- ──
- 高校総体の団体戦で負けてしまった経験から
心理学に興味を持たれた。
- 西條
- そうなんです。
そこで、大学では心理学を専攻したいと思い、
早稲田大学人間科学部の
「人間基礎科」(当時)に入学したんです。
- ──
- なるほど。
- 西條
- 本当は臨床心理系に強い「人間健康科」に
入りたかったんですが、
間違って、
似たような名前の「人間基礎科」という‥‥。
- ──
- すみません西條さん、「間違って」?
- 西條
- ええ、願書を出すときに間違っちゃって。
- ──
- 間違って違う学部に‥‥という話は
知らない誰かの笑い話として
何度か聞いたことあるんですけど、
本当に間違っちゃった人に、初めて会いました。
- 西條
- 受かったあとで気づいたんですけど
まあ、心理学は学べるし、
大学というところは
自分で学ぶ場所なんだから別にいいかと。
- ──
- 西條さんって、
めちゃくちゃプラス思考ですよね‥‥。
- 西條
- もともと、親からは
「経済的に、国立じゃなきゃ無理」だと
言われていたんです。
でも、早稲田に行きたかったので、親に
「自分のお金で受けるし、
受かっても行かないから受けさせてほしい」
とお願いして、受験させてもらって。
- ──
- あのう、
「受かっても行かない」というのは‥‥。
- 西條
- (とくに意に介する風もなく)
だから、
きちんと願書を読んでいなかったのかも
しれませんね。
- ──
- なのに、間違ったのに、受かってしまった。
- 西條
- はい、国立大学も合格したんですが、
早稲田にも受かりました。
- ──
- で、「どうしようかな」と?
- 西條
- そうなんです。
というのも、私学の早稲田に入るなら
基本的に「仕送りなし」で
自活していかなければならない状況だったので、
大変なのは目に見えていました。
でも、行きたい大学に行けないことと
生活で苦労するということ、
どっちを選んでも後悔はあるだろうし、
それなら、行きたい大学に行くべきだと思って
早稲田に決めたんです。
- ──
- 人生の大きな岐路ですね、そこは。
- 西條
- 幸い、早稲田は奨学金制度が充実していたので、
奨学金をいただき、足りない分は
家庭教師のアルバイトでなんとかやってました。
本当に大変なときは
親や親戚が、助けてくれましたし。
- ──
- じゃあ、苦学生だったわけですね。
今のお姿からすると、意外な感じもしますけど。
- 西條
- 大きな声では言えませんが、当時は
電話、電気、水道‥‥
しょっちゅう止められていたり、とか。
- ──
- それって「ライフラインの断絶」ですよね。
僕も学生時代に経験ありますが。
- 西條
- 電気は、まあ、まだ我慢できるんですけど、
正直、水道はキツかったです。
近所の公衆トイレまで、
わざわざ、走らなきゃならないので(笑)。
- ──
- ‥‥ご苦労されて。
- 西條
- ちなみにですけど、
高校ではまったく勉強しなかったので、
数学で0点を取ったりして、
二浪の末、
ようやく早稲田に入ったんです、僕。
どんどん話が脱線していきますけど。
- ──
- いえ、脱線はいいんですが、
「数学0点」とか「二浪の末に」とかって、
大学教授にまでなった人が。
- 西條
- 僕の出た高校は「仙台三高」といいまして
わりとスポーツが盛んで
その地域では、2番目の進学校でした。
で、入学試験では首席だったんですが‥‥。
- ──
- え! 首席というと、トップ合格ですか。
めちゃくちゃ勉強できるじゃないですか。
- 西條
- いや、ちいさい妹もふたりいましたし、
お金がもったいないなと思って
滑り止めの私立校に
仮の入学金を払わなくていいと親に言った手前、
落ちると行き場がなかったんです。
で、本気で勉強したら首席だと連絡がきまして。
- ──
- はー‥‥はあ。
- 西條
- 入学式の前に、両親が呼び出されたんです。
ふたりは僕が何かやらかしたのでは‥‥と
心配しながら行ったようですが、
「宮城県のトップと3点差だった」
と言われて、
入学式で宣誓文を読むことになったんです。
- ──
- でも、そんなにすごかったのに‥‥0点?
- 西條
- テニスをやるために
テニスの強い高校に入ったくらいの
気持ちでいたので
もう、1年生の夏休みの終わりには
「300番台」に急落していました。
- ──
- 浮き沈みの激しさが半端じゃないです。
- 西條
- 0点を取ったときは、
部活のみんなには拍手喝采されましたが、
さすがに学年主任に呼び出されて
「トップで入って
こんな点数を取ったやつは今までいない」
とこっぴどく怒られました。
- ──
- そうでしょうね‥‥。
なにしろ「0点」ですもんね。
- 西條
- ええ。
- ──
- たいへんせんえつながら、
西條さんのことを漢字であらわすとしたら、
「極端」という二文字だと思いました。
- 西條
- 関心あることにはとことん没頭するんですが
どうも関心がないとサッパリダメ、なんです。
だから、中学の先生にも
「ビックウェーブ」と呼ばれていましたし。
- ──
- 言い得て妙ですね(笑)。
- 西條
- 僕は自分が本当にやりたいことでなければ
力を充分に発揮できない。
これらの経験から
そのことがわかっていましたから
サラリーマンは無理だ、
やるなら学者がいいだろうと思ったんです。
- ──
- つまり、今の仕事は天職なわけですね。
ちなみに「0点」のこと、
おもしろそうなので
もう少し、お伺いしても宜しいでしょうか。
- 西條
- ええ、いいですよ。
- ──
- 科目は「数学」ということですが‥‥。
- 西條
- 三角関数ってあるじゃないですか。
Sin(サイン)Cos(コサイン)Tan(タンジェント)
というやつ。
- 西條
- ぼく、あれを、テストの前日になって
友だちに「このシンコスタンって何のこと?」
と聞いていたらしいんですよ。
- ──
- 読みかたからして間違ってる‥‥。
- 西條
- 0点を取ったテストは記述式の問題で、
自分なりにすべて解きました。
このとき、点数の高い方が勝ち、
自信がなければ半額払って降りることができる、
というルールの賭けをしていたんです。
友だちと、賭け金は「1000円」で。
- ──
- 高校生にとっては大きな金額ですね。
- 西條
- テストのあと「ぜんぶ解いたよ」と言ったら
そいつは自信をなくしたのか、
賭け金の半額、
つまり500円を払って勝負を降りました。
- ──
- その時点で、賭けには勝ってますね。
- 西條
- はい。でも、実際フタを開けてみたら‥‥。
僕の答案、
すべての欄に「○」がつけられていました。
「やった!」と思ったのも束の間、
合計点数のところにも「○」がついていて。
- ──
- それってつまり「マル」じゃなく「ゼロ」?
- 西條
- そう。しかも僕が0点で、そいつは60点。
- ──
- 0点なのに、賭けに勝ったんですか!
ご友人、さぞ悔しかったでしょうね‥‥。
- 西條
- ものすごく悔しがってました(笑)。
で、そのときに
「実力と勝負というのは別物なんだな」
と痛感したんです。
- ──
- そこでも「心の問題」が関係していたと
いうわけですね。
- 西條
- そうですねぇ‥‥というより、
いまの話は
それ以前の問題だと思いますけど(笑)。
- ──
- ある意味、勇気の出るお話の数々、
まことにありがとうございます。
<つづきます>
2014-09-24-WED