孫 泰蔵×糸井重里対談「ご近所の社長は、やっぱりすごい人だった。」 孫 泰蔵×糸井重里対談「ご近所の社長は、やっぱりすごい人だった。」
Mistletoe株式会社の孫泰蔵さんと、
糸井重里が対談をしました。
きっかけは孫さんがSNSで、糸井が尊敬する
岩井克人さんについて語っていたこと。
しかも孫さんの会社
「Mistletoe(ミスルトウ)」があるのは、
ほぼ日の事務所と同じビル。
そんな縁もあって、4月のある日、
ふたつの会社のメンバーが観客となった、
とくべつな公開対談がおこなわれました。
対談後、みんなが口々に
「おもしろかった!」と言い合った、
その日のトークをご紹介します。
(8)MBA野郎だった。
さきほど
「効率的な方法を追い求めていくと、
みんながつい定石ばかりを選ぶようになる」
という釣りの世界での
定石の話がありましたけど。
糸井
はい。
経営の世界となると特に
「ミスをしちゃいけない」「責任が重い」
「自分個人だけの話じゃない」
といったことがあるがゆえに、
なおのこと定石に
引き寄せられてしまう力が強いんですね。
監査法人だなんだって、関わる人も多くて
「こうしたいんです」とか言っても
「それは無理です」「法的に難しいです」とか、
そちら側に押し込める力も強くある。
糸井
ええ、わかります。
だけどビジネスってやっぱり、
他所と差別化しなきゃいけないというのも
やっぱりあるわけです。
そして定石だけでは
まったく差別化ができないわけです。
やっぱり経営者というのは、
常に誰もがそこを考えなければいけない。
もちろん定石が必要な場面もありますけど
「ここには定石が必要だけど、
差別化のためにどこを変えるか」
といったことへの意識は当然必要です。
糸井
孫さん自身はそのあたりの感覚を
どうやって身につけていったのでしょうか。
そういう意味で言うと僕は、
いわゆるMBA(経営学修士)的な定石を
20年以上やってきたんです。
だけど最近、そういうやりかたが
「なんだかつまんねぇな」と思っちゃってて。
糸井
そっちはそっちで習おうとはしたんですか?
いや、もう、ものすごくMBA野郎でしたよ。
すごく勉強してきてます。
糸井
あ、そうなんですか。
はい。ですけど、
最近は時代が変わってきたので
「これまでの定石は害である」という場面が
すごく多いように感じています。
それって
「定石じゃないほうがおもしろそうだから、
そっちを選ぶ」というよりも、
はっきりと定石にマイナスが多いというか。
糸井
何も考えずに応用すると
「おしゃべりだけが得意な人」
みたいになりますよね。
なりますね。
だからMBAはね、もう害です。
糸井
害ですか(笑)。
はい。たとえば事業計画とか、
マイルストーン(中間目標)を立てるとかって
科学的なアプローチだと思うんですけど、
いま僕は
「事業計画は本当によくない」
と思っているんです。
だからいま、少なくとも僕が関わっている
事業やスタートアップに関しては
「事業計画を作ったらぶっ殺す」
と言っています。
会場
(笑)
糸井
それほどですか。
はい。ずっとその理由が
うまく言語化できなかったんですけど、
最近すこしわかったのは、
計画とか予算とかを立てると、
人間ってどうしても
それを守ろうとするじゃないですか。
糸井
はいはい。
だけど実際の仕事って、
いろんなところで偶発的なセレンディピティ
(予期せぬ幸運)みたいなものがあって、
シグナルが「チカチカ」ってするんですよね。
そのときにそれを取れば、
物事がダイナミックに回っていったり、
思わぬ展開があったりする。
実際そういうことってすごくあるんですよ。
糸井
ありますね。
だけど予算や計画があると、
そのシグナルを無視したくなるんです。
シグナルを感じるセンサー自体を
自分から切っちゃうことすらある。
で、せっかくシグナルが来てるのに、
それを取らないことのマイナスって、
すごく大きいなと思うんです。
時代的にもいま複雑系の世の中になって、
ますますその複雑さが増えている中では、
最初に決めた計画を遵守するより、
シグナルを捕まえながらやっていくことのほうが
合理的だと思うんです。
糸井
そのシグナルというのは、
たくさんのデータを見ることじゃなくて。
まったく違いますね。
糸井
究極を言えば、自分のなかに
シグナルが出てくるという。
あ、そうですね。
糸井
さきほど僕が
「肩書きや役割をすべて取り払ったのが
その人だ」
という話をしましたけど、
そんなふうにのびのびした状態になると
「人はこういうの嫌いだよな」と
「自分はそれは嫌だな」が
重なることが、とても多くなるんです。
そうですね、自分も人間の一人ですから。
糸井
もちろん、それでもまぁ、
仮面をつけたまま浴衣を着てたりすると
間違うんだけど、
本当に裸になって寝っ転がると、
読めるものが変わってくると思うんです。
あぁ、そうだと思います。
(続きます)
2018-05-24-THU