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谷川さんの原作を持って、
絵のお願いに行ったとき、
大洋さんからうかがって驚いたのは、
「ずいぶん昔に谷川さんに会ってるんです」
というお話でした。
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松本 |
おそらく、谷川さんは
憶えてらっしゃらないと思うんですが、
うちの母親(詩人の工藤直子さん)と
谷川さんが古くからの知り合いで、
何度か家にいらっしゃったことがあるんです。
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谷川 |
そうらしいですね(笑)。
正直、そのときに彼がいたかもどうかも
はっきりしてないんです。
最初がどうだったかというのも、
ちょっとはっきりしなくて。
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── |
30年くらいの話ですものね。
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松本 |
ぼくがかなり明確に憶えているのが、
世田谷区の東松原にあるマンションに
母とぼくが越してきたとき、
谷川さんがお祝いに来てくださったんです。
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谷川 |
あ、ほんと?
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松本 |
で、朝から、準備しているみんなが
すごくいそいそしてるんですよね。
谷川さんが来るっていうことで。
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谷川 |
え、そうかなぁ(笑)。
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松本 |
ぼくは正直、存じ上げなかったので、
その、みんながそうなってる状況が
ちっともわかってなかったんですが。
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── |
大洋さんが何歳ぐらいのときですか。
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松本 |
中3の終わりか、高1のはじまりぐらいです。
谷川さんが来られて、
マオカラーの服を着てらっしゃって、
みんながはしゃいでいたのをよく憶えてます。
それからもときどき、谷川さんはいらっしゃって
ぼくもお会いさせていただいているんです。
なぜよく憶えているかというと、
うちの母はあまり友人を家に招かないんですね。
だから、谷川さんとか佐野(洋子)さんは
すごく例外的な存在だったんです。
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谷川 |
そうでしたね。
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松本 |
それで、ぼくはときどき谷川さんと
お会いしているんですけど、
印象的だったのは、谷川さんから
なんにも訊かれなかったことです。
たまにうちに来る人って、いちおう、
「いまクラブなにやってるの?」とか
「好きな子はいるの?」とか
儀礼的にでも、なにか訊いてくるんですよ。
でも、谷川さんにはなにも訊かれなかった。
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谷川 |
ぼく、社交的じゃないからなぁ、あんまり。
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一同 |
(笑)
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松本 |
でも、なんていうのかな、
疎外されてるとか、邪魔にされてるとか、
そういう感じではないんです。
そういうことをそつなくこなすような
感じの方ではないんだなっていうのが
なんとなく伝わってくるというか。
それはそれで気持ちがいいというか。
かといって、質問されるのが
不愉快なわけではないんですけど。
だから、何度かお会いしているけど、
谷川さんときちんと会話した記憶というのが
ぼくにはなくて。
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谷川 |
まぁ、当時、自分にも
年頃の男の子がいましたからね、
とくにめずらしがらなかったのかも
しれないんですね(笑)。
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── |
あるいは、
表層的な会話をしてもいやだろうなと
大洋さんに気を遣ってらっしゃったとか。
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松本 |
そうですね。
いや、だからこうして、
いま、ちゃんとお話しができて、うれしいです。
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谷川 |
いや、ぼくもです。
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松本 |
(笑)
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谷川 |
いまはむしろ、
いろいろ訊きたいことがあるんだけど、
まぁ、話したくないこともあるでしょうし(笑)。
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松本 |
うーん(笑)。
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谷川 |
ぼくは大洋さんのお父さんにも
お会いしているから、ご両親のこととか、
子ども時代のこととかもお訊きしたいけど、
あんまりプライベートな話になってもね。
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松本 |
まぁ、個人的には話したいです。
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谷川 |
じゃ、(周囲の人たちに)ちょっとみんな、
いったん外に出てもらえる?
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一同 |
(笑)
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松本 |
あの、うちの父親は、谷川さんのことを
「自分の知っているなかで一番セクシーな男性だ」
って言ってました。
あんまり、人のことをセクシーだとか
言わない人なんですが。
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── |
へぇー。
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谷川 |
え、ぼくは大洋さんのお父さんのことを、
すごく色っぽい人だなと思いますよ。
ちなみに、佐野洋子もそう思ってたみたい。
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松本 |
ああ、そうですか。
うーん、まぁ、かっこよかったですよね。
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谷川 |
すごくかっこよかった。
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松本 |
そうだ、今日、オリーブを持ってきたんですよね、
谷川さんに。
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谷川 |
オリーブ。
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松本 |
おそらくぼくが一番最後にお会いしたとき、
谷川さんはお気に入りのオリーブを持って
うちにいらっしゃったんですよ。
それで、母にオリーブを渡しながら、
オリーブは星の数ほどあるけれども、
ほんとにおいしいオリーブっていうのは少なくて、
これはそのひとつだっておっしゃった。
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谷川 |
うーん‥‥
どこのオリーブだったんだろうなぁ(笑)。
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松本 |
イタリアだったと思います。
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谷川 |
イタリー。
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松本 |
ただ、当時、オリーブって
そんなにメジャーじゃなかったですよね。
20年以上前のことですから。
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谷川 |
あのころは、そうですね、
いまほど人は食べてなかったね。
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松本 |
今日持ってきたのは、
小豆島のオリーブなんです。
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谷川 |
ああ、うれしいです。
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松本 |
いまでもオリーブはお好きですか?
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谷川 |
好きですね、はい。
だいたい常備してて、
切らさないようにしてますけど、
とくにこれでなきゃいやだ、
みたいなことはないんですよ。
適当に買うものですから、
当たり外れはありますけどね。
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松本 |
ぼくはあれ以来、オリーブを見るたびに、
いつも谷川さんを思い出してるんですよ。
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谷川 |
(笑)
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── |
けっこう憶えてますね、大洋さんは。
いろんなことを。
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松本 |
ぼくはよく憶えてます。
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谷川 |
ぼくほんとに記憶力薄弱だから、
はじめて聞く話みたいでさ、
逆に、すごくおもしろいです。
あ、そんなことあったんだ、みたいな。
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松本 |
そういうものかもしれないですね。
ぼくはよく憶えてます。
はじめてうちにいらっしゃるっていうときに、
うちの父がはしゃいでいたこととか。
父がこういうふうにはしゃぐんだな、
と思ったのを憶えていて。
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谷川 |
なんで、そんなにはしゃいだんだろうね。
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松本 |
ミーハー的なものだったかもしれないですけど、
たぶん、みんな、好きだったんだと思いますね、
谷川さんのことが。
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谷川 |
(笑)
(つづきます) |