HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

「やりくり」もアイディア。

──
松任谷由実さんのジャケ写のときに
お金のお話が出ましたが、
瀧本さんの広告のお仕事といいますと、
潤沢な予算があるんだろうなと、
勝手に、思ってしまっていたんです。
瀧本
そうでないときも、ありますよ。当然。
──
そうですよね。細かい「やりくり」が、
見え隠れしているというか。
瀧本
ミスチルのジャケットを撮ったときも、
いろいろと工夫しました。


タイトルが『HOME』だったので、
実際の家族の家系図を
プールでつくろう、というところから
スタートした企画なんです。
──
はい。プールで。

瀧本
いろんな家族を、
いろんな場所で撮影してるんですけど、
メインとなるヴィジュアルは、
やっぱりプールがいいなということで。


プールに何か意味があるわけじゃなく、
キャッチーだし、
みずみずしいイメージになりますから。
──
なるほど。
瀧本
でも、そこに日本人の家族を並べても、
何だろう、
身近に感じすぎるので、
外国人の家族に出てもらいましょうと。


撮影時期も真冬だったし、
ハワイへロケに行って撮ったんです。
──
瀧本さんのお仕事ですから、
この家系図の白い線は、きっと実際の。
瀧本
ウレタンをプールに浮かべてるんです。

が、最初、甘く見ていました。
──
甘く?
瀧本
棒状のウレタンを水に浮かべたんですが、
思った以上に、うまくいかなかった。


波でブヨンブヨン動いちゃって、
家系図の形が、ぜんぜん取れなくって。
──
なんと。
瀧本
予算の限りがあったので、
美術さんを連れていけなかったんです。


で、みんなで考えた結果‥‥。
──
ええ。
瀧本
撮影の前の晩にスタッフみんなで徹夜して、
ウレタンに、手で針金を通したんです。


──
なんと、シンプルで人力に頼った解決。


でも、「写真家・瀧本幹也」が、
人知れず、夜中に、
ウレタンの棒に針金を通している‥‥。
瀧本
このとき、僕がPVも撮ったんですが、
たくさんのファミリーを、
いろいろな場所で撮影したんですが、
それも、
フィルムの「端尺」をかき集めてきて。
──
ハジャク?
瀧本
制作プロダクションが
他の撮影案件で残ってしまった
半端な長さのフィルムです。


いろんな撮影の「あまりもの」なので、
メーカーやフィルムタイプも、
たしか7種類くらいあったと思います。


──
バラバラですね。
瀧本
でも、そのおかげで、
家族の面々や場所のイメージによって、
「この場所は
コダックのタングステンタイプで行こう」
「この家族は
フジフイルムの軟調タイプかな」って。
──
ああ、フィルムによって、
色合いや映り方が変わってくるんですね。
瀧本
おかげで、全体の世界として、
むしろ、豊かで贅沢な感じになりました。


カットごとにフィルム変えてるんだ!

みたいな。
──
怪我の功名‥‥というか、
それだって、アイディアですものね。
瀧本
結局、予算って「使いどこ」なんです。


本来ならば、
海外へロケに行って成立する予算では
なかったのかもしれないけど、
最少人数で、
美術なんかもなるべく自力でつくって、
フィルムもあまりものを集めて、
安いチケットで、
宿もホテルじゃなくて一軒家を借りて、
みんなで雑魚寝して‥‥。
──
徹夜でウレタンに針金を通して。
瀧本
水中に沈めた錘(おもり)も、
黒いまんまだとバレちゃいますから、
水色のペンキを買ってきて、
みんなで、せっせと塗ったりしてね。
──
D・I・Y。
瀧本
そうやって削るところは削って、
ロケ場所については、
イメージを実現できる「海外」へ行く。


写真にとって、
やっぱり場所は決定的な要素ですから。

──
だからそこにお金をかけると、明確に。


そうやって、「やりくり」で突破する
仕事もあるということは、
理想にたどりつくための方法のひとつ、
なんですね。やりくりというのも。
瀧本
うん。楽しいですよ。そういう感じ。
──
はい、楽しそうです。


現場で困った事態に直面しても、
みんなで何とか乗り越えてる感じがして。
瀧本
終わらない仕事はないって言葉もあるし。


むしろ「これ、ヤバいな」
「本当に間に合わないかもしれない」
くらいのほうが、
いい仕事になることってあるんですよね。
──
それは、何ででしょうか(笑)。
瀧本
たぶん、その場にいるみんなが
「これは何とかしなきゃマズイ!」って、
力を合わせるのかもしれない。
──
チームって、そうなったら強そう。
瀧本
どんな仕事でも、
ここがいちばん重要だというポイントが
あると思います。


そこが見えたら、他の部分の「無駄」を
なるべく省いて突進していくほうが、
表現として強いものができあがるという
実感があります。
──
変にバランスを考えて、
どこをとっても中庸になっちゃうよりも。
瀧本
それは予算の面だけでなく、
時間をはじめ、その他の要素でも同じで。
──
どのポイントに持てる資源を集中するか、
というお話ですもんね。
瀧本
ぜんぶがぜんぶ、
そううまくいくわけでもないんですけど、
なんとか工夫して、
しかも仕上がりも満足いくものになると、
それが快感になっちゃったり(笑)。
──
快感。
瀧本
必要ないのに求めちゃう‥‥というか。


「うまくハマった、ビールがうまい!」
みたいな(笑)。

──
瀧本さんは、今のお話みたいにして、
無理難題や予算の制約を
いろいろ乗り越えてきたわけですけど、
その方法やアイディアって、
どういうときに浮かんでくるんですか。
瀧本
頭のなかに、
つねに宿題がいくつもあるんですよね。


移動中や別の作業の合間に、
それらについてボンヤリ考えていると、
ポッと出ることが多いです。
──
宿題と宿題が、つながったりして。
瀧本
そうですね、それはすごくあります。


僕の場合、広告と、CMと、映画と、
自分の作品とで、
ジャンルによって方法も変わるので‥‥。
──
ええ。
瀧本
広告写真の方法論を映画に応用したり、
その逆を試してみたり。


自分のなかの往復から、
アイディアが生まれることも多いです。

(つづきます)2018-08-03-FRI