るんだ」
とかそういう自慢してましたけど。
- 糸井
- はぁ‥‥。
- 孫
- でも僕も、やっぱりちょっとその影響は
ありますね。
- 糸井
- それは「根性×実現性」みたいな
「本当にならないと嫌だ」という気持ちですか。
- 孫
- それは絶対的にそうですね。
うちの父もそうで、
ものすごくプラクティカルなんです。
とにかく、言うだけでは意味がない。
やってなんぼという感じがあるんですね。
(続きます)
2018-05-21-MON
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN