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谷川 |
いま、どのくらいのペースで仕事してるんですか?
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松本 |
いまは、月刊連載をずっとやっていて、
6ヵ月間描いて、3ヵ月間休むという感じです。
連載を休んでいる3ヵ月の間は、
単行本用のカラーや連載の描きためをしたり、
今回の絵本のような仕事とか
そういう作業をやってますね。
谷川さんは、毎日書いてらっしゃるんですか?
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谷川 |
うーん、創作する仕事よりも、
その周囲の事務仕事のほうに追われてますね。
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松本 |
へぇー。
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谷川 |
だから、それを逃れるために、
詩を書いてるみたいなところあるんですよ。
そういう意味では、
詩を書くのが昔と違ってたのしくなってきた。
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松本 |
昔は詩を書くのが苦しかったんですか?
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谷川 |
うん、やっぱり、
「子ども養うために書かなきゃ」
みたいな意識がどこかにあったんだけど、
いまはもう、子ども独立したし、
そういう意味ではたのしく書いてますね。
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松本 |
はー、そうですか。
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谷川 |
この絵本は「死」がテーマなんですけど、
自分が死ぬなんて考えます?
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松本 |
子どものころのほうが、よく考えてたと思います。
こう、一回、そういう考えにとらわれると、
ずうっと考え続けてしまって。
いまなら、テレビを見たり、誰かと話したりして
頭を切り替えることができますけど、
子どものころって、一度とらわれると、
つかまれ続けてしまうので。
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谷川 |
うん、うん。
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松本 |
だから、この絵本を描いているときに、
死ぬことにとらわれていた
子どものころのことを、
すごく思い出してました。
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谷川 |
そのころは、死ぬことが怖かった?
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松本 |
怖かったですね。
だから、友だちがわーってみんなで
たのしく盛り上がってるようなときに、
ぼく、わざとひどいことを言ったりするんです。
「おまえら、いつか死ぬんやぞ」って。
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谷川 |
ああー。
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松本 |
「おまえら全員死ぬんや」って。
「おまえのおかんもおとんもみんな死ぬんや」
って言って、みんなを泣かせるんですよね。
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谷川 |
思うだけじゃなくて、実際にそう言ってたの?
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松本 |
はい。
自分の漫画にも描いたことがあるんですけど、
みんなが大笑いしてるのに
自分だけ死ぬのが怖くて、悲しくて、
みんなも巻き込みたくなるんです。
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谷川 |
うん。
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松本 |
何回やったかわかんないです。
そうすると、だいたいみんな
「おかんも死ぬ」って言うと泣くんです。
「おまえも死ぬ」っていうよりも。
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谷川 |
本人よりも。
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松本 |
はい、「おかん」のほうが。
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谷川 |
ぼくはまさに、自分が死ぬよりも
お母さんが死ぬことのほうが怖かったんです。
だから、夜中にそっと障子開けて、
母が生きてるかどうか確かめたりしてた。
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松本 |
へぇー。それ、すごいなぁ。
ぼくが憶えているのは、あるとき、
死ぬことにとらわれてしまって、
うちの母親に訊いたことがあるんですよ。
「人間はいつか死ぬんでしょ?」って。
そしたら、「死なない」って言ったんですよ。
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谷川 |
ああ、直子さんだったら
そう言うかもしれないね。
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松本 |
え? 死なないのか、みたいな(笑)。
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谷川 |
(笑)
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松本 |
でも、みんなに確認すると、
いや死ぬよ、って言うし、なんかでも、
ほんと、一縷の望みじゃないけど、
それを信じようとしてましたね。
うちの母はけっこうきっぱり
「死なない」って言いましたから。
「誰も死なない。
お母さんも死なないし、
おまえも死なない」って。
それを必死に小学校3年生ぐらいまで
信じようとしていた。
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谷川 |
森崎和江さん(詩人)なんかは、
ぜんぜん違って、自分の子どもが
「死ぬのが怖い」って言ってきたときに、
抱きしめて一緒に泣くんですよね。
そういう答え方もあるけど、
でも、直子さんは決然と、
「死なない」って断言しちゃうんだね。
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松本 |
そうですね。
でも、すぐにそう言ったわけではなくて、
やっぱり、悩んだんだと思うんです。
その答えが出るまでに、
しばらくかかったという記憶がありますから。
最初は、黙っちゃって。
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谷川 |
ああ。
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松本 |
ところがあるとき、怒ったように
「死なない」って言いはじめた。
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谷川 |
考えてたんだろうね。
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松本 |
そうですね。
だから、『かないくん』の絵を
描いていて思ったんですが、
ときどき、死ぬことを考えるというのが、
なんか、ちょっといいな、っていうか。
さびしくはなるんですけど、いいなと思って。
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谷川 |
うん。
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松本 |
この絵本がそういう感じの本になるといいなって、
描きながら思いましたね。
ただ、やっぱり、谷川さんの意図というか、
谷川さんが死について考えたことを
どういうふうにこの物語のなかに
表したのかということは、
漠然としかわかってなくて‥‥。
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谷川 |
それはぼくだって、そうですよ(笑)。
明確にわかってなんかない。
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松本 |
そうですか。
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谷川 |
やっぱり、死に対する感覚っていうのは、
若いときから、徐々に変わってきてるんです。
こう、揺れながら。
なんか、もしかすると、死んだら、
前に死んだ友だちに会えるんじゃないかとか、
そういうふうに感じてた時代もあるんだけど、
いまは別にそう考えないんですよね。
むしろいまは、死んだあとがたのしみみたいな。
だから、好奇心ですね、いま一番強いのは。
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松本 |
あー、そうですか。
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谷川 |
うん。自分の書いたものを振り返ってみると、
「死」っていうのは、若いころから
テーマとまではいかないけど、
けっこう頻繁に出てきてるんですよね。
たぶん、「死」がないと、
生きてることの全体像がとらえられない
みたいな気分はあったんだと思う。昔っから。
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松本 |
そうですね。
谷川さんの詩はまえから読んでいたんですが、
この仕事をいただいてから、
あらためてまた読ませていただいたんです。
すると、死のことが書かれているものが
けっこう、初期の頃から多くて。
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谷川 |
そうなんですよね。
(つづきます) |