絵本『生きているのはなぜだろう。』
発売記念インタビューコンセプトアーティスト
田島光二さん
ほぼ日の絵本プロジェクト第二弾
『生きているのはなぜだろう。』の作画は、
カナダ在住の田島光二さんです。
ハリウッドの映画業界で活躍する
コンセプトアーティストの田島さんは、
『ブレードランナー2049』『ヴェノム』など、
VFX技術をつかった最新作品の多くに関わる
若手トップアーティストのひとり。
ポケモンやワンピースの絵を描き、
マンガ家に憧れていた日本の少年は、
いかにしてハリウッドで活躍する
コンセプトアーティストになっていったのか?
絵本の発売を記念して、
たっぷりとインタビューしました。
(取材・永田泰大 編集・稲崎吾郎)
第4回個性の獲得
──2年間学んでハリウッドに行った人がいる。
その事実だけを頼りにして、
とにかくもう、描いて、つくるわけですか。
田島そうですね、もう、ずーっと、
描いて、つくって。
──1日何時間くらい描いてたんですか。
田島いや、もう、ずーっとです。
起きている間は、だいたいずーっと。
もう、たのしくて。
──みんなが課題をひとつつくるところに、
何十個もつくって。
田島そうですね。
あと、授業のあと、学校に残って
作業できる時間があるんですけど、
みんな残るんだろうと思ってたら、
ぼくだけだったりして。
──それで、描いていると、
やっぱり力はつくわけですか。
田島まぁ、そうですね。
課題出すたびに、なんか賞をもらえて。
──田島さんがずっと描いてるなかで、
逆上がりができた瞬間というか、
「この絵を描いたときにつかんだ!」
みたいなのって、ありますか。
田島あ、ありますね。
それは‥‥‥‥これですね。
──うっわ!
急に(笑)。
田島これ描いたときは、
じぶんでもびっくりするくらい
うまくいきました。
──これは、何歳のときの作品?
田島19歳です。
──はぁぁ‥‥。
ということは、学校に入った1年後?
田島そうですね。2年になってすぐだと思います。
この頃ちょうど『ウルフマン』という映画があって、
それでオオカミ男が描きたくなって。
──学校の友だち、びっくりしてたでしょう。
田島みんな「ほんとうにつくったの?」って(笑)。
この作品ではじめて賞をもらいました。
──おぉぉ、ついに!
それは学校じゃなくて?
田島「3DCG AWARDS」という外部の賞です。
先生が「応募してみたら?」って言ってくれて。
──じゃあ、これがデビュー作品だ。
田島そうですね。
この賞をもらった頃は、
ほんと1日中絵を描いてましたね。
描いてないときの記憶がない。
──「描いてないときの記憶がない」。
なにが田島さんを
そこまでさせたんだろう。
「たのしい」という気持ちだけじゃ、
きっとそうはならないよね。
田島ひとつはっきり言えるのは、
「このままだとヤバい」という危機感です。
学校を卒業するまでの2年で、
どうしてもハリウッドに追いつかないと、
就職すらできないと思ってたので。
──世界を目指すというのは、
もうずっと変わることなく?
田島ずっと変わらず。
ハリウッドのレベルを超えないと
就職は難しいって、
本気で思っていたんで。
──就職という意味では、
日本のゲームメーカーとか、
そういう選択もあったと思うんだけど。
田島まったく考えてなかったですね。
そもそもCGをはじめたきっかけが、
やっぱりハリウッドだったから。
──ハリウッドに行ける自信はあった?
田島説明会のときからありました。
──そこがすごいんだよなぁ(笑)。
CGをやったことなかったのに、
はじめからそう思えたわけでしょう。
田島絵のことに関しては、
昔からずっと褒められて育ったので、
なぜか根拠のない自信があったんです。
まあ、褒めてくれるのは
母と父だけでしたが(笑)。
──さすがだなぁ、ご両親。
田島逆に先生からは
あまり褒められてなかったけど(笑)。
──ここまでの話を聞いて思ったのは、
例えばモデリングやライティングの技術って、
経験を重ねれば重ねるほど
うまくなるというのは、
まあ、なんとなくわかるんです。
田島はい。
──でも、いまのところ「創造性」の話って、
ほとんど出てきてないですよね。
田島ああ、はい。そうですね。
──いま、田島さんのハリウッドのお仕事って、
どっちかというとその創造性だったり、
オリジナリティの部分で
声がかかってると思うんです。
そのオリジナリティの部分って、
どうやって鍛えていったのかなって。
田島オリジナリティかぁ‥‥。
──だって趣味だけで言えば、
超王道の「ジャンプ」系が好きなわけで。
田島好きですね(笑)。
──そういう、ふつうに王道の作品を好きな人が、
どうやってふつうの人には出せない
オリジナリティを獲得していったんだろうと。
田島案外そういうことって、
じぶんではわからないからなぁ‥‥。
──じゃあ、ちょっと質問を変えましょう。
例えば、若い学生からの質問で
「ぼくにはオリジナリティがなくて、
絵を描くとよくある絵になってしまいます。
どうしたらいいでしょうか」という相談があったら、
どうアドバイスしますか。
田島ああ、なるほど‥‥。
答えになってないかもしれませんが、
ぼく自身の話をすると、
オリジナリティってそもそもないというか、
じぶんはあるほうだと思ってなくて。
──え、そうなんですか?
田島じぶんはオリジナリティが強みというより、
いままで見たのの「組み合わせの力」とか、
そういうのが求められている気がしていて。
──「組み合わせの力」というのは?
田島「アレとコレとソレをくっつけると、
こんな新しいものになった」みたいな。
いろいろ組み合わせた上で、
新しいものをつくりだす力というか。
──なにかを組み合わせるにしても、
いわゆる「よくある感じ」になる人って、
けっこう多いと思うんです。
「アレとコレを足したんだ」と見抜かれる。
田島それは見たことのあるものを、
そのまま描いちゃうからだと思います。
だから人と同じになっちゃう。
──あぁ‥‥。
田島求められるオリジナリティの度合いも、
職種によって微妙にちがうんですね。
ぼくも最初はCGモデラーという、
人のデザインをCG化する仕事をしてたんです。
でも、その仕事、ぼくには向いてなかった。
──向いてなかった?
田島「こういうのでお願い」と頼まれても、
じぶんの好きなように変えたくなるんです。
「ここをもっとこうすりゃ、
もっとかっこよくなるのに」って。
そういうことをつづけていたら、
いまの「コンセプトアーティスト」という
肩書になっていたんです。
──はーー、なるほど。
田島いまのじぶんの仕事って、
デザインもモデリングも両方できるので、
デザイナーやモデラーより自由度が高いんです。
じぶんにはそっちのほうが合ってましたね。
──しかも田島さんの場合、
完全にオリジナルというわけでもないですよね。
「だれかの映画」という制限のなかで、
自由に遊びまくってるというか。
田島そうですね。
だから、いわゆる「お題対決」ですよね。
──あ、こどものときの!
田島お母さんから発注をうけて、
兄弟3人で毎日コンペしてたので(笑)。
──やってることは、いまも同じだ(笑)。
田島ぼくもいま気づきました(笑)。
いまやってる仕事って、
まさに「お題解決」の延長なんです。
──お母さん‥‥。