- 糸井
- 大橋さんの作家生活で、
前回の「たのしみ展」のような経験って、
今までにありましたか。
- 大橋
- うーん、どうかなぁ‥‥。
わたしは出版の仕事が多かったから、
自分の机で完結しちゃうんです。
編集者の方とも話はするんだけど、
その先の人たちと話すことはないし、
接することもあんまりないんです。
- 糸井
- なるほど。
- 大橋
- 自分の展覧会のときは、
もちろん、
いろんな方とお会いするんですけど、
「ほぼ日」読者のような、
これまであまり接点がなかった方たちが、
わたしの絵を見に来るというのは、
正直なところ、ちょっと怖かったんです。
- 糸井
- まだ、展覧会のほうが
「こんな人がいらっしゃるかな」というのは、
イメージしやすいですよね。
- 大橋
- それに、人前に出るのがちょっと苦手で、
自分の展覧会のときでさえ、
ごまかしているところもあるくらいです。
でも、前回の「たのしみ展」のあと、
「もっと、あの場にいればよかったなぁ」
って思ったんです。不思議なことに。
- 糸井
- ああ、その感想は、すごくうれしいです。
そう思ってくださったってことは、
「新しい自分」に出会えたってことですから。
- 大橋
- そうなんです。新しい自分に。
- 糸井
- すばらしいですよ。
- 大橋
- 絵を買ってくださる方たちを、
あれほど近く感じることも、
いままでにない経験でしたね。
- 糸井
- ぼくらも、あの会場では、
お客さんのうしろ姿をたくさん見ました。
何かを選んでいる背中、うしろ姿。
で、その人がどれだけ真剣かって、
背中で、だいたいわかるじゃないですか。
- 大橋
- はい、わかりますね。
みなさん、ほんとに真剣だった。
- 糸井
- 真剣になる理由のひとつは
「この絵が、自分の家に来るかもしれない」
と思って見てるからだと思うんです。
- 大橋
- ああ、そっか。
- 糸井
- 「もし、わたしが買うとしたら‥‥」
という目で絵を見てるから、
鑑賞するだけの展覧会よりもぜんぜん、
作品との距離が親しいんでしょうね。
- 大橋
- うん、うん。
- 糸井
- ぼくも、ああいう景色は、
あんまり見たことがなかったです。
前回の大橋さんの絵も、
「たのしみ展」という場にぴったりだったと
思うんです。絵のサイズ感そうだし、
食べ物というのも身近なモチーフだから。
- 大橋
- 前回の絵は、本当にたくさんのみなさんに
よろこんでいただいたんですけど、
じつは、あれ‥‥「額縁」をつくるのが
ものすごーく大変で。
- 糸井
- あぁ、そっかそっか。そうですよね。
絵のサイズにあわせて、
額縁の大きさが、変わっちゃうから。
- 大橋
- そうなんです。前回の絵の残りは、
おうちにあるんですけど
ぜんぶを額に入れるのが大変だから、
いくつかの絵に関しては、
やぶって‥‥捨てちゃったんです。
- ──
- え、ええぇーーー!
- 大橋
- あ、でも、絵を捨てた理由は、
なにも額のことだけじゃないですよ。
もともとは書籍のために描いた絵なので、
その役目をまっとうしたものは、
基本的に処分しちゃうことが多いんです。
- 糸井
- はああー‥‥そうでしたか。
でも、そもそも大橋さんは、
どうして、
ああいう「ちいさな額縁」に
しようと思ったんですか?
- 大橋
- 昔の話なんですけど、
銀座にある資生堂の「ザ・ギンザ」で、
『2杯めのトマトジュース』の
挿絵の展覧会をしていただいたんです。
そのとき、
資生堂さんがご存じだった額屋さんに
額をつくってもらったんです。
それがちいさくて、すっごくよかった。
- 糸井
- ああ、そうなんですか。
- 大橋
- その額縁が、あまりに気に入ってたので、
前回の「たのしみ展」のときに、
「こんな感じにしたいんです」って、
知り合いの額屋さんにお願いしたんです。
そしたらなんだか、
けっこう大変なことだったみたいで‥‥。
- 糸井
- 額縁って、手仕事ですもんね。
- 大橋
- そうなんです。
しかも、ああいうちいさいサイズだと、
額屋さんのもうけもすくないし、
ちょっと‥‥もうしわけないなあって。
- 糸井
- 額縁にそんな背景があるって、
みんな、あんまり知らないでしょうね。
つい、絵ばかりを見ちゃうから。
- 大橋
- そうですよね。
- 糸井
- あみぐるみ作家のタカモリ・トモコさんも、
撮影を終えたあとの作品たちのことを
「ずっと家にあってもしょうがない」って。
で、あるとき
「いつか、ぜんぶほどこうと思ってる」と、
そうおっしゃったことがあったんです。
- 大橋
- え、そうなんですか。
- 糸井
- ぼく、そのことを聞いて
「え? ちょっと待ってください!」って。
- 大橋
- そうなりますよね(笑)。
- 糸井
- 作品をぜんぶ毛糸に戻しちゃったら、
なんだか、時間もいっしょに
消えちゃうような気がしたんですよ。
- 大橋
- うん、うん。
- 糸井
- だから、そうじゃなくて
「ほぼ日」で1体ずつ、展覧会みたいにして、
タカモリさんの作品を売ることにしたんです。
そういう「場」をつくれたら、
作品をほしがっている人に、出会えますから。
- 大橋
- なるほど。
- 糸井
- あの「たのしみ展」にも、
じつは、そういうところがあるんです。
ぼくは、前回の会場にいて、
「人は、人に会いたいんだなあ」
ということを
あらためて、ものすごく感じたんです。
- 大橋
- あぁ、そうかもしれない。
- 糸井
- 作家はお客さんに会いたいし、
お客さんも
未知の作家や作品に会いたい。
そして、作家同士だって
きっと「会いたい」んですよ。
- 大橋
- そうそう、ほんとそうなの。
わたしも会場をぐるっと歩きながら
「あの人はああいう人なんだ」って、
こっそり見てまわってました(笑)。
- 糸井
- ああ、そうでしたか(笑)。
だから「生活のたのしみ展」という空間は、
どこか興味や志が似た人同士の
「出会いの場所」でもある気がするんです。
(つづきます)
2017-11-02 THU