HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

是枝監督の映画、
たけしさんの顔。

──
ジャンルを横断して活躍されている
瀧本さんですけど、
映画というのは、ある種独特ですか?


つまり、是枝裕和監督の映画の撮影は、
他のどの仕事とも、
ちがうんじゃないかなと思うんですが。
瀧本
ちがうかどうか‥‥わからないですが、
自分は写真家だという意識は、
いまだに強いんです、自分のなかでは。
──
是枝監督からのオファーなんですよね。

瀧本さんの撮る画がほしい、という。
瀧本
そうなんですが、映画についていうと、
まだ素人という意識が強くて、
プロフィールには「職業・写真家」としか
書いていないんです。

──
え、もう3本も撮ってらっしゃるのに。


でも、3本目の『三度目の殺人』では、
瀧本さんの提案で、
映画の画面サイズを変えたんですよね。
瀧本
はい、シネスコサイズにしました。
──
シネスコサイズ。
瀧本
昔のアメリカ映画に多いんですが、
一般的な「ビスタサイズ」に比べると、
だいぶ横長なんです。
──
画面の比率を変えるのって、
映画にとっては、大きなことですよね。
瀧本
人の配置がガラッと変わってくるので。

是枝監督も、はじめてだったそうです。
──
シネスコサイズを提案された意図って、
どういった‥‥。
瀧本
脚本を読んだとき、
3人のシーンが多いなあと思ったんです。


で、人物を3人、画面に入れるときって、
ビスタより、
シネスコサイズのほうが
立体的に‥‥劇的に配置しやすいんです。

『三度目の殺人』 監督・脚本・編集:是枝裕和

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

『三度目の殺人』 監督・脚本・編集:是枝裕和

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

──
はー‥‥それで。
瀧本
脚本を読んで、シネスコサイズにすれば、
画面に奥行きが生まれて、
強調したい人物を堂々と撮ることができ、
強い画(え)になると思った。
──
写真家の直感‥‥で。
瀧本
一般的にシネスコサイズにしてしまうと、
人物の配置が難しくなると
思われているかもしれないんですけど、
僕は、それは、あまり感じてないんです。


というのも、広告写真をやっていると、
縦位置の写真もあれば、
ポスターB倍、新聞15段・30段‥‥
CDジャケットなんか、正方形ですから。
──
ああ、なるほど。
瀧本
電車の中吊り広告なんて、
ものすごーく横に長い媒体もあるわけで。
──
つまり、慣れていたと。そういうことに。
瀧本
媒体のサイズの特性に合わせた撮影って、
ふだんからやってることなんです。


なので、
比率が変わることへの抵抗感や違和感は、
ぜんぜん、なかったんです。
──
今のお話も、
お仕事が「CROSSOVER」している、
そのおかげということですね。
瀧本
そうですね。
──
瀧本さんって、
ハリウッド俳優から無名の誰かさんから、
お豆腐からスペースシャトルから、
さまざまな被写体を
撮ってらっしゃると思うのですが。
瀧本
ええ。
──
人間、とくに「俳優」を撮影するときは、
どういう感じがありますか。


たとえば、
コミュニケーションをとったりしながら
撮影したりするんでしょうか。
瀧本
僕は、どちらかというと、
あんまりコミュニケーションしないかも。


冗談で笑わせたりとかはまずしませんし、
何かやりとりをするにしても、
最低限のこと以外は、しゃべりませんね。
──
そうなんですか。
瀧本
とくに俳優の方を撮る場合には、
場面の設定や
その人の「気持ち」をお伝えしておいて、
役を演じてもらうほうが、
いい表情を撮れると思っています。
──
なるほど。表情。
瀧本
雰囲気とかね。その日の、その人の。


そのための「場所」を用意して、
わざわざ、そこへ行って撮ったりするし。
──
それが「表情のアップ」だったとしても。
瀧本
江戸時代の本物のお屋敷で撮影するのと、
都内の真っ白いスタジオで撮るのと、
表情も、雰囲気も、変わってきますから。
──
人って、場所に影響されますものね。
瀧本
それは、絶対にあると思います。


光、風、土、空気。

その場そのものが持っている力。
──
顔が「そこにいる人の顔」になる‥‥と。
瀧本
だから
「ああしてください、こうしてください」
と細かくリクエストしながら撮るより、
シチュエーションを用意して、
そこに「いてもらう」ことさえできれば、
そっちのほうが、
本質的なものが写るかなと思います。
──
人を撮るのって、おもしろいですか。
瀧本
おもしろいかどうか‥‥か。
──
自分は人ばっかりしか撮れないんです。

カメラを持ってても、素人なので。


風景写真だったり、
そこらへんに落ちている何気ない何か、
みたいなものは、撮れないんです。
瀧本
ええ、なるほど。
──
その点、瀧本さんはじめ写真家の人は、
お豆腐とか、スペースシャトルとか、
海とかビルとか富士山とか、
そこらに落ちている何気ない何かとか、
さまざまなものを撮ったうえで、
ひとまわりして、
人物を撮ることって、どうなのかなと。
瀧本
たぶん、人物を撮るときのおもしろさって、
その人のその表情は、
そのときにしか撮れないということです。


たとえば、この(北野)たけしさんもそう。

今、まったく同じ条件で撮っても、
きっと、ぜんぜんちがう表情になると思う。

SIGHT 2002年1月増刊号(株式会社ロッキング・オン)

──
そうなんですか。
瀧本
その日、そのとき、その場所で出会った顔。


一般的なたけしさんのイメージには
さほどの興味はなくて、
そのときのたけしさんとの「時間」が
写真に写っていることのほうが、
たぶん、重要なんだろうなと思っています。

──
時間。
瀧本
そう、まったく無名の日本人の写真を
日本語も日本の文化もわからない
遠い国の人が見たときにも、
被写体のかっこよさを感じてもらえる。


そこまで「伝わる」ような写真を、
撮れたらいいなあと思っています。
──
時間や距離を超えて、伝わる写真。
瀧本
はい。

(つづきます)2018-08-05-SUN