Mistletoe株式会社の孫泰蔵さんと、
糸井重里が対談をしました。
きっかけは孫さんがSNSで、糸井が尊敬する
岩井克人さんについて語っていたこと。
しかも孫さんの会社
「Mistletoe(ミスルトウ)」があるのは、
ほぼ日の事務所と同じビル。
そんな縁もあって、4月のある日、
ふたつの会社のメンバーが観客となった、
とくべつな公開対談がおこなわれました。
対談後、みんなが口々に
「おもしろかった!」と言い合った、
その日のトークをご紹介します。
- 孫
- さきほど
「効率的な方法を追い求めていくと、
みんながつい定石ばかりを選ぶようになる」
という釣りの世界での
定石の話がありましたけど。
- 糸井
- はい。
- 孫
- 経営の世界となると特に
「ミスをしちゃいけない」「責任が重い」
「自分個人だけの話じゃない」
といったことがあるがゆえに、
なおのこと定石に
引き寄せられてしまう力が強いんですね。
監査法人だなんだって、関わる人も多くて
「こうしたいんです」とか言っても
「それは無理です」「法的に難しいです」とか、
そちら側に押し込める力も強くある。
- 糸井
- ええ、わかります。
- 孫
- だけどビジネスってやっぱり、
他所と差別化しなきゃいけないというのも
やっぱりあるわけです。
そして定石だけでは
まったく差別化ができないわけです。
やっぱり経営者というのは、
常に誰もがそこを考えなければいけない。
もちろん定石が必要な場面もありますけど
「ここには定石が必要だけど、
差別化のためにどこを変えるか」
といったことへの意識は当然必要です。
- 糸井
- 孫さん自身はそのあたりの感覚を
どうやって身につけていったのでしょうか。
- 孫
- そういう意味で言うと僕は、
いわゆるMBA(経営学修士)的な定石を
20年以上やってきたんです。
だけど最近、そういうやりかたが
「なんだかつまんねぇな」と思っちゃってて。
- 糸井
- そっちはそっちで習おうとはしたんですか?
- 孫
- いや、もう、ものすごくMBA野郎でしたよ。
すごく勉強してきてます。
- 糸井
- あ、そうなんですか。
- 孫
- はい。ですけど、
最近は時代が変わってきたので
「これまでの定石は害である」という場面が
すごく多いように感じています。
それって
「定石じゃないほうがおもしろそうだから、
そっちを選ぶ」というよりも、
はっきりと定石にマイナスが多いというか。
- 糸井
- 何も考えずに応用すると
「おしゃべりだけが得意な人」
みたいになりますよね。
- 孫
- なりますね。
だからMBAはね、もう害です。
- 糸井
- 害ですか(笑)。
- 孫
- はい。たとえば事業計画とか、
マイルストーン(中間目標)を立てるとかって
科学的なアプローチだと思うんですけど、
いま僕は
「事業計画は本当によくない」
と思っているんです。
だからいま、少なくとも僕が関わっている
事業やスタートアップに関しては
「事業計画を作ったらぶっ殺す」
と言っています。
- 会場
- (笑)
- 糸井
- それほどですか。
- 孫
- はい。ずっとその理由が
うまく言語化できなかったんですけど、
最近すこしわかったのは、
計画とか予算とかを立てると、
人間ってどうしても
それを守ろうとするじゃないですか。
- 糸井
- はいはい。
- 孫
- だけど実際の仕事って、
いろんなところで偶発的なセレンディピティ
(予期せぬ幸運)みたいなものがあって、
シグナルが「チカチカ」ってするんですよね。
そのときにそれを取れば、
物事がダイナミックに回っていったり、
思わぬ展開があったりする。
実際そういうことってすごくあるんですよ。
- 糸井
- ありますね。
- 孫
- だけど予算や計画があると、
そのシグナルを無視したくなるんです。
シグナルを感じるセンサー自体を
自分から切っちゃうことすらある。
で、せっかくシグナルが来てるのに、
それを取らないことのマイナスって、
すごく大きいなと思うんです。
時代的にもいま複雑系の世の中になって、
ますますその複雑さが増えている中では、
最初に決めた計画を遵守するより、
シグナルを捕まえながらやっていくことのほうが
合理的だと思うんです。
- 糸井
- そのシグナルというのは、
たくさんのデータを見ることじゃなくて。
- 孫
- まったく違いますね。
- 糸井
- 究極を言えば、自分のなかに
シグナルが出てくるという。
- 孫
- あ、そうですね。
- 糸井
- さきほど僕が
「肩書きや役割をすべて取り払ったのが
その人だ」
という話をしましたけど、
そんなふうにのびのびした状態になると
「人はこういうの嫌いだよな」と
「自分はそれは嫌だな」が
重なることが、とても多くなるんです。
- 孫
- そうですね、自分も人間の一人ですから。
- 糸井
- もちろん、それでもまぁ、
仮面をつけたまま浴衣を着てたりすると
間違うんだけど、
本当に裸になって寝っ転がると、
読めるものが変わってくると思うんです。
- 孫
- あぁ、そうだと思います。
(続きます)
2018-05-24-THU
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN