偽の影、ボールの影武者。
- ──
- 引き続き「世界卓球 2015」について
うかがっていきたいのですが、
こちらのカットにも、何らかの工夫が?
- 瀧本
- 影がニセモノなんです。
- ──
- 影というと‥‥球の後ろに見えている影が。
- 瀧本
- はい。
- ──
- ニセモノ?
- 瀧本
- 見た目ちょっとわかりにくいですけど、
この写真は、
垂直に立てた白いアクリル板の手前に
ボールを吊って撮影しています。
影のように見えているのは、
黒い楕円をプリントした印画紙なんです。
それをアクリルの裏から貼りつけてます。
- ──
- え、この影は紙でしたか!
まるで、本物の影のように見えますが‥‥
じゃ、このボールの「本物の影」は?
- 瀧本
- 別のところに、落ちてます。
写真には写らない場所に、落としました。
- ──
- なぜ‥‥そこまで手の込んだことを?
- 瀧本
- 実際の影は、ここまで黒く写らないんです。
もっと薄い‥‥グレーになっちゃうんです。
- ──
- つまり、それだけのために?
- 瀧本
- こうやって撮った理由は、他にもあります。
よく見ていただくとわかるんですが、
影の下のほうに「青」が入っているんです。
- ──
- ‥‥ホントだ。
- 瀧本
- 僕は、影を真っ黒にしたかったんですけど、
ただ「真っ黒いだけ」だと
全体的にモノトーンの写真になってしまう。
そこで、上西さんから、
「ボールの影に、青を入れてくれませんか」
というオーダーがあったんです。
で、そういう影をつくることにしたんです。
- ──
- 影に青‥‥。すごい注文ですね。
- 瀧本
- 僕は、難しいオーダーが来ると、
「なんとかしないとなあ」って思うたちで。
それに、上西さんの意図も理解できました。
ようするに、シリーズ全体で見たときに、
他のカットとのバランスで
青が差し色で入ってきたほうがいいなと
思ったんです、僕も。
- ──
- このカットが「紙を貼っている」という
アナログな方法で撮られているとは、
言われなければ、ちょっとわかりません。
- 瀧本
- 影のエッジをぼかしてプリントしていて、
その効果もあると思います。
実際の影の輪郭って、
ピーッとシャープには出てきませんから。
- ──
- 芸が細かい‥‥という表現がピッタリ。
- 瀧本
- でも、どこかに「違和感」が残りませんか。
- ──
- はい、たしかに。
言われなかったら「ニセモノの影」だとは
わからないんですけど、
でも、「ちょっと引っかかる」感じ。
- 瀧本
- 見た人の気持ちに、
ちょっとハテナが浮かぶくらいの違和感を
残しておくことが、
広告写真としては重要だと思っているので。
- ──
- あえて、少しの違和感を残す。
- 瀧本
- そうすることで、
こころに引っかかる写真になるのかなあと。
インパクトのある写真というより、
「あれ、この写真‥‥なんだろう?」って、
気になってしまう写真が、
結局、印象に残る写真だと思うんです。
- ──
- あのう、身も蓋もないことを聞きますが、
影を真っ黒にしたり、
その真っ黒い影に
ちょっとだけ青を入れたりすることって、
合成でもできますよね、今の時代。
- 瀧本
- ええ。
- ──
- そうしないのは、なぜでしょうか。
- 瀧本
- 僕は、合成じゃなくても撮れるから。
- ──
- ああ、明快。
- 瀧本
- 仮に合成でやるにしても、
最終的にこうしたいという着地点が
見えていなければダメですよね。
逆に言うと、そこさえ見えていれば、
合成でちょこまかやるより、
撮っちゃったほうが、はやいんです。
- ──
- 瀧本さんの場合。
- 瀧本
- 時間がかかると思う。合成のほうが。
いろんな素材を集めて撮って、
パソコンで
ああだこうだ試行錯誤しているより、
ゴールが見えてるなら、
最短距離で進んでいくほうが、全然。
- ──
- もう一枚「世界卓球」の写真があって、
こちらも非常にグラフィカルですが、
この作品にも、どこか見えない工夫が?
- 瀧本
- このカットでは、ごらんのように、
ラケットの上に
ボールの影を落としたかったんですね。
でも、そうすると、どうしても、
影優先でライティングが決まっちゃう。
- ──
- はい。
- 瀧本
- 実際、写真の場所に影を落とそうとすると、
ラケットの側面に光を十分に当てられず、
赤いラインのあたりが暗くなったり、
うっすら
不必要な影が出てしまったりするんです。
そうすると、平面的な印象が損なわれます。
- ──
- つまり、絵のようにならない‥‥。
- 瀧本
- 逆に、同じ明るさのトーンで撮ってやれば、
まるで絵の具で塗ったように、
ペタッとした、平面的に印象になります。
- ──
- ええ。まさしく、そうなってます。
- 瀧本
- そこで、ラケット全体に
まんべんなく光がまわるように‥‥つまり、
暗い部分が出ないようライティングしつつ、
ラケットに落ちている影は、
別の場所に吊ったボールに光を当てて‥‥。
- ──
- え、つまり、ラケット上に見えている影は、
画面のなかのボールの影ではない?
- 瀧本
- そうなんです。画面から外れた場所に、
この影を、
ここに落とすためのボールを浮かせて、
撮影しているんです。
マニアックな話で、すみません(笑)。
- ──
- はああ‥‥ボールの影武者がいる‥‥。
- 瀧本
- そう(笑)。
ちなみに、画面のなかのこのボールの影は、
別の場所に落ちています。
- ──
- おもしろいです。本当に。
- 瀧本
- ラケットの上に影を落とそうとすると、
真上から光を打たないとダメで、
そうすると、
ラケットのエッジ付近が暗くなったり、
影が出ちゃったりしたんです。
- ──
- 瀧本さんは、その問題に対する解決法を
最初から知っていたわけではないと
思うんですが、
そこには‥‥現場でたどりつくんですか?
- 瀧本
- はい。
- ──
- たどりつくんですか‥‥。
- 瀧本
- ええ。やはり「方針」が明確でしたから。
つまり「絵のように」するためには
写真的な要素をなるべく排除していけば、
みんなが望む着地点に
近づいていけることがわかっていたので。
(つづきます)2018-07-31-TUE