Mistletoe株式会社の孫泰蔵さんと、
糸井重里が対談をしました。
きっかけは孫さんがSNSで、糸井が尊敬する
岩井克人さんについて語っていたこと。
しかも孫さんの会社
「Mistletoe(ミスルトウ)」があるのは、
ほぼ日の事務所と同じビル。
そんな縁もあって、4月のある日、
ふたつの会社のメンバーが観客となった、
とくべつな公開対談がおこなわれました。
対談後、みんなが口々に
「おもしろかった!」と言い合った、
その日のトークをご紹介します。
- 糸井
- これまで下地の孫さんを知らなかったから、
今日は話を聞けて、とてもおもしろいです。
- 孫
- 話すことないです、こんなこと(笑)。
- 糸井
- もったいないですね。
- 孫
- そうですか。
- 糸井
- 僕はよく言うんですが、人って実は、
外での肩書きとか服装とか髪型とかを
みんな脱ぎ去って、
家で似合わない浴衣かなにかを着て
ゴロゴロしているのが「その人」なんで。
- 孫
- ああ、なるほど。
- 糸井
- そのときのその人が「うまいなぁ」と思った
リンゴは本当にうまいし、
「おもしろいな」と思ったテレビは
本当におもしろい。
‥‥そのあたりのところで
僕はいろいろな判断をしてるんですね。
- 孫
- ええ。
- 糸井
- だけどいまの時代って、そういう格好を
みんながしてられないんですよ。
絶えず誰かが見てる自分になっちゃってるから。
特にSNS以後って
たとえば「ビートルズが好きだ」と言うと、
もう2秒後には「お前に何がわかる」と
反論がある。
それに対して「お前こそ何がわかるんだ?」と
反論するときには、
もう自分も仮面をつけてますよね。
- 孫
- そうですね、自分でつけますね。
- 糸井
- こういう時代にみんながのびのびと
裸の自分になれる場所がどこにあるかというと、
家の中だってそんなにないかもしれない。
役割を求められる部分が
あちこちでありますから。
だからいま、以前にも増して、
さきほどの1浪時代の孫さんみたいな、
のびのびとした時間が貴重だと思うんです。
- 孫
- 僕もあんな過ごし方は当時だからできたことで、
いまは無理かもしれないですね。
自分が現代の学生だったら、
たとえ浪人してても、違ったかもしれないです。
- 糸井
- だけど、みんながいろんな場面で、
「のびのびなんてしてられない。
すべてのコントロールが大事なんだ」
とか真面目になりはじめると、
ついつい誰もが
「どうすれば効率的にうまくいくか」
を突き詰めはじめるんですよ。
- 孫
- ああー。
- 糸井
- 自分が釣りに夢中だったときに
思ったことなんだけど、
釣りってみんな好きだから一所懸命やるんです。
マニュアル本とかもあるから、
そういうのを熱心に読みはじめる。
で、その通りにやればうまくいく気がするから、
自分の感覚とか考えをいったん脇に置いて、
書かれている内容を
真面目に実践していくわけです。
でもそれをどんどんやっていったある日、
ふと気づくと、そこにいる全員が
「今日はこの時期のこの天気で、
こういう場所だから、魚はこうやって行動する。
だから最善の手はこれに決まってる」
みたいに同じことを考えてるのが
ハッとわかったんです。
‥‥これ、予備校みたいだなと思って。
- 孫
- たしかに予備校みたいですね(笑)。
せっかく釣りに来たはずなのに。
- 糸井
- そうなんです。
そしてみんなが
「自分に欠けはないか」みたいに、
お互いにどちらが完璧かということの
チェックをしあってるんです。
それ、まずいですよね。
大会とかでも、そういう人たちは
やっぱり優勝しないですよ。
- 孫
- まあ、そうでしょうね。
- 糸井
- そのとき優勝するのは、全然違う
「自分は今日こう思ったのでこうしました」
という、その上を行くやつなんです。
- 孫
- ああー。
- 糸井
- だから、それこそいまの僕は、
みんなが
「なんでもないただの自分になる」
時間や状態を作るのが、
ものすごく大事なんじゃないかと思うんです。
それが自分の頭で考える土壌になりますから。
- 孫
- しかもそれは意識的に作らないと、
できないでしょうね。
- 糸井
- できないと思います。
それで急に、話をいまに飛ばしますけど‥‥。
- 孫
- あ、はい。
- 糸井
- 孫さんがこの会社をされていながら
「この建物にいる時間が少ない」という話に、
僕はとても興味があるんです。
いま、会社はここにありますけど、
孫さんはほとんどの期間、
シンガポールにいらっしゃるんですよね?
- 孫
- そうですね。
いまはシンガポールに住んでますから。
- 糸井
- ほんとはずっとこのビルにいて、
「孫さんはいつも僕らと一緒にいて、
常に相談にのってくれるんです」
とかっていうのが、
みんながいちばん納得する方法だと思うんです。
だけどそれを選ばずに、
自分はほとんどいないようにしてる。
それって、すごいことだと思うんですよ。
- 孫
- まぁ、行った理由としては
「世界にはもっといろいろな起業家がいて、
自分たちもそれを応援したい」
と思ったという、
自然な流れがまずあるんですけれども。
ただ、それで僕が先に行っちゃったんですよ。
で、ここからは僕ともう一人が行って、
現地でアシスタントの子が入ってくれて
「3人で頑張ろう」みたいな。
だから、みんなはもちろん東京にいて、
僕だけオンラインで
入ってくるみたいな感じなんですよね。
- 糸井
- はい、はい。
- 孫
- もちろんそれなりに不便もあると思います。
ただ、そういう感じでいるのが、
僕にとってもそれこそ
新しい釣り場に来たみたいな感覚で楽しいし、
逆にみんなも僕がいないことで
のびのびできるんじゃないかというのがあって。
- 糸井
- だけどその判断って、
なかなか勇気のいることですよね。
- 孫
- 最初はやっぱりドキドキしましたね。
- 糸井
- そのあたりって、きっと、
論理的にも考えていらっしゃると
思うんですけど、
孫さんはどのように考えていったのかなと
思うんです。
- 孫
- それでいうと、
さきほどの釣りの話でも出て来た
「定石だけをやっていてはダメだ」
という感覚は僕もありまして。
- 糸井
- ええ、ええ。
(続きます)
2018-05-23-WED
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN