糸井 |
伸坊は、スカイツリー、行ったことある?
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南 |
うーん、あるにはあるんだけどね。
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糸井 |
あるにはあるんだけど?
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南 |
順番を追って説明するとね。
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糸井 |
うん。追おう、順番を。
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南 |
正月にさ、退屈したんで、
ちょっと散歩でも行くかってなった。
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糸井 |
退屈したんで、散歩にね。
わかりやすいね。 |
南 |
そう。
退屈したんで、散歩に出かけた。
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糸井 |
彼は散歩に出かけた。
なぜなら、退屈したからだ。
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南 |
話、進めていいかな。
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糸井 |
進めよう、進めよう。で、どうした。
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南 |
都電に乗った。
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糸井 |
都電に乗った。
都電なんて、いま、あるところはあるからね。
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南 |
あるよ。あるところにはまだあるんだ、都電が。
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糸井 |
ないところには、ぜんぜんないんだけどね。
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南 |
話、進めていいかな。
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糸井 |
進めよう、進めよう。で、どうした。
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南 |
ま、大塚だからウチ。大塚から乗ってね。
三ノ輪とか、そういうあたりまで行こうと。
昔、荒木(経惟)さんちがあったりした。
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糸井 |
下駄屋が、あったりして。
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南 |
そうそうそう。
荒木さんの実家、でっかい下駄の看板があった。
駅のそばに浄閑寺っていう
「投げ込み寺」って呼ばれてたお寺があって。
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糸井 |
いまの人は知らないだろうね。
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南 |
まぁ、ずっと昔のことだね。
遊女の屍体が門の中に投げ込まれた、
ってところから「投げ込み寺」だ。
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糸井 |
すごい話だね、よく考えると。
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南 |
うん。
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糸井 |
そもそも力持ちだな。
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南 |
え? ああ、投げ込むほうがね。
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糸井 |
ずるずる引きずるんじゃなくて、
投げ込むんだからね。
投げ込み1回につき、男が二人は必要だろう。
こう、上半身と、下半身を持って。
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南 |
せーので、投げ込むわけだ。
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糸井 |
しかも女は裸だろ?
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南 |
いや、着物は着てていいと思うけど。
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糸井 |
裸に着物を着せてるんだな。
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南 |
そういう言い方をすれば、まあ。
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糸井 |
猟奇的だね、ちょっとさ。
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南 |
猟奇的? そうかな。
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糸井 |
オレたちの会話、猟奇的とかないからさ、
ちょっと入れていこう、猟奇的な要素を。
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南 |
あー、なるほど。
じゃ、今回の「黄昏」は猟奇的な感じで。
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糸井 |
「黄昏 猟奇編」だよ。
猟奇とか、エロティックとか、入れていこう。
昔の少年探偵団シリーズみたいな
挿絵も入れたりしてさ。
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南 |
路線変更だね。いいねぇ。
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糸井 |
うん。大人っぽくいくよ。
劣情をもよおしたりするんだ。
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南 |
劣情をね。
劣情の「劣」っていう字には
「少」っていう字が入ってるね。
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糸井 |
入ってるね。
「少々、劣情をもよおす」なんていうと
「少」っていう字が3回も出てくる。
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南 |
なんの話だっけな。
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糸井 |
正月の話だったね。
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南 |
そうだ、そうだ。
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糸井 |
伸坊が、正月早々、退屈だからって、
都電に乗って、女を投げ込んだわけだ。
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南 |
いや、それは無理だ。
だって、ひとりじゃ投げ込めない。
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糸井 |
はははははは。
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南 |
ぼくが上半身を持つから、
キミ、足のほうを持ってくれたまえ。
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糸井 |
せーの!
はははははは。
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南 |
ええと、都電に乗って行ったんだな。
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糸井 |
たぶんね、スカイツリーの話をしてたんだよ。
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南 |
そうそうそう。
その投げ込み寺のそばのバス停からね、
ドデーンと見えるんだよ。
すごくデカく!
そしたらさ、バスが来た。
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糸井 |
スカイツリー行きの。
それは、乗らざるを得ないね。
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南 |
うん、でまぁ、スカイツリーの方へ行ったの。
ところが、正月のスカイツリーというものは
もう、たいへんな人混みなんだ。
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糸井 |
ああ、そうかもしれないね。
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南 |
人が何重にも並んだりなんかしてて。
どういうわけか、そういう、
ものすごく大勢、人がいるところに
わざわざ行っちゃったんだな、正月早々。
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糸井 |
行っちゃったんだね。
ただ退屈してただけなのにね。
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南 |
そうそう。まるで、
「正月だから、スカイツリーにでも行くかぁ!」
って言って出かけた人みたいな感じになっちゃって。
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糸井 |
はははははは。
そうは思われたくないね。
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南 |
うん、まぁ。
そんなこと、考えたこともないんだから。
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糸井 |
でもさぁ、なんの違いもないじゃない。
初詣のあとに
「スカイツリーに行くぞ!」
って言ってる人と、
退屈で都電に乗ってやって来た人はさ。
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南 |
まぁ、そうなんだよ。
でね、ともかくスカイツリーに来たんだから、
スカイツリーにのぼるかって思っても、
そうは問屋が卸さない。
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糸井 |
え、そうなの。
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南 |
なにしろ、すごい人数だからさ。
ロープが張ってあって、
こう、ぐねぐねと、腸のように並んでる。
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糸井 |
腸のようにね(笑)。
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南 |
結論として、断られたってことですね。
スカイツリーに。
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糸井 |
そんな、裸の女を投げ込むような人は
のぼらせてあげませんよ、と。
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南 |
投げ込んでないけどね。
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糸井 |
そうか。
でも、退屈しのぎにやって来たってことは
ばれてたかもしれないね。
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南 |
ああ、それはあるね。
「退屈しのぎに来られても困ります」
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糸井 |
「退屈だからって都電で来たような人を
スカイツリーにのぼらせたら、
しめしがつかないですよ」
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南 |
ハハハハハ。
(こういう話がまだまだつづくコンテンツです) |