- ──
- ここ最近、西條さんが
いちばん力を入れてきたことって何ですか?
- 西條
- 津波で74名の児童が命を落とした
大川小学校の事故についての研究です。
- ──
- あの、石巻の。
- 西條
- メディアでも報道されているように、
大川小学校の件については
第三者による検証委員会が設置されたものの、
原因究明が遅々として進みませんでした。
「ふんばろう」に大川小出身の方がいたので
その方につないでもらい、
ご遺族のみなさんとも知り合ったんですけど、
口々に
「あの日、小学校で何が起きたのか、
なぜ、子どもたちが逃げられなかったのか、
本当のことを知りたい」と。
※参考‥‥ダイヤモンド・オンライン
大津波の惨事「大川小学校」~揺らぐ“真実”~
- ──
- そこのところがわからないままだと
再発防止も、ままならないですよね。
- 西條
- たまたま、ぼくは
構造構成主義をベースにした
「質的研究法」という方法を持っていたので
「大川小の悲劇がなぜ起きたのか」
についての研究を、することにしたんです。
研究者として、あくまで「科学的な態度」で。
- ──
- 科学的に、ですか。
- 西條
- ええ。
- ──
- 具体的には、どのような。
- 西條
- 公開されている新聞や雑誌記事など、
たしか、その時点で
550本‥‥くらいはあったと思うのですが
ひとまず
それらを吟味し情報を精査しました。
- ──
- サラリと言いますが、すごい量です。
- 西條
- そのうえで、何度も現地に通って
関係者やご遺族に
インタビューをさせていただきながら
問題を構造化していきました。
- ──
- 「大川小学校の悲劇は、なぜ起きたのか」
という問題を「構造化」した。
すみません‥‥「構造化」と言いますと。
- 西條
- まあ、簡単に言えば
「あるコトとコトの関係性を明確にする」
ということなのですが
「津波が到達するまでの50分間、
大川小の校庭で、何が起きていたのか?」を
ボトムアップに分析していき、
ひとつの図にまとめた‥‥という感じです。
- ──
- なるほど。
- 西條
- 結果、このようなことでした。
当時、大きな余震が続いていたために
「山や道路に逃げるのは危ない」
という意見も出たりして
四方八方から「さまざまな危険性」に挟まれ、
どう動いたらいいか決められないまま
50分が経過、
ようやく裏山へ避難を開始した直後に
津波に襲われてしまった‥‥と。
- ──
- ポイントは「意思決定が、遅れてしまった」
という部分ですか?
- 西條
- そう、どうすればよかったかについては
一概には言えないでしょうが、
少なくとも
津波避難のマニュアルが整備されていて、
一度でも
避難訓練がなされていたなら、
もっと迅速な意思決定ができていたはず。
そうであれば、
ここまでの被害は出なかったはず、です。
- ──
- なるほど‥‥。
- 西條
- ここから、今後のために引き出せる教訓が、
いくつかあります。
ひとつは「認識を変える」こと。
- ──
- 認識?
- 西條
- たとえば、ぼくらは
「津波被害に遭ったことがない場所は安全だ」
と思ってしまいがちですよね。
- ──
- 過去に、津波が到達したことがないから。
- 西條
- ところが、実際の被害状況を調べると
「津波の被害に遭ったことのない場所ほど
被害は甚大だった」んです。
- ──
- え、なぜですか。
- 西條
- おそらく、そのことが
「油断を生じさせやすい条件」だから。
- ──
- ‥‥そうか。
- 西條
- ですから、今後は
「津波被害に遭ったことがない場所ほど、危険」
だと、肝に銘じた方がいい。
- ──
- そのように「認識」を変える必要があると。
- 西條
- 大川小って、北上川沿いにあるんですけど
震災のときの津波って
どれくらい、川を遡ってきたと思います?
- ──
- ぜんぜん見当もつきません。10キロとか?
- 西條
- 海岸から「49キロ」入った場所にまで
「3.8メートル」もの津波が押し寄せて、
大きな被害を出しているんです。
- ──
- そんな遠くにまで。
- 西條
- つまり、大地震が起きたときには
「川は海だ」と、認識を変える必要がある。
大川小学校の悲劇とは
「河川津波の悲劇」でもあるわけですから。
- ──
- ただ、津波警報が出ても
それほど大きな津波が来なかった経験が
何度か続いたので
「だんだん避難しなくなってしまった」と
いろんな記事で読みました。
「今度も、たいしたことないだろう」って。
- 西條
- その点については、ぼくは、
認識よりも、もっと直接的に「言葉」自体を
変える必要があると思っています。
- ──
- つまり?
- 西條
- 「避難行動」を「生存行動」に変えるんです。
たとえば「そんなに車が通らない田舎道」で
赤信号を無視しても
ただちに事故に遭う確率は、低いですよね。
- ──
- ええ。
- 西條
- でも、毎日欠かさず、
来る日も来る日も信号を無視し続けたら?
いつかは必ず、事故に遭います。
- ──
- たまにとはいえ「車が通る道」ですものね。
- 西條
- 同じように、津波警報を無視し続ければ
「いつか」津波に飲まれてしまう。
そこで、津波警報が出たら
その「いつか」くる津波を生き延びるための
「生存行動」として、避難する。
そう捉えられるようになったら
一回一回の避難行動も、意味ある行動になる。
- ──
- 言葉を変えることが、行動を変える「方法」だと。
- 西條
- そうです。
- ──
- ちなみに、冒頭で強調されてましたけど、
なぜ「科学的であること」が重要なんですか?
- 西條
- ぼくが依拠した質的研究法というのは
数量化したり、統計にかけたりすることなく
たとえば
インタビューやフィールドワークなどを通じ
研究対象に切り込む方法なんですが‥‥。
- ──
- なるほど、「量」に対する「質」なんですね。
なんとなくイメージが湧きました。
- 西條
- まず「科学とは何か」と考えてみましょう。
すると、いちばんしっくりくるのは
「科学とは
現象をうまく説明する構造を追究すること」
という、
池田清彦先生の構造主義科学論の定義です。
つまり「地震」や「津波」など
対象となる現象を
「予測可能性」と「制御可能性」を備えた「構造」によって
捉えることが、「科学という営みである」と。
- ──
- なるほど。
- 西條
- 先ほどの大川小学校の事故は
「意思決定の停滞」
および
「避難マニュアルの不備、
避難訓練をしていなかったこと」
などが直接的な要因ですが、
「警報の空振り」や
「津波に襲われた経験がなかった」
という背景要因も重なって起きたものです。
つまり、そうした科学的知見から、
ぼくたちは、
今後、どこが危ないか「予測」できたり、
じゃあ、どうすればいいだろうと
「対策」を立てられるようになるんです。
- ──
- つまり「予測」と「対策」は
「科学」で裏付けることができて、だからこそ、
科学的態度は重要である、と。
- 西條
- そう。もっと簡単な例を出せば、
「避難警報」に対してきちんと反応し、
避難場所に来た人は
「3000円もらえる」としたら?
- ──
- 3000円‥‥家族みんなで行くと思う(笑)。
- 西條
- でしょう?(笑)
人って、これは得だな、意味があるなと思えたら
多くの場合「行動する」んです。
- ──
- 防災や防災教育と言うと
真面目さや倫理感に訴えかけがちですが‥‥。
- 西條
- お祭りが続くのは「正しい」からじゃなくて、
「楽しいから」ですよね。
さっきの「3000円」は半ば冗談ですけど
でも、そうした「科学的な人間理解」に基づいて
「結果として
命を助けるにはどんな方法があるか?」
と問うことが大事だと思います。
- ──
- なるほど。
- 西條
- それが、科学の大きな役割のひとつですし、
だからこそ、大川小の問題はじめ
原発の問題などにも
あくまで
「科学的な態度」で取り組む必要があるんです。
- ──
- センセーショナリズムや感情論‥‥ではなく。
では、科学的な態度って、
たとえばで言うと、どのような態度ですか?
- 西條
- そうですね、
放射線の線量計で計測した値を写真に撮って
「こんなに高いです!」
というのは、
あまり科学的態度とは言えないでしょうね。
- ──
- なぜですか?
- 西條
- 体重と違って、放射線の量というのは
一瞬だけを切り取った場合には
高くなったり低くなったり、
どうしたって、バラつきが出てきます。
- ──
- 測定の仕方も影響するでしょうしね。
- 西條
- そのことを避けるために、
地上から一定の高さで、一定の間隔を開けて、
何度も、何日もかけて測定して平均値を出し、
その結果を記録し続ける。
そうすることでようやく、その「方法」は
科学的態度たることを、獲得できます。
- ──
- なるほど、わかりやすい。
- 西條
- ただ1枚の写真を載せているだけでは、
それは、
ある日のある時間、たった数回測定した中の
いちばん高い数字かもしれません。
ようするに、第三者から見ると
「どのような手続きを踏んで得た結果なのか」を
吟味できないため、
とうてい「科学的」とは、言えないです。
- ──
- 測定機器のデータなどを見せられると
科学的と思ってしまいそうですが‥‥そうじゃないと。
- 西條
- 大事なのは
「結果」が出るまでのプロセスを開示する、
ということです。
そうすることで、
「他者が批判的に吟味できるようになる」ので。
- ──
- 「批判される余地」を設けておくことが重要。
- 西條
- 「どういうプロセスを経て、
どういう条件の下に得た結果なのか」
を明らかにすることで
他者が批判的に「吟味」したり、
別の方法を「提案」したりできるようになります。
科学とは、そうやって発展してきましたし、
それこそ、
科学的態度にとって、大事なことだと思います。
<つづきます>
※参考‥‥西條さんたちが作成した冊子
『津波から命を守るために~大川小学校の教訓に学ぶQ&A』
に、大川小学校の問題研究から得られた知見が
まとめられています。
また「ふんばろう」の防災教育プロジェクト
「スマートサバイバープロジェクト」では
「冊子の郵送」や「講師派遣」を無料で行っています。
『津波から命を守るために~大川小学校の教訓に学ぶQ&A』
に、大川小学校の問題研究から得られた知見が
まとめられています。
また「ふんばろう」の防災教育プロジェクト
「スマートサバイバープロジェクト」では
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2014-10-07-TUE