- ──
- いまは、主に何をされているんですか?
- 西條
- 今年から、肩書が
早稲田の「客員准教授」になったんですが
授業の数は、減っちゃいまして。
- ──
- おっしゃってましたよね。
専任講師から准教授になったけど‥‥と。
- 西條
- そう、土曜日の1コマだけになりました。
だから、すごく時間があるんです。
なので、家で「子育て」をやってますね。
- ──
- いま、お子さんは‥‥?
- 西條
- 1歳2ヶ月かな。
- ──
- じゃあ、この研究室にも
毎日、来てるってわけじゃないんですか。
- 西條
- ここ数ヶ月は、家で論文を書いたりとか
自分の研究のことを
部屋にこもって考えていることのほうが
多かったですね。
それとまあ‥‥「子育て」と。
- ──
- この9月末に、西條さんの「ふんばろう」も
大きく体制変換するとのことですが。
- 西條
- ええ、震災以降、
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」という
「大きな枠」のなかに
さまざまなプロジェクトが
数十の単位で存在していたんですが、
それらを束ねていた「枠」を、
この9月いっぱいで解体することにして。
- ──
- その「枠」の代表が
西條さんだったわけですけれど‥‥。
- 西條
- これまでも、個々のプロジェクトは
「半独立」のような感じで
ほぼ自立的に動いていたんです。
でも、10月からは
「完全に独立」してもらおうと思って。
- ──
- 数十もの独立プロジェクトが生まれて、
あとには何も残らない?
- 西條
- いえ、「ふんばろう支援基金」という、
各プロジェクトに
資金配分する一般社団をつくりました。
その団体と各プロジェクトとが
1対1でつながるようなイメージです。
- ──
- そうなると
西條さんの仕事も、だいぶ減りますか?
- 西條
- ええ、基金の代表理事ではありますが
基本的には年に一度、資金を配って
報告を出していただくだけですから、
僕の出番は、ほとんどなくなるでしょうね。
これまで、
「サポータークラブ」というかたちで
毎月、1000人以上の人たちが
寄付金を
「自動振込」してくださっていたのですが
その仕組みも9月でお終いにします。
- ──
- 西條さんは
「ふんばろう」をつくった直後から
「役目を終えたら、静かに消滅するのが目標」
とおっしゃっていましたが、
実際に決断した理由は、何だったんですか?
- 西條
- ステージが、変わったことですね。
- ──
- と、言いますと?
- 西條
- つまり、震災の年にやっていたような、
全国から冬物家電を集めて
被災地の1万数千世帯へ送る‥‥みたいな、
多くの人手とお金を使うステージでは
すでに、なくなっているということです。
- ──
- なるほど。
- 西條
- それよりもむしろ、
人と人との「つながり」を大切にした、
規模はちいさくても
きめ細やかで丁寧な活動が求められている。
もちろんお金も必要なんですが、
僕らの手元にプールしてある資金だけでも
あと2年くらいは、
各プロジェクトを支援できますから。
- ──
- 西條さんが代表から退いても
自律的に動く仕組みを整えたいとは
ずっと、おっしゃってましたが
今回の体制変換は
その「最終段階」というわけですね。
- 西條
- そうですね。「ふんばろう」に属している
すべてのプロジェクトが一致団結して
何かに取り組む場面は、当面ないでしょう。
だとすれば、
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」という
コンソーシアムは、
その役割を終えてもいいだろうな、と。
- ──
- 今後は、個々のプロジェクトの活動を
資金的に支えていくわけですね。
- 西條
- 僕は、
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」が
誰でも、どこでも使える
ひとつの「雛型」になったらいいなと
思っていたんです。
そうであるならば
「どうやって終わるか」も重要なので。
- ──
- なるほど、組織の終わり方まで含めて、
ひとつの「モデル化」というか、
「ワンパッケージ」というわけですね。
- 西條
- ダラダラ続けても、いいことないです。
「何のための組織だったの?」
みたいな、
肝心な部分が曖昧になってる組織って、
たくさんあるじゃないですか。
- ──
- でも、そうして
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」が
解体される月に、
「プリ・アルス・エレクトロニカ」という、
オーストリアの
芸術や文化・先端技術の権威ある祭典で
「ふんばろう」に
最優秀賞が贈られるんですよね。
- 西條
- ええ、今回「ふんばろう」が受賞したのは
「コミュニティ部門」で、
「ゴールデン・ニカ賞」と言って
何やら「コンピューターの世界のオスカー」
と呼ばれている賞みたいです。
- ──
- 過去の受賞者がすごいのですが
パソコンの世界ではおなじみというか
これなしには成立しない
「World Wide Web」(www)とか、
みんな便利に使ってる
「ウィキペディア」とか‥‥。
- 西條
- そうらしいですね。
- ──
- ものすごいことじゃないですか。
- 西條
- ええ。
- ──
- 知ってました、その賞のこと?
- 西條
- 知らなかったです。
だから、今回アルス・エレクトロニカに
ノミネートされたと聞いても、
ぜんぜんピンとこなかったんですが、
まわりの詳しい人たちに
「いやいやいや、
これは、ものすごく有名な賞だから!」
と口々に言われまして。
- ──
- ははあ。
- 西條
- なにしろ、
グランプリの受賞が決まってからしばらく
受賞したことに
ちっとも気付いていなかったくらいです。
- ──
- え、連絡とか来なかったんですか?
- 西條
- 来てました。
受賞したってメールが来てたんですけど、
2週間くらい、
迷惑メールのフォルダに入ってました。
- ──
- 西條さんらしいと言ったら失礼ですが、
なんとも西條さんらしい‥‥。
- 西條
- だって、メールの文面が
「Conguraturation!!
あなたはグランプリを受賞しました。
賞金はいくらいくらで‥‥」
みたいな、
いかにも迷惑メールじゃないですか。
- ──
- た、たしかに。
- 西條
- アルスの小川さんという日本人スタッフから
電話がかかってきて
ようやく受賞のことを知ったんです。
- ──
- 「ふんばろう」が受賞した理由は?
- 西條
- それを今度の授賞式で聞くんですけど、
まあ、行政に頼らず、
インターネットというデジタル媒体を使って
つくりあげた市民機能、新しい支援のかたち、
みたいな感じだと思います‥‥たぶん。
- ──
- なるほど。
- 西條
- メディア・アートの祭典というと
他にもたくさん、あるんだと思うんですけど、
アルス・エレクトロニカでは、
「アート・テクノロジー・社会」をテーマに
世界各地から
イノベーティブなアイディアや取り組みを
選出してるそうなんです。
- ──
- ええ。
- 西條
- 「アート」「テクノロジー」に加えて
「社会」
というテーマを設定しているところが
おもしろいですよね。
つまり、社会に実装するフェーズまで
視野に入れていて、
そして実際にその賞を受賞した作品が
世界を変えているわけですから。
- ──
- 今回「ふんばろう」が賞を取った理由も
まさしく、そこですもんね。
- 西條
- そうだと思います。
- ──
- まさに今、西條さんが解体しようとしている
「ふんばろう」という組織に
そのような権威ある賞が贈られるってことが
何だか「痛快」な感じがして‥‥。
- 西條
- ああ、そうですか?
- ──
- そこで今日は、いまの興味や関心事など
少しお時間のできた西條さんに
いろいろおうかがいしたくて、来ました。
- 西條
- はい、ありがとうございます。
このところ時間は「たっぷり」あるので、
もう、なんなりと(笑)。
<つづきます>
ハーバード・ビジネス・レビュー オンラインでも
西條剛央さんの連載がはじまりました。
『ほんとうの「哲学」に基づく組織行動入門』
2014-09-22-MON