糸井 |
逆に、伸坊が苦手なことって、なに?
|
南 |
苦手なことは、いくらでもあるよ。
|
糸井 |
伸坊、ラブシーン、どう、ラブシーン。
|
|
一同 |
(笑)
|
南 |
まぁ、あの、ラブシーン、苦手です。
でも実際に困るのは、あいさつだね。
「それでは、ひとことお願いします」って。
|
糸井 |
ああー。
|
南 |
とくに、まじめな人が集まってる場合。
ちょっとおもしろいこと言ってくれ、
みたいなのはいいんだけど、
ちゃんとしたあいさつしなくちゃいけない
シチュエーションっていうのが、ダメ。
|
糸井 |
でも、これまでにオレは何度か
伸坊のあいさつを聞いて感心してるよ。
伊丹十三賞の最初のあいさつとか、
すごくよかった。
|
南 |
あれは、書いたのを読んでるから。
その場でなんか言うってのがダメなんだよ。
糸井さんは、なんにもなしで、
その場ですらすらしゃべるでしょう?
あれができないんだ。
なんか違う話になっちゃいそうで。
|
糸井 |
それはオレもそうだよ。
|
南 |
それでも、ちゃんと着地するじゃない。
|
糸井 |
あ、そうだね。そこはいつも平気だ。
|
南 |
オレはそれができないし、
失礼があっちゃいけない、とか思うから。
だから紙に書いちゃって、もう読むだけにしちゃう。
|
糸井 |
書くとさ、なんていうか、
「よくなる」でしょ。
|
南 |
ん?
|
|
糸井 |
書いてるときに、
いいのが書けちゃうときあるじゃない?
それが困ったなぁって思うんだよ。
|
南 |
あーー、そうか、そうか。
|
糸井 |
実際、何回か書いてみたことあるんだけど、
いいのが書けちゃうのがイヤなんだよね。
それがウソだとは思わないけど、
なんだかいいことをすらすらしゃべっても、
ちょっと違うような気がするんだ。
なんか、そういうあいさつってあるじゃない。
よすぎるだろうそれは、みたいな。
|
南 |
ははははは。
|
糸井 |
だからね、冗談抜きで、
伸坊のあいさつはいつもいいんだよ。
まぁ、伸坊のあいさつを
そんなにたくさん聞いてるわけじゃないけど、
でも、いつも伸坊のあいさつは
いいなぁ、って思うもん。
書いてるのを読んでたって、いい。
ウソをついてないあいさつって、
なかなか難しいじゃない?
|
南 |
ああー。
|
糸井 |
で、同じように見えるんだけど、
赤瀬川(原平)さんだと、
ちょっとヘタなんだ(笑)。
|
一同 |
(笑)
|
|
糸井 |
赤瀬川さん、上手じゃないの。
上手じゃないって、失礼なんだけど、
伸坊のピタッとくる感じではない。
でも、そうかぁ、
伸坊はあれ、苦手だったのか。
|
南 |
うん。
|
糸井 |
いや、だいたい人ってさ、
苦手なことをやってるのに対して、
まず、同情しないよね。
|
南 |
うん、そうかも。
|
糸井 |
伸坊があいさつが苦手だということを、
人は同情しないでしょ。
おなじように、いろんな普段の仕事の中で、
ほんとは苦手な人に苦手なことさせてるのに、
「なんでできないんだよ」
なんて言ってることが
多々あるんじゃないかと思う。
|
南 |
ああー、あると思うね、それは。
オレも、自分でね、絵を描いたり、
線引っ張ったりしてるわけだけど、
必ずしも得意なわけじゃないんだよ。
|
糸井 |
そうなの?
|
南 |
ウン。
線をちゃんと引くとかさ、けっこう苦手。
あの、高校生のときにね、
地図をつくってる会社でバイトしてたの。
そこでね、地図をつくるために、
でっかい方眼紙みたいなものを
つくっといてくれって言われた。
|
糸井 |
紙に線を引いて。
|
南 |
そう、けっこう大きい紙に、
こんなでっかい定規をつかって、
2ミリ間隔で線を引けと。
で、オレは器用なようで器用じゃないから、
定規で長い線を引いたりすると、
こう、だぁーってインク引っ張ちゃったりする。
それがわかるからさ、
「それ苦手なんで」って言うんだけど、
きれいじゃなくていいんだ、って言うわけ。
写植貼るときのガイドにするだけで、
それをそのまま印刷するわけでもないから、
汚くてもいい、わかればいいんだからって。
|
糸井 |
そうか(笑)。
|
|
南 |
でも、そんなさぁ、キッタナイ線をガイドにさぁ、
オレだったら写植貼りたくないし。
|
糸井 |
うん、うん(笑)。
|
南 |
それでどうしようかと悩んで、
どうしたかっていうと、
とうとう、次の日、休んじゃった。
|
糸井 |
ああーーー、なるほど。
それはさ、まさに「苦手」だね。
|
南 |
「苦手」だろう?
|
糸井 |
休んじゃうってのはすごいなぁ(笑)。
思いもしなかったよ。
|
南 |
だって、
行ったらやんなきゃいけないじゃん。
|
糸井 |
あははははは。
そんなこと言える人、
なかなかいないよ。
(おしゃべりは苦手じゃない二人。つづきます) |