松本 |
このお話は、谷川さんの、
実際に経験した話がベースになってるんですか?
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谷川 |
はい。
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松本 |
ああ、そうなんですか。
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谷川 |
だから、ぼく、
かないくんのことは、ずっと残ってて。
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── |
え、名前が、ほんとに?
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谷川 |
うん、「かないくん」。
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── |
わぁ、知らなかったです。
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谷川 |
そうなんですよ。
なくなったあとにね、
クラス全員に鉛筆が届いたんです。
それもすごくよく憶えてる。
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── |
はーー。
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谷川 |
やっぱり子どものころの、
比較的、身近な人の死というのは、
記憶に残るんですよね。
京都にいた祖父がなくなって、
いまみたいに新幹線がないから
東海道線でゴトゴト行ったときのこととかね。
みんなが集まってる部屋とは別の部屋に
寝かされてたわけですよ、祖父の遺骸が。
で、母がぼくに、行って、
あいさつして来い、って言ったのかな、
見てきてごらん、って言ったのかな。
行って、そしたら顔に白い布が
かかってるじゃない。
それをこう持ち上げて、
ちょっとなにげなく触ったんですよね。
死体に。
それの冷たさがね、尋常じゃないわけ。
それでもうすごい怖くなってね、
もう母親のところに
飛んで帰ったの憶えてますけどね‥‥。
大人になってからはね、
お葬式に行ってもそれほど強くは
記憶に残らないんだけど。
子どものころに経験した死は、
とくに、かないくんのことは、憶えてますね。
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── |
といっても、『かないくん』のお話全体が、
谷川さんの経験に即しているわけでは‥‥。
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谷川 |
いや、そうではないです。
そのことが、なんとなく頭にあって、
「かないくん」というタイトルで書きはじめて、
そのうちに自然にこうなったというか。
ぼくは、あんまり最初に
ちゃんと計画しないで書いていくから。
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── |
でも、きっかけは、
ほんとうにいた「かないくん」なんですね。
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谷川 |
はい。
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松本 |
ぼくも、絵を描きながら、
昔、亡くなった友だちのことを
思い出してたんです。
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谷川 |
ああ、そうですか。
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松本 |
中学生のときにひとりと、
高校生のときにひとり、亡くなったんです。
中学のときに亡くなった子は、
学校にひと月ほどしか来てなくて、
顔もうろ覚えだったくらいなんですけど、
絵を描きながら、その子のお葬式に
行ったときのことをすごく思い出しました。
その日、お葬式に行った帰りに
公園にみんなで行ったら、
ひとりの子がすごく叫んでいて。
「こんなことってあるか!」
「まだ13歳だぞ!」みたいな感じで絶叫してて、
それを見たときに、なんていうのかな、
うまく言えないんですけど、その、
あんまり気持ちよくなかったんですよ。
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谷川 |
ああ、うん、そう思うな。
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松本 |
ぼくは、そこで大声出してる子を
あんまり見たくなくて、
その公園を出て行っちゃったんですね。
それを、描きながら思い出したんですよね。
ぜんぜん忘れてたんですけど、
ああ、そういうことがあったなと思って。
思い返してみると、そのとき、ぼく、
ちょっと頭に来たんですね。
それはなんでだったんだろう、
って思ったりとかして‥‥。
なんか、そういうことを、
いろいろ思い出しながら描きましたね。
だから、たぶん、多くの人が、
近しい友だちを亡くして
最初は沈んでた学校のクラスが
だんだんもとに戻っていったりとか、
そういう経験って、あると思うんですね。
ぼくも、描いてるときに
そういうふうに思い出しましたし。
だから、『かないくん』を読んで、
かつて経験した「死」のことを
思い出す人もいれば、
いまちょうどそういうことを
経験してる最中だっていう人もいるんだろうなと。
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谷川 |
うん、そう思います。
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松本 |
谷川さんご自身は、
この話のモデルになったその方が
亡くなったっていうことを、
これまで絶えず思い出していたんですか。
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谷川 |
そうですねぇ‥‥。
あの、まだ子どもだった時期に、
同年代の子が亡くなったっていう経験は
それしかなかったですから、
そういうことで、なんか、
ずーっと記憶には残ってたんですね。
絶えず思い出すという感じではないですけど。
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松本 |
そうですか。
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谷川 |
だって、「かないくん」なんて名前、
いまでも憶えてるんだから。
だから、死んだおかげで
記憶に残っちゃったんですよね、
かないくんは‥‥。
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松本 |
そうですね。
(つづきます) |