第15回 もういちど、成長したい。

──
長々とお伺いしてきましたが、あらためて。

ゴールデン・ニカ賞を受賞する月(9月)に
「ふんばろう」の体制を
「解体」に近いレベルで変更するんですね。

※註‥‥この取材は2014年8月に行われました。
西條
そうですね。

アルス・エレクトロニカのグランプリ受賞と
「ふんばろう」を
発展的解消する時期が重なったことについては
たまたまなんですけど、
節目のタイミングで受賞したことで、
「ふんばろう」で活動してくれたメンバーに、
「がんばってやって、よかったな」
と思ってもらえるなら、うれしいことです。
──
大学の授業のコマ数の減った西條さんが
自宅にこもって、子育てをしたり、
考えごとばっかりしていると聞いて、
なんだか
哲学者が洞窟の中で刀を研ぎ澄ましている、
みたいなイメージが沸いたんですが‥‥。
西條
そんなカッコいいものではないです(笑)。
──
西條先生が、
いま、いちばん興味あることは、何ですか?
西條
自分を成長させることですね。
──
おお、即答。
西條
これまでの自分をいったんリセットして、
もう一回、成長し直したいと思ってます。
──
なぜ、そのように思うのですか?
西條
40という不惑の歳を迎えて、
自分の実力不足を痛感しているからです。

もっともっと自分を磨いて、
ひと回りもふた回りも大きく成長して、
世界へ発信していきたいです。
──
世界へ、ですか。
西條
だから今、けっこう時間を割いているのは
英語圏で勝負するためのスキルを磨くこと。

結局、日本語で論文を書くのは簡単だし
量産もできるんですけど、
英語となると、グッと生産量が落ちるんです。
──
そうですか。
西條
今回、アルス・エレクトロニカの
ゴールデン・ニカ賞を受賞するにあたって、
何やかやと
英語で論文を書く機会があって、
その部分を鍛えていかなければダメだなと。
──
「伝える内容」については、
いろいろ、たっぷり、ありますものね。
西條
そう、今までお話してきたように、
構造構成主義の理論自体は
あるていど、かたちになっているので。

たとえば海外の研究機関ではたらいて、
そこから発信して、
いろんな国の人たちからの
いろんなリアクションを吸収して、
もっともっと理論を深めていきたいです。
──
ちなみに、
「子育て」から学んでいることがあったら
教えていただけませんでしょうか。
西條
もう「1歳の娘がぼくの先生」ですね。
──
西條先生の、先生?
西條
娘が「成長のモデル」になっているというか。
──
具体的には、どういうことですか?
西條
子どもって
つねに「探求」しているじゃないですか。
その姿を見ると「いいなあ」って思うんです。

ぼくもこうありたいなあ、と。
──
哲学者が
1歳の娘さんから「探求の姿勢」を学んでいる。
西條
赤ん坊って、ぼくらから余計なものを外した
「人間の原形」だと思うんですけど、
たとえば、
「人間って肯定されたいんだな」ってことも
娘を眺めていると、よくわかる。
──
ええ。
西條
それは「ふんばろう」をやっているときも
組織をマネジメントする際に
いちばん、核心的なことだったんです。

「人間は、みんな、例外なく肯定されたい」
ということは。
──
たしかに子どもって、
「認めてもらいたい、褒められたい」欲が
むきだしですもんね。

「見て見て見てー」っていつも言ってるし。
西條
そうそう(笑)。
それに「他人と自分を比べない」んですよ。

「保育園の誰々ちゃんは歩けるけど、
 自分はまだ歩けない」
って、嘆いたりしないじゃないですか。
──
ええ、しないです。
西條
ま、そう言うと当たり前なんだけど
ぼくら大人は、人と比較しがちですから(笑)。

つまり、娘には
「できなかったことが、できるようになる。
 それが、うれしい」
という「自分の中の成長の喜び」しかない。
──
「他との比較」はダメですか?
西條
少なくとも
ぼくら大人が新しい世界に一歩を踏み出して、
ゼロから成長し直そうとしたときには、
「足かせ」になる気がします。

他の人と比べて自分が劣っていることばかり
考えていても、
何にもいいことありゃしないわけですから。
──
気分が後ろ向きになっちゃいますもんね。
西條
たとえばぼくだって
四苦八苦しながら英語の論文を書いてますが、
英語のできる人が見たら
「何で、そんなに時間がかかってるの?」
と思うかもしれない。

あるいは、自分自身の日本語能力と比べて
「英語の場合は
 日本語で書くときより10倍の時間がかかってる」
とかって考えても、
成長にとっては、まったく意味ないです。
──
なるほど。
西條
比較するとしたら
「さっきより、昨日より、できるようになってる」
とか、
「成長の喜び」のほうに
自分の意識をクローズアップすること。
──
1歳の娘さんみたいに。
西條
実際、英語で本格的な論文を書くことは
ほとんどやってこなかったので、
そもそものスタート地点がゼロなんです。

だから、自分のスキルが、
ぐんぐん上がってる実感があって(笑)。
──
あ、それは楽しいでしょうね。
西條
この歳になると、
日本語のは伸びしろは限られてきますが、
英語は「伸びしろしかない」状態(笑)。
──
育ち盛りだと(笑)。
西條
娘は、何かひとつのことができると、
自分で自分に拍手するんです。

ぼくらと一緒に「パチパチパチー!」って。

そういう「自己肯定」の気持ちって
できる人とできない自分とで比較してたら、
なかなか持てないけれど、
大人だって、
自分に拍手してやらなきゃいけないなって
気づかされたりもしています。
──
そうですよね。
西條
そういう意味でも
いま「1歳の娘がぼくの先生」なんです。
──
いつでも「忙しい」印象だった西條さんが
急にぽっと時間ができて、どうでしたか。
西條
自分のことについて、よくわかりました。
やっぱり僕は「経営者」じゃないんです。
──
ずっと「ふんばろう」を率いてきたけど。
西條
やはり研究がいちばん、性に合ってます。

研究、教育、実践の順かなあ‥‥
とにかく、
理論を考えたりつくったりすることが
いちばんの関心事だし、
得意分野だったよなあって、あらためて。

だから「いち学者」に戻ります。
──
つまり今は「いい感じ」でやれてるって
ことですかね?
西條
そうですね、うん。そうだと思います。

たしかに
コマ数が減って給料も下がりましたけど(笑)、
今は、もっと大事なことがあるので。
──
西條さんの次なる飛躍、楽しみにしてますね。

何だかわかりませんが
またビッグウェーブ起こしそうな気もするし‥‥。
西條
いえいえ(笑)、でも、ありがとうございます。

今は一歩ずつ前に進んでいって、
いつか、
新しい風景を見たいなって思っています。
<次回最終回、アルス・エレクトロニカ授賞式レポートにつづきます>
2014-10-10-FRI