HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

瀧本幹也さんの写真には、
何かしら「アイディア」が潜んでいます。

最終形のビルボード広告からは、
絶対に想像できない創意工夫だったり。

限られた予算のなかで、
やりたいことをやりぬくための、
やりくり」だったり。

それは理想にたどりつくアイディアです。

瀧本さんの写真を選り抜いた大著
CROSSOVER」を見ながら、
そのあたりのことを、うかがいました。

ビックリしたり、うなったり、
いい意味で、あきれかえったり‥‥。

刺激に満ちた、たのしい3時間でした。

担当は「ほぼ日」奥野です。

瀧本幹也さんプロフィール

瀧本幹也さんの写真には、
何かしら「アイディア」が潜んでいます。

最終形のビルボード広告からは、
絶対に想像できない創意工夫だったり。

限られた予算のなかで、
やりたいことをやりぬくための、
やりくり」だったり。

それは理想にたどりつくアイディアです。

瀧本さんの写真を選り抜いた大著
CROSSOVER」を見ながら、
そのあたりのことを、うかがいました。

ビックリしたり、うなったり、
いい意味で、あきれかえったり‥‥。

刺激に満ちた、たのしい3時間でした。

担当は「ほぼ日」奥野です。

瀧本幹也さんプロフィール

瀧本幹也

写真家 / 1974年愛知県生まれ。

94年より藤井保氏に師事。98年に写真家として独立し、瀧本幹也写真事務所を設立。広告写真をはじめ、グラフィック、エディトリアル、自身の作品制作活動、コマーシャルフィルム、映画など幅広い分野の撮影を手がける。

主な作品集に『LAND SPACE』(13)『SIGHTSEEING』(07)『BAUHAUS DESSAU ∴ MIKIYA TAKIMOTO』(05)などがある。また12年からは映画の撮影にも取り組む。自身初となる『そして父になる』(是枝裕和監督作品)では第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞を受賞。15年には『海街diary』で第39回日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞。17年『三度目の殺人』第74回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門。東京ADC賞、ニューヨーク ADC賞 GOLD、カンヌライオンズ国際広告祭 GOLD、ACC グランプリ、日経広告賞グランプリ、ニューヨーク CLIO AWARDS GOLD、ロンドン D&AD YELLOW PENCILなど、国内外での受賞歴多数。

91年16歳で写真の世界に入る。92年上京しスタジオ勤務を経て、94年より藤井保氏に4年間師事。98年に23歳で独立した。これまで手がけてきた作品から伝わるのは、当時も今も変わらない写真という世界への向き合う姿勢である。作品『BAUHAUS DESSAU ∴ MIKIYA TAKIMOTO』では、現代デザインの基となったドイツの造形学校バウハウス・デッサウを、当校が生み出した抽象絵画のような独特な視点で捉えた。またライフワークとして取り組んできた『SIGHTSEEING』では世界7大陸を巡り、観光地とそこに訪れ群がる人々をテーマに、“観光”というリアルななかに漂う非現実的な世界をシニカルにあぶり出し、現実社会のゆがみをも想起させる作品を生み出した。さらに『LAND SPACE』では長きにわたりこの大地に育まれてきた自然の壮大さと、人類の手によって生み出された先端文明である宇宙産業の造形美との相似形に着目し「LAND」「SPACE」という一見対極に見えるふたつの視点から、なぜか地球を俯瞰しているかのごとき感覚を与えた。また広告写真やコマーシャルフィルムでは、いかなる制約のなかでも鋭敏かつオリジナリティあふれる発想力で数々のポスターや映像を生み出し、その手腕を発揮した。そんな写真と映像で培った豊富な経験と表現者としての視点を見いだされ、映画『そして父になる』『海街diary』『三度目の殺人』では撮影監督を務め、独自の映像世界をつくり出した。

宇宙図書館、MURANO。

──
こちらの写真も、非常に目を引きますね。
瀧本
松任谷由実さんのCDのジャケットです。

タイトルは『宇宙図書館』です。
──
あ、だから、本棚がぐにゃーっと。

瀧本
アートディレクターの森本千絵さんの中に、
時空の歪んだ図書館」
というイメージが、最初にあったので‥‥。
──
ええ。
瀧本
実際に、こういう本棚をつくったんです。
──
え?
瀧本
つくったんです、この本棚。
──
つくったんですか!

これでさえも合成じゃないんですか‥‥。
瀧本
ただ、予算の限りもありますので、
本棚に並んでいる本は、本物じゃなくて。
──
と、言いますと。
瀧本
本棚のなかの本については、
松任谷由実さんの行きつけの本屋さんで、
本の背表紙を撮らせてもらったり、
資料庫の本を撮ったりして
膨大な数の本の背表紙を集めました。


その写真を紙に出力して貼ってるんです。
──
なるほど。

で、中心をぐにゃっとねじって印刷して。
瀧本
で、その「本のねじれ」に合うように、
本棚の枠をつくって、つけているんです。


で、なぜそうしたかというと、
どうしても、ねじ曲がった本というのが、
つくれなかったんです。
──
そこの可能性も探ったんですね‥‥。
瀧本
まあ、つくれなくもないんですけれど、
歪んだ本をこれだけとなると、
ものすごいコストがかかってしまうので。


現実的じゃないなと方針転換しました。

──
完全に職人さんの手作業ですもんね。
で「つくるのは本棚だけにした」と。

たしかに床の映り込みもあるし、
CGじゃかえって難しいのかもしれませんが、
でも、やっぱり、すごい。
瀧本
その床の写り込みですが、
鏡を敷くことも考えたんですが、
それも断念しました。


どうしても継ぎ目が出てしまうことと、
コスト面で見合わなかったので。
──
じゃ、どうされたんですか。
瀧本
プールをつくって水を張ったんです。
そこに、墨汁を入れました。


プールは、
そんなにはお金はかからないんです。
墨汁も、これくらいの大きさなら、
2本か3本入れたら
じゅうぶん黒くなりますので。
──
墨汁プール‥‥。
瀧本
鏡みたいに写るんです。
──
よく見ると、影側のドレスのあたりに、
水面のさざなみが見えますね。


これは、実際に撮ってこそ、ですよね。
瀧本
ピチャピチャ、波を立てて撮りました。


水面が揺れていれば、
本棚の歪みと、イメージがそろうので。
──
でも、コストのことを考えながら、
試行錯誤してこういう場所をつくって、
そこに
松任谷由実さんに立ってもらって、
パシャッと撮ったら、
このイメージが生まれるんですよね。


撮ったあとの加工は、何にもせずに。
瀧本
そうですね。
──
全体的に、何かの手品のようです。
瀧本
ほぼ何にもしていない、という意味では、
MURANO」の広告もそうでした。

──
これも‥‥じつに不思議な写真です。
瀧本
雑誌の見開き広告の企画です。


MURANO design x Mikiya Takimoto
といった感じで、
写真家コラボというか、
日産の「MURANO」という自動車を
見開き2ページで
自由に表現していいですよ‥‥と。
──
で‥‥お好きなように撮影したのが、
この、2台の車を、
おなかをあわせて合体させたような、
たまごみたいな、繭みたいな。
瀧本
はい。せっかくのいい機会なので、
どんなふうにしようかなあと
いろいろ考えていたとき、
MURANOの
デザインコンセプトを聞いたんです。
──
ええ。
瀧本
何でも、この車って、
ラグビーボールから
デザインの着想を得ていて、
それで、
オレンジ色がキーカラーなんだって。
──
へえ、ラグビーボール。そうですか。


日本車にしては、
ちょっと、めずらしい色ですもんね。
瀧本
そこで、車をおなかでくっつけました。


そうすると、ラグビーボールみたいに、
見えるかなあと思って。
──
おお、おお。見えます見えます。


でも、車の前後の写真を貼り合わせたら、
こんなふうに
ラグビーボールみたいに見えるって、
撮影前に予想がつくものなんでしょうか。
瀧本
トミカのミニカーを買ってきて、
フロントとリアをそれぞれ写真に撮って、
貼ってみたら「あ、いけそう」と。
──
ミニカー‥‥MURANOの?
瀧本
これです。

──
これ、ほとんど完成品じゃないですか。

できましたと言ってもバレないレベル。
瀧本
さすがにそれじゃマズイんで(笑)。
──
ですよね(笑)。


そして、それだけトミカのミニカーが、
完成度が高いってことでもありますね。
瀧本
うん(笑)。


でね、雑誌で車を見せる場合には、
いわゆる「ノド」の部分を嫌うんです。
──
ええ、ノドというのは、
雑誌を開いたときに真ん中に来る、
紙を綴じた部分ですね。


その部分に写真がかかると、
どうしても、見えづらくなりますから。
瀧本
なので、車を雑誌で大きく見せる場合、
何とかっていうセオリー‥‥
つまり「フロント7に対して側面が3」
みたいな、
黄金比率」があるらしいんですよ。
──
ええ。「らしい」?
瀧本
はい、あの、僕‥‥そのへんの
業界の事情には、詳しくなくて(笑)。
──
なるほど(笑)。


とにかく、
一般的に「よし」とされている割合が、
あるってことですね。
瀧本
でも、こういう写真にしたら、
ノドで、2枚の写真を貼り合わせれば、
あんまり関係なくなるなあと。

──
おお、ハンデを逆手にとった発想。
瀧本
しばりや制約があるほうが、
作戦を練る」ことができるんですよね。


この場合も、じつは、
ラグビーボールにしようと思うより先に、
ノドというやっかいなものを
どうやったらうまく回避できるだろうと
考えた結果、
ポッと浮かんだアイディアだったんです。
──
なるほど。そっちが先でしたか。
瀧本
で、そのアイディアが浮かんだあとは、
空抜けのできる広い空き地を見つけて、
車の前後を撮って、切って貼っただけ。


特別なことは、何もしていないんです。

つづきます)2018-08-02-THU

写真家・瀧本幹也さんの展覧会を開きます。

瀧本さんが手がけてきた
広告写真・CM・映画・個人作品」という
4つのフィールドを
TOBICHI②の1階と2階、
さらにTOBICHIの「素敵な四畳間」を使って、
多面的に展開します。

TOBCHI②の2階たった12の『CROSSOVER』展
広告写真と個人作品)

今回の展覧会のメイン会場です。

20年のキャリア、数千にもおよぶ写真のなかから
たった「12」の作品を厳選して展示します。

会場では、最終形のプリントだけでなくて、
そのプリントが撮影されるまでの
インスタント写真(いわゆる「ポラ」)も、
合わせて展示します。

あの広告のあの写真は、
こんなふうにして撮影されていたんだ」
ということが、わかるような構成です。

これは、上のインタビューでも明らかですが、
瀧本さんの写真って、
完成形からはちょっと想像できないような、
アイディアや工夫が凝らされているから。

ある意味で、瀧本さんの視線と思考をたどる、
脳内ツアーのように楽しめます。

また会場には、瀧本さんご愛用の大判カメラ
8X10、エイトバイテン)を設置。

自由に、のぞいていただけます。

さあ、そこに何が見えるのかについては‥‥

のぞいてみてのお楽しみ!

TOBCHI②の1階瀧本幹也CM作品シアター
コマーシャルフィルム)

瀧本さんが手がけたコマーシャルフィルム、
合計40本超を厳選、一挙放映。

黒いカーテンをたらし、
映画館のような雰囲気で、ご鑑賞ください。

有名なものばっかりなので、
え、このCMも、瀧本さんだったんだ」
と思うかもしれません。

放映時間は約40分とか。もちろん入場無料。

TOBICHIの素敵な四畳間そして父になる』海街diary』
三度目の殺人』

ひとコマ映画館(映画)

瀧本さんが撮影した是枝裕和監督の作品
そして父になる』『海街diary』
三度目の殺人』から、
1作品につき20カットほどを抜き出し、
専用機材で壁に投影します。

写真の連続が映画‥‥なわけですが、
はんたいに、たくさんの「一コマの映画」を
楽しんでいただくような空間です。

『三度目の殺人』

監督・脚本・編集:是枝裕和

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

また、ミュージアムショップもここに設置。

最新の作品集『CROSSOVER』はじめ、
瀧本さんの過去の著作を
たくさん取り揃えるばかりでなく‥‥なんと!

今回のために、瀧本さんが
フランスをはじめ海外で撮り下ろしてくださった
インスタント写真作品も販売してしまいます!

当然、枚数限定になってしまうのですが‥‥
インスタント写真を販売することは、
瀧本さんとしても、はじめての試みだそう。

どんな作品がならぶのか、
いったい、おいくらくらいになるのか‥‥。

詳細が決まったら、おしらせします。

キャリアをスタートさせてから20年、
写真家・瀧本幹也」のこれまでの歩みを
立体的に感じられる展覧会です。

ファンの方はもちろんのこと、
ファンでなくとも、おもしろいと思います。

ぜひ、足をお運びください。

瀧本幹也『CROSSOVER』青幻舎刊

誰でも知ってる大手企業の広告写真やCM、
海街diary』など是枝裕和監督の映画、
そして、バウハウス建築や
スペースシャトルを撮った個人的な作品。

それら数千に及ぶ写真作品の中から
400点ほどを厳選。満足感120%の作品集。

Amazonでのおもとめはこちら。

会 場:
TOBICHI②、TOBICHI
住 所:
東京都港区南青山4丁目28-26【TOBICHI②】

東京都港区南青山4丁目25-14【TOBICHI】

MAP【https://www.1101.com/tobichi/tokyo/access/
会 期:
2018年8月1日(水)→ 12日(日)
時 間:
12時~19時