- 糸井
- 今日は、
次の「たのしみ展」に出してくださる作品を、
持ってきていただいてるんですよね。
見てもいいんですか?
- 大橋
- いやぁ、お恥ずかしいんですけど。
- ──
- じゃあ、ちょっとテーブルの上に
並べてみましょうか。
(作品をテーブルの上に並べる)
- 糸井
- あらら、あらら。
かわいい犬や猫がいっぱい(笑)。
ちょっと、じっくり見てもいいですか。
- 大橋
- 恥ずかしくて、汗が出ちゃいそう(笑)。
- 糸井
- ‥‥はぁ、いいなぁ、この絵。
あははは、このコもかわいい。
(絵をじっくり見ながら)
うん‥‥すごくいいと思います。
- 大橋
- ほんとに? なんかヘンじゃない?
- 糸井
- いえいえ。
これって、ぜんぶ版画なんですか?
- 大橋
- はい、銅版画です。
- 糸井
- そうですか、すごくいいと思います。
次の「たのしみ展」の会場には、
何枚をご用意いただけるんでしょうか。
- 大橋
- 会場で買えるのが、
20枚中の3枚‥‥だったかな。
店内にはわたしが
所有するぶんを飾るつもりです。
(乗組員を見ながら)‥‥でしたっけ?
- ──
- はい、そうです。残り17枚に関しては、
ウェブサイトでの販売になります。
- 糸井
- ちなみに、これらの絵は、
今回のためにお描きになったんですか?
- 大橋
- そうです。
- 糸井
- わあ、それはすごいことです。
- ──
- じつは、大橋さんには、
前回の「『食べる』の絵のお店」が
とても好評だったので、
同じ店を出していただこうと思ったんです。
絵も少し残っているとうかがったので。
- 糸井
- ああ、なるほど、第2弾としてね。
- ──
- はい、第2弾として。
そしたら大橋さんが
「せっかくなら
新しいことをやらせてほしい」って。
- 糸井
- そうでしたか。
- 大橋
- はい。
- ──
- で、それから、次は何の絵を描こうか、
いろいろ考えてくださって、
それで今回は「犬と猫」になりました。
- 大橋
- そうです、そうです。
- 糸井
- 生きものはいいですよ、やっぱり。
- 大橋
- そうなんですよね。とくに犬や猫って、
自分ちで飼ってる人たちが、
ちょっと似てるだけでも
「うれしい」って思ってくれるでしょ。
- 糸井
- それはあります。絵を見るときって
「どう描いてあるか」と
「何が描いてあるか」が、
いっしょに見えてきますもんね。
- 大橋
- ええ。
- 糸井
- その「何が描いてあるか」の部分を
大切にする人ってけっこういますから。
犬や猫が描いてあるだけで
「わぁ、たのしい、うれしい」って、
そういう気持ちになりますよ。
- 大橋
- 前回は額縁にけっこう苦労したので、
今回はすべて同じ大きさにしました。
村上春樹さんのエッセイ集
『村上ラヂオ』の挿絵を描いたときと
同じサイズにしています。
- 糸井
- 大橋さん、銅版画の表現って、
いつごろからおやりになってたんですか?
- 大橋
- いちばんはじめは、
知り合いがギャラリーをオープンしたときに、
そこで売るものを‥‥ということで、
はじめてやりました。
それが1995年とか、96年とかかな。
- 糸井
- これは「刷り」もご自身で?
- 大橋
- いえ、刷り師さんにお願いしてます。
- 糸井
- そもそも、銅版画って、
どういう制作の流れなんでしょうか。
- 大橋
- まずは、銅版画用の特別な版を
刷り師さんにつくってもらうんです。
そこに「ニードル」で絵を描いて、
できあがったら
刷り師さんのところにもって行きます。
で、目の前で試し刷りをしてもらって、
そこで「あ、片っぽの目がない!」
ってなったら、その場で直したりして。
- 糸井
- はぁー、なるほど。
- 大橋
- 『村上ラヂオ』のときは、
200枚ぐらい制作したのかな。
でも、200枚つくったからって、
べつに、上手にはならないんですよね。
- 糸井
- そこがいいんじゃないですかね。
ご自身が「これ、どうなるんだろう?」
と思ってるところも含めて、
おもしろいような気がします。
- 大橋
- ほんと、わからないんです。
- 糸井
- 下書きはされるんですよね?
- 大橋
- はい、ふつうの白い紙に鉛筆でします。
下書きの時点ではもっと上手なんです。
こんなこと言うと、
言いわけしてるみたいですけど(笑)。
- 糸井
- 鉛筆は慣れてますもんね。
- 大橋
- そうなんです。
それで、下書きと銅版の間に
カーボン紙を入れてなぞっていくと、
アウトラインが出るので、
それを頼りにニードルで描くんです。
- 糸井
- アウトラインも、はっきりとは出ない?
- 大橋
- うっすらって感じ。
- 糸井
- そうやって聞くと、
銅版画って、かなり大変なものですね。
- 大橋
- 刷ってみないとわからないというのが。
- 糸井
- フィルムカメラみたいですね。
「現像してみないとわかんない」って。
- 大橋
- ほんとそう。
- 糸井
- でも、何を描いてるのか、
いちいちモニターできないというのは、
いいことのような気もします。
- 大橋
- わたしも、そう思うんです。
下書きとおりにちゃんとできない、
それがいいんだと思う。
銅版画で好きなところはそこかも。
いつもの鉛筆画とは、
ちがうものになってくれるんです。
- 糸井
- 他人がちょっと入ったみたいな。
- 大橋
- 実際に刷り師さんも入りますし。
- 糸井
- そうかそうか。
浮世絵の世界でも、
絵師が筆で描いた「肉筆画」がいいって人も
たくさんいるけど、
ぼくは、やっぱり「版画」のほうが
いいと思っちゃうんです。
- 大橋
- あ、わたしもいっしょです。
葛飾北斎とか歌川広重なんかも、
肉筆画をみるとちょっと
逆に「あれ?」ってなっちゃう。
- 糸井
- ちょっと勢いが入りすぎてるというか。
- 大橋
- うん、しつこい感じがしちゃうのかな。
でも、版画だとそのしつこさが消えて、
スマートにみえる気がするんです。
- 糸井
- うんうん、そうなんですよね。
(あらためて作品を見て)
いやぁ、でも、これらの作品が
「たのしみ展」にザーッと並ぶわけですね。
ふふふ、すっごくたのしみ(笑)。
- 大橋
- そうなんです。なんだかドキドキします。
(つづきます)
2017-11-03 FRI