南 |
越前ガニっていうものがあるでしょ。
福井が誇る、日本の宝物です。
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糸井 |
うん。
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南 |
三国っていうところに昔行ってね。
カニづくしの取材をした。
市場に行くと、カニがずらーっと整列してんのよ。
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糸井 |
市場でガチャガチャ動き回ってるわけ?
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南 |
いや、だから、ものすごく
おとなしく整列してんの。
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糸井 |
ん? 飾り物?
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南 |
いや、生きてるんだけど。
タコと違って、越前ガニって、
地上に連れてきたときには
もうぐったりしてて、
ぜんぜん動き回れるような感じじゃないんだ。
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糸井 |
水族館で見たときは元気そうだったけど。
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南 |
あれは、
海で生きてるときと同じ条件にしてあるから。
たぶん、ものすごく水温低いよ。
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糸井 |
そうか。
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南 |
だから、そこの市場とかでさ、
水揚げしたばかりのカニを裏返して
ただ置いてあるんだけど、
ぜんぜん逃亡しない。
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糸井 |
はぁはぁ、そういうことか。
前に、浅瀬をタカアシガニが
ジャキジャキ歩いてたら怖いぞ、
っていう話をしたけど、
そういうことは、実際には、ないんだな。
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南 |
タカアシガニはどうだか知らないけどね。
いま話してるのは、
タカアシガニじゃなくて、越前ガニだから。
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糸井 |
越前ガニってのは、高いカニだよね?
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南 |
1匹、ナンマンエンもするよ。
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糸井 |
タカアシガニじゃなくてタカイカニだ。
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南 |
そうそう、越前ガニは
タカアシガニよりタカイカニ。
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糸井 |
覚えといたほうがいいね(笑)。
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南 |
で、そこで聞いた話なんだけど、
カニ屋のおじさんが言うのには、
カニの中身って、
ほとんど液体のようなもんなんだって。
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糸井 |
またまた。
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南 |
いやいやほんとに。
そう言うんだよ、おじさんが。
「カニはもう、
液体みたいなもんですからねぇ」って。
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糸井 |
言い切ったね。
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南 |
いや、言い切ってはないんだけど。
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糸井 |
みなさん!
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南 |
みなさん! カニは液体です!
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糸井 |
言い切ったね。
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南 |
液体、の、ようなものです!
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糸井 |
ははははは。
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南 |
だから、もうねぇ、水揚げしたら
すぐ食べたほうがいいんだって。
どんどん、液体が失われていくから。
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糸井 |
しかし、ほんとはどうなの?
完全に液体なわけじゃないでしょ。
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南 |
いや、そうなんだってよ。
オレたちが知ってるカニの肉ってのは、
ゆでたから、あのようなカタマリに
なってるんじゃないかな。
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糸井 |
ゆでるまえは液体?
じゃあ、どうやって動いてるの。
殻が動くわけじゃないだろう。
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南 |
まァ、筋肉は、あるにはある。
なんか、頼りないような、
ふわふわした動きをしてんじゃないのかな。
海底で‥‥。
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糸井 |
ふわふわ? カニが? 海底で?
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南 |
うん。その、なんか、申し訳ないけど。
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糸井 |
いや、伸坊が謝ることはなにもない。
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南 |
だからね、水揚げしたら、一分一秒を争って、
もう、ものすごく早く食べなきゃダメ。
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糸井 |
液体として? 飲むの?
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南 |
いや、飲むっていうか、ちょうど、
ゆでると生卵がゆで卵になるような感じで‥‥。
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糸井 |
ああー、なるほど。
ちょっとイメージができた、いま。
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南 |
ゆでると、タンパク質が変質して固まる。
早ければ早いほど、うまいって言うんだよ。
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糸井 |
ああー、たしかに、
漁師さんたちは、とってきたカニを
「浜ゆで」するっていうものね。
たしかに、早いよね。
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南 |
うん。とにかく早く食えと言われましたよ。
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糸井 |
液体だから、早く食えと。
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南 |
ウン。
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糸井 |
いや、南さん、オレはね、
さっきカニが液体だということについて
疑念を抱いてしまったけれど、
カニは‥‥液体だね!
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一同 |
(笑)
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南 |
どこで納得したんだ(笑)。
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糸井 |
ゆでてるところ。
ゆでてるところのリアリティー。
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南 |
ハハハハハ。
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糸井 |
だからね、いま、ゆでてないカニを
この場でコツンと叩いて割っちゃったら、
中身が、ジョワァーと出てきちゃうと思う。
だって、卵だってそうじゃん。
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南 |
うん、でも、そこまで
信じられちゃうと‥‥
ちょっと違うかも‥‥。
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糸井 |
いや、いい、いい。液体で問題ない。
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南 |
問題ないか。
カニは液体で問題ない!
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糸井 |
だから、脊椎動物のイメージで考えるとさ、
こう、心棒となる骨が中心にあって、
その外側に内臓の袋を組み合わせるには、
肉とか筋が必要になるような気がするけど、
カニは、ほら、外側が骨だからさ。
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南 |
うん、カニは、外側が骨だからな!
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糸井 |
わははははは。
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南 |
わははははは。
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糸井 |
もう、中はジュワァーで大丈夫。
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南 |
大丈夫、大丈夫(笑)。
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糸井 |
だから、もし、カニとカニが出会って、
「どう?」って訊いたとしたら、
「ん、大丈夫」って。
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南 |
アハハハハ。
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糸井 |
じゃあ、いっそ、食べるときに、
生のカニをチューチューする、
っていうやりかたもあるよね。
白魚の躍り食いみたいなもんでさ、
ストローをプッと刺して、チュっと。
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南 |
生きてるやつをね。
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糸井 |
だって、液体だからな。
いや、伸坊、どうしていままで
それを黙ってたんだ。
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南 |
ははははは。
黙ってたわけじゃないんだけどさ。
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糸井 |
すごいね。
液体だと思うよ、いまじゃオレも。
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南 |
だから、カニは、冬のものすごく寒いときに、
上げたばっかりのやつを
とにかく大急ぎで食べないと。
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糸井 |
なるほどなぁ。
でも、こんなにカニについて、
感心したり、熱く語ったりしてるけど、
オレは甲殻類アレルギーだから
食えないんだよ。
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南 |
あ、そうかぁ(笑)。
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糸井 |
だから、ずーっと、
人がカニを食べてるのを見続けてきた人生。
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南 |
ハハハハ、そりゃ気の毒だ。
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糸井 |
つまり、なんていうの、
いやらしい宿の息子として生まれて、
もう大人たちのいろんな色模様を、
ずーっと見てきた童貞みたいな。
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南 |
ずーっとフスマの隙間から見てきて‥‥。
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糸井 |
もう、妄想でパンパンだよ。
「カニの中身は液体らしいぞ!」
「ほ、ほんとかよ!」
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南 |
ハハハハハ。
(カニは液体、なの? つづきます) |