祝・新潮文庫になったよ。

黄昏

浅草・スカイツリー篇
 
第7回
芝居ができない問題。
最近、よくテレビに出てるね。
糸井 そんなでもないよ。NHKだけだね。
ほら、オレは段取りができないからさ。
NHKは段取りなし?
糸井 できるだけ、なくしてもらえるから。
ほんとに、段取りが苦手なんだって
わかってもらえる人たちとやってる。
できそうなのにね。
糸井 なまじ司会とかするから、
そう思われちゃうんだよ。
でも、自分で言うのもなんだけど、
オレはほんとに決められたことができないんだ。
「ハイ、それがこちらです!」
みたいなことさえ、言えない。
そうなんだねぇ。
糸井 だから、番組の打ち合わせなんかでも、
いかに決まり事をなくすか、
っていうことを打ち合わせるの。
台本に書いてあるセリフをいかに少なくするか。
じゃあ、もう、
ほんとのお芝居なんかは、絶対、できない。
糸井 うん、お芝居はね、
永遠の課題なんだよ、オレ。
できないだけなら、
やらなきゃいいってことで終わりなんだけど、
「できないくせに、ちょっとやりたい」
から、よくないんだ。
‥‥いや、ちょっとじゃないな。
ずいぶんやりたいんだよ。でもできない。
一同 (笑)
なんだろうね、それは。
だってさ、ふざけてやってるぶんには
ちゃんとできるじゃない。
その、「遊女と十手プレイ」とかさ。
糸井 「御用だ、御用だ!」
「オレが御用だ!」
ハハハハ、それでいいんじゃないの?
糸井 いや、これはふざけてるだけだろ。
ふざけてると思えばいいじゃん。
糸井 だから、ほんとにふざけるのはできるけど、
「じゃ、ここで軽くふざけてください」
って言われると、もう、ダメ。
そうか、そうか(笑)。
逆に、想定外のことが起きたときに、
その場でなんとかするなんていうのは‥‥。
糸井 いくらでもやります。
なんでもやります。
びっくりしたら、
びっくりすればいいだけだからね。
糸井 だから、急に腹話術やれって言われたら、
この、人形にしゃべらせる部分は
どうとでもしゃべるよ。
でも、人形のセリフ込みで
ちゃんと頼まれたらできないんだよ。
ハハハハハ。
糸井 なんだろうなぁ。
つまり、あれだ、
必要のない責任感があるんだな。
糸井 ああ、さすがだ、伸坊、
それは近いかもしれない。
ここではこれくらい
できなきゃダメだろう、っていうね。
それを思ったらできなくなっちゃうよね。
糸井 自分でダメ出し?
そうそう、自分で自分にダメ出し。
糸井 歩くそばから、止まれって言ってる。
おもしろくないとやだな、
っていうのがあるから、
おもしろくないじゃん、
って思っちゃうんだよ、自分で。
糸井 そうそうそうそうそうそう。
だから、オレは、あらゆるドラマを見て、
役者の人はすごいなあ、と思うよ。
もう、みんなえらいよ。
ふふふふふ。
糸井 伸坊はさ、けっこうできるんだよね。
いや、それが、オレもね。
前にさ、平岡(正明)さんが生きてるころに、
『俗物図鑑』という映画があって。
糸井 はいはい。
素人ばっかりつかって、やったわけよ。
で、オレもセリフを言うんだけど、
ものすごい短いセリフなんだよ。
なんつったか忘れたけど、
その場で台本渡されて
「はい、これ」って言われたとしても、
すぐ覚えられるぐらいの短いセリフ。
ところがね、それが言えない。
糸井 ああ、わかる。
なんだ、伸坊も言えない派か。
うん。言えない派ですね。
「ハイ! どうぞ!」ってなると、
「‥‥あ、ちょっと待って」ってなっちゃう。
糸井 そうそうそうそう(笑)。
でも、引き受けちゃったからさぁ。
解決策を考えなきゃいけないと思って、
オレは、ぜんぶものまねにした。
最初は三船敏郎にしたんだよ。
あのころ、三船敏郎って
なんか、裁判かなんかがあって、
テレビでよく怒ってたんだよ。
で、セリフを言うまえに、
三船敏郎になって、
「フンっ」って息巻くとさ、
いっくらでもセリフが言えるんだよ。
一同 (笑)
糸井 はーーー!
「フンっ‥‥どいつもこいつも」
「うだうだうだうだ!
 キンタマついてんのか!」みたいな。
糸井 そういえば山下洋輔さんが、
筒井康隆さんの
『ジーザス・クライスト・トリックスター』
っていう舞台に抜擢されたとき、
やっぱりできなかったんだけど、
「圓生ならできる」って気づいて、
三遊亭圓生のふりをして
乗り切ったって言ってたなぁ。
はははは、そう! 同じだね。
糸井 だから、セリフがちょっと変なの。
「するってぇと、あたくしが?」
みたいな感じなんだよ。
つまり、セリフっていうのはさ、
やっぱり、不自然じゃん。
書いてあることばだからね。
いまの台本は、昔よりはナチュラルに
しゃべってることばで書いてあると思うけど、
昔の台本って、もっともっと、こう、
「映画のセリフ」みたいなんだよ。
だから、映画俳優の三船敏郎でやると
ぜんぶ、すんなりいく。
糸井 はーー、なるほどね。
それで、しばらくやってて、
味しめて、調子に乗って、
今度は田中角栄とかになったりした。
糸井 すごいな、伸坊。
そのやり方を見つけたら、
わりと、できるようになった。
糸井 いいなぁ。
いままでやったなかで、
好きだったのはどんな役?
いや、そんなにやってないよ。
でも、おもしろかったのは、
昔、谷岡ヤスジさんが
監督の予定だった映画があってね、
そこに呼ばれて殺される役で出たの。
こう、背中に弾着をつけてさ。
糸井 あ、弾着、オレもやったことある。
逃げてくとこを後ろから撃たれるんだよ、
バキューンって。
うわぁ、とか言って倒れてさぁ、
またムックリ起き上がんの。
で、また、バキューンって撃たれるみたいな、
そういうの、おもしろかった。
糸井 オレも弾着はたのしかった。
けど、あれだね、
弾着つけて死ぬ役ってのは、
演技とか段取りっていうよりも。
糸井 うん。正直、アトラクション感覚。
アハハハハ。
糸井 もちろん、真面目にやったけどね。
あと、オレは、刑事の役もしたことがある。
いろいろやったねぇ。
糸井 ちょこちょことね。
それは、山城新伍さんが犯人の役で。
あれだ、『塀の中の懲りない面々』。
えッ? 『塀の中の懲りない面々』、
オレも出てるよ。
糸井 え! そうか。
オレの役はね、なんでもない役。
刑務所見学しにくるふつうの人っていう役。
ただグループで歩いてればよくて。
糸井 いやぁ、そうだったのか。
じゃあ、あれを観ると、オレと伸坊が出てるのか。
そうだと思うよ。たぶん。
ごめん、じつはオレ、観てないんだ。
糸井 オレも観てない。
一同 (笑)
(しょうがないねぇ。つづきます)
2014-06-23-MON
このコンテンツのトップへ 次へ
 
感想をおくる ツイートする
写真:山口靖雄
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN