孫 泰蔵×糸井重里対談「ご近所の社長は、やっぱりすごい人だった。」 孫 泰蔵×糸井重里対談「ご近所の社長は、やっぱりすごい人だった。」
Mistletoe株式会社の孫泰蔵さんと、
糸井重里が対談をしました。
きっかけは孫さんがSNSで、糸井が尊敬する
岩井克人さんについて語っていたこと。
しかも孫さんの会社
「Mistletoe(ミスルトウ)」があるのは、
ほぼ日の事務所と同じビル。
そんな縁もあって、4月のある日、
ふたつの会社のメンバーが観客となった、
とくべつな公開対談がおこなわれました。
対談後、みんなが口々に
「おもしろかった!」と言い合った、
その日のトークをご紹介します。
(7)予備校の方法じゃなく。
糸井
これまで下地の孫さんを知らなかったから、
今日は話を聞けて、とてもおもしろいです。
話すことないです、こんなこと(笑)。
糸井
もったいないですね。
そうですか。
糸井
僕はよく言うんですが、人って実は、
外での肩書きとか服装とか髪型とかを
みんな脱ぎ去って、
家で似合わない浴衣かなにかを着て
ゴロゴロしているのが「その人」なんで。
ああ、なるほど。
糸井
そのときのその人が「うまいなぁ」と思った
リンゴは本当にうまいし、
「おもしろいな」と思ったテレビは
本当におもしろい。
‥‥そのあたりのところで
僕はいろいろな判断をしてるんですね。
ええ。
糸井
だけどいまの時代って、そういう格好を
みんながしてられないんですよ。
絶えず誰かが見てる自分になっちゃってるから。
特にSNS以後って
たとえば「ビートルズが好きだ」と言うと、
もう2秒後には「お前に何がわかる」と
反論がある。
それに対して「お前こそ何がわかるんだ?」と
反論するときには、
もう自分も仮面をつけてますよね。
そうですね、自分でつけますね。
糸井
こういう時代にみんながのびのびと
裸の自分になれる場所がどこにあるかというと、
家の中だってそんなにないかもしれない。
役割を求められる部分が
あちこちでありますから。
だからいま、以前にも増して、
さきほどの1浪時代の孫さんみたいな、
のびのびとした時間が貴重だと思うんです。
僕もあんな過ごし方は当時だからできたことで、
いまは無理かもしれないですね。
自分が現代の学生だったら、
たとえ浪人してても、違ったかもしれないです。
糸井
だけど、みんながいろんな場面で、
「のびのびなんてしてられない。
すべてのコントロールが大事なんだ」
とか真面目になりはじめると、
ついつい誰もが
「どうすれば効率的にうまくいくか」
を突き詰めはじめるんですよ。
ああー。
糸井
自分が釣りに夢中だったときに
思ったことなんだけど、
釣りってみんな好きだから一所懸命やるんです。
マニュアル本とかもあるから、
そういうのを熱心に読みはじめる。
で、その通りにやればうまくいく気がするから、
自分の感覚とか考えをいったん脇に置いて、
書かれている内容を
真面目に実践していくわけです。
でもそれをどんどんやっていったある日、
ふと気づくと、そこにいる全員が
「今日はこの時期のこの天気で、
こういう場所だから、魚はこうやって行動する。
だから最善の手はこれに決まってる」
みたいに同じことを考えてるのが
ハッとわかったんです。
‥‥これ、予備校みたいだなと思って。
たしかに予備校みたいですね(笑)。
せっかく釣りに来たはずなのに。
糸井
そうなんです。
そしてみんなが
「自分に欠けはないか」みたいに、
お互いにどちらが完璧かということの
チェックをしあってるんです。
それ、まずいですよね。
大会とかでも、そういう人たちは
やっぱり優勝しないですよ。
まあ、そうでしょうね。
糸井
そのとき優勝するのは、全然違う
「自分は今日こう思ったのでこうしました」
という、その上を行くやつなんです。
ああー。
糸井
だから、それこそいまの僕は、
みんなが
「なんでもないただの自分になる」
時間や状態を作るのが、
ものすごく大事なんじゃないかと思うんです。
それが自分の頭で考える土壌になりますから。
しかもそれは意識的に作らないと、
できないでしょうね。
糸井
できないと思います。
それで急に、話をいまに飛ばしますけど‥‥。
あ、はい。
糸井
孫さんがこの会社をされていながら
「この建物にいる時間が少ない」という話に、
僕はとても興味があるんです。
いま、会社はここにありますけど、
孫さんはほとんどの期間、
シンガポールにいらっしゃるんですよね?
そうですね。
いまはシンガポールに住んでますから。 
糸井
ほんとはずっとこのビルにいて、
「孫さんはいつも僕らと一緒にいて、
常に相談にのってくれるんです」
とかっていうのが、
みんながいちばん納得する方法だと思うんです。
だけどそれを選ばずに、
自分はほとんどいないようにしてる。
それって、すごいことだと思うんですよ。
まぁ、行った理由としては
「世界にはもっといろいろな起業家がいて、
自分たちもそれを応援したい」
と思ったという、
自然な流れがまずあるんですけれども。
ただ、それで僕が先に行っちゃったんですよ。
で、ここからは僕ともう一人が行って、
現地でアシスタントの子が入ってくれて
「3人で頑張ろう」みたいな。
だから、みんなはもちろん東京にいて、
僕だけオンラインで
入ってくるみたいな感じなんですよね。
糸井
はい、はい。
もちろんそれなりに不便もあると思います。
ただ、そういう感じでいるのが、
僕にとってもそれこそ
新しい釣り場に来たみたいな感覚で楽しいし、
逆にみんなも僕がいないことで
のびのびできるんじゃないかというのがあって。
糸井
だけどその判断って、
なかなか勇気のいることですよね。
最初はやっぱりドキドキしましたね。
糸井
そのあたりって、きっと、
論理的にも考えていらっしゃると
思うんですけど、
孫さんはどのように考えていったのかなと
思うんです。
それでいうと、
さきほどの釣りの話でも出て来た
「定石だけをやっていてはダメだ」
という感覚は僕もありまして。
糸井
ええ、ええ。
(続きます)
2018-05-23-WED