第12回 「大川小学校」と科学的態度の重要性。

──
ここ最近、西條さんが
いちばん力を入れてきたことって何ですか?
西條
津波で74名の児童が命を落とした
大川小学校の事故についての研究です。
──
あの、石巻の。
西條
メディアでも報道されているように、
大川小学校の件については
第三者による検証委員会が設置されたものの、
原因究明が遅々として進みませんでした。

「ふんばろう」に大川小出身の方がいたので
その方につないでもらい、
ご遺族のみなさんとも知り合ったんですけど、
口々に
「あの日、小学校で何が起きたのか、
 なぜ、子どもたちが逃げられなかったのか、
 本当のことを知りたい」と。

※参考‥‥ダイヤモンド・オンライン
大津波の惨事「大川小学校」~揺らぐ“真実”~
──
そこのところがわからないままだと
再発防止も、ままならないですよね。
西條
たまたま、ぼくは
構造構成主義をベースにした
質的研究法」という方法を持っていたので
「大川小の悲劇がなぜ起きたのか」
についての研究を、することにしたんです。

研究者として、あくまで「科学的な態度」で。
──
科学的に、ですか。
西條
ええ。
──
具体的には、どのような。
西條
公開されている新聞や雑誌記事など、
たしか、その時点で
550本‥‥くらいはあったと思うのですが
ひとまず
それらを吟味し情報を精査しました。
──
サラリと言いますが、すごい量です。
西條
そのうえで、何度も現地に通って
関係者やご遺族に
インタビューをさせていただきながら
問題を構造化していきました。
──
「大川小学校の悲劇は、なぜ起きたのか」
という問題を「構造化」した。

すみません‥‥「構造化」と言いますと。
西條
まあ、簡単に言えば
「あるコトとコトの関係性を明確にする」
ということなのですが
「津波が到達するまでの50分間、
 大川小の校庭で、何が起きていたのか?」を
ボトムアップに分析していき、
ひとつの図にまとめた‥‥という感じです。
──
なるほど。
西條
結果、このようなことでした。

当時、大きな余震が続いていたために
「山や道路に逃げるのは危ない」
という意見も出たりして
四方八方から「さまざまな危険性」に挟まれ、
どう動いたらいいか決められないまま
50分が経過、
ようやく裏山へ避難を開始した直後に
津波に襲われてしまった‥‥と。
──
ポイントは「意思決定が、遅れてしまった」
という部分ですか?
西條
そう、どうすればよかったかについては
一概には言えないでしょうが、
少なくとも
津波避難のマニュアルが整備されていて、
一度でも
避難訓練がなされていたなら、
もっと迅速な意思決定ができていたはず。

そうであれば、
ここまでの被害は出なかったはず、です。
──
なるほど‥‥。
西條
ここから、今後のために引き出せる教訓が、
いくつかあります。

ひとつは「認識を変える」こと。
──
認識?
西條
たとえば、ぼくらは
「津波被害に遭ったことがない場所は安全だ」
と思ってしまいがちですよね。
──
過去に、津波が到達したことがないから。
西條
ところが、実際の被害状況を調べると
「津波の被害に遭ったことのない場所ほど
 被害は甚大だった」んです。
──
え、なぜですか。
西條
おそらく、そのことが
「油断を生じさせやすい条件」だから。
──
‥‥そうか。
西條
ですから、今後は
「津波被害に遭ったことがない場所ほど、危険」
だと、肝に銘じた方がいい。
──
そのように「認識」を変える必要があると。
西條
大川小って、北上川沿いにあるんですけど
震災のときの津波って
どれくらい、川を遡ってきたと思います?
──
ぜんぜん見当もつきません。10キロとか?
西條
海岸から「49キロ」入った場所にまで
「3.8メートル」もの津波が押し寄せて、
大きな被害を出しているんです。
──
そんな遠くにまで。
西條
つまり、大地震が起きたときには
「川は海だ」と、認識を変える必要がある。

大川小学校の悲劇とは
「河川津波の悲劇」でもあるわけですから。
──
ただ、津波警報が出ても
それほど大きな津波が来なかった経験が
何度か続いたので
「だんだん避難しなくなってしまった」と
いろんな記事で読みました。

「今度も、たいしたことないだろう」って。
西條
その点については、ぼくは、
認識よりも、もっと直接的に「言葉」自体を
変える必要があると思っています。
──
つまり?
西條
「避難行動」を「生存行動」に変えるんです。

たとえば「そんなに車が通らない田舎道」で
赤信号を無視しても
ただちに事故に遭う確率は、低いですよね。
──
ええ。
西條
でも、毎日欠かさず、
来る日も来る日も信号を無視し続けたら?

いつかは必ず、事故に遭います。
──
たまにとはいえ「車が通る道」ですものね。
西條
同じように、津波警報を無視し続ければ
「いつか」津波に飲まれてしまう。

そこで、津波警報が出たら
その「いつか」くる津波を生き延びるための
「生存行動」として、避難する。

そう捉えられるようになったら
一回一回の避難行動も、意味ある行動になる。
──
言葉を変えることが、行動を変える「方法」だと。
西條
そうです。
──
ちなみに、冒頭で強調されてましたけど、
なぜ「科学的であること」が重要なんですか?
西條
ぼくが依拠した質的研究法というのは
数量化したり、統計にかけたりすることなく
たとえば
インタビューやフィールドワークなどを通じ
研究対象に切り込む方法なんですが‥‥。
──
なるほど、「量」に対する「質」なんですね。
なんとなくイメージが湧きました。
西條
まず「科学とは何か」と考えてみましょう。

すると、いちばんしっくりくるのは
「科学とは
 現象をうまく説明する構造を追究すること」
という、
池田清彦先生の構造主義科学論の定義です。

つまり「地震」や「津波」など
対象となる現象を
「予測可能性」と「制御可能性」を備えた「構造」によって
捉えることが、「科学という営みである」と。
──
なるほど。
西條
先ほどの大川小学校の事故は
「意思決定の停滞」
および
「避難マニュアルの不備、
 避難訓練をしていなかったこと」
などが直接的な要因ですが、
「警報の空振り」や
「津波に襲われた経験がなかった」
という背景要因も重なって起きたものです。

つまり、そうした科学的知見から、
ぼくたちは、
今後、どこが危ないか「予測」できたり、
じゃあ、どうすればいいだろうと
「対策」を立てられるようになるんです。
──
つまり「予測」と「対策」は
「科学」で裏付けることができて、だからこそ、
科学的態度は重要である、と。
西條
そう。もっと簡単な例を出せば、
「避難警報」に対してきちんと反応し、
避難場所に来た人は
「3000円もらえる」としたら?
──
3000円‥‥家族みんなで行くと思う(笑)。
西條
でしょう?(笑)

人って、これは得だな、意味があるなと思えたら
多くの場合「行動する」んです。
──
防災や防災教育と言うと
真面目さや倫理感に訴えかけがちですが‥‥。
西條
お祭りが続くのは「正しい」からじゃなくて、
「楽しいから」ですよね。

さっきの「3000円」は半ば冗談ですけど
でも、そうした「科学的な人間理解」に基づいて
「結果として
 命を助けるにはどんな方法があるか?」
と問うことが大事だと思います。
──
なるほど。
西條
それが、科学の大きな役割のひとつですし、
だからこそ、大川小の問題はじめ
原発の問題などにも
あくまで
「科学的な態度」で取り組む必要があるんです。
──
センセーショナリズムや感情論‥‥ではなく。
では、科学的な態度って、
たとえばで言うと、どのような態度ですか?
西條
そうですね、
放射線の線量計で計測した値を写真に撮って
「こんなに高いです!」
というのは、
あまり科学的態度とは言えないでしょうね。
──
なぜですか?
西條
体重と違って、放射線の量というのは
一瞬だけを切り取った場合には
高くなったり低くなったり、
どうしたって、バラつきが出てきます。
──
測定の仕方も影響するでしょうしね。
西條
そのことを避けるために、
地上から一定の高さで、一定の間隔を開けて、
何度も、何日もかけて測定して平均値を出し、
その結果を記録し続ける。

そうすることでようやく、その「方法」は
科学的態度たることを、獲得できます。
──
なるほど、わかりやすい。
西條
ただ1枚の写真を載せているだけでは、
それは、
ある日のある時間、たった数回測定した中の
いちばん高い数字かもしれません。

ようするに、第三者から見ると
「どのような手続きを踏んで得た結果なのか」を
吟味できないため、
とうてい「科学的」とは、言えないです。
──
測定機器のデータなどを見せられると
科学的と思ってしまいそうですが‥‥そうじゃないと。
西條
大事なのは
「結果」が出るまでのプロセスを開示する、
ということです。

そうすることで、
「他者が批判的に吟味できるようになる」ので。
──
「批判される余地」を設けておくことが重要。
西條
「どういうプロセスを経て、
 どういう条件の下に得た結果なのか」
を明らかにすることで
他者が批判的に「吟味」したり、
別の方法を「提案」したりできるようになります。

科学とは、そうやって発展してきましたし、
それこそ、
科学的態度にとって、大事なことだと思います。
<つづきます>
※参考‥‥西條さんたちが作成した冊子
津波から命を守るために~大川小学校の教訓に学ぶQ&A
に、大川小学校の問題研究から得られた知見が
まとめられています。
また「ふんばろう」の防災教育プロジェクト
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2014-10-07-TUE