手で書くことについて ぼくらが考えたこと。
 
 第4回 書いたものの先にいる人。
糸井 西田さんは、手書きのものを
人に見せる機会は多いですか?
西田 あえて手書きにすることで
効果が出るようなものはそうします。
でもぼくの字って、
コピーライター文字というか、
年齢にふさわしくないような丸い字なので、
手で書いたものを誰かに渡すってことは
そんなにないです。
糸井 でも、誰かのために
似顔絵を描いたりとか‥‥
西田 あぁ、たしかに似顔絵は描いていますね。
ぼくは学生時代に、
大学のサークルのノートに
その日の誰がどうしたこうした、
というような似顔絵を描いていたんですけど、
これを描ける会社に行きたいというのを、
子どもっぽい発想だけど、ずっと思っていたんです。
だから今でも、
お礼の手紙には似顔絵をつけています。
糸井 あぁ、やっぱりあるじゃない。
手書きのものを人に見せる機会。
西田 そうですね。
糸井 絵の話でいうと、
土屋耕一さんの描いた絵手紙も
またすごいんですよ。
すごいのが、土屋さんはその絵手紙を
どこかに発表するつもりもなく描いているんです。
つまり奥さんしか見ないものなんです。
しかも、奥さんと一緒に行っている
旅行の絵を描いているんですよ。
西田 ああ、見たことがあります。
ハワイの絵ですよね。
糸井 そう。奥さんしか見ないものを描くということ自体が、
家族の前でちゃんと佇まいをよくして
きちんと生きたいという人の発想ですよね。
さらに、土屋さんがすごいのは、
完成した絵手紙を、一緒に旅行に来ている
奥さんに渡しているところなんです。
「何それ!」って感じですが、
すごい愛され方であり、愛し方ですよね。
西田 夕陽の絵を見ましたが、
土屋さんがその瞬間の景色を「いいな」と
思っている感覚が説明可能なものなのか
一緒にいた奥さんに
確かめようとしたのかなと思いました。
土屋さんの探究心みたいなものがにじみ出てて、
どんなコピーよりも強いですよね。
糸井 強いです。
やっぱりラブそのものだと思いますね。
松浦 ぼく、自分の持っている力なんて
たいしたことないんだけど、
でも、アクセルを思い切り踏んだら
どんな文章が書けるんだろう、
という興味がすごくあります。
で、それを実践するときって、
ぼくは誰かをいつも思い浮かべるんです。
たとえば旅先で、隣に見知らぬ素敵な女性がいたら
「この人のために書いてみよう」と思うと、
ギュッとアクセルが踏めるんです。
そうすると自分がビックリするぐらい力が出たり‥‥。
西田 へぇー。
糸井 これだから女性ファンが多いんですね(笑)。
松浦 「ファインプレー」って
野球用語で使うじゃないですか。
「すばらしいプレー」という意味で使っていますけど、
でも、英語の「ファイン」って、
本当は「普通」とか「ボチボチ」という意味ですよね。
西田 「元気だよ」みたいな。
松浦 そう、ボチボチプレーなんです。
ぼくはボチボチプレーがすごく好きで、
自分の仕事はボチボチでいいと思っているんです。
でも、たまにはスーパープレーとか
エクセレントプレーを
やってみたいときがあります。
それには誰か人が絡んでないと無理で‥‥
西田 で、美人を探すわけ?
松浦 そうです(笑)。
西田 この人にむけて書こう、
と架空で決めて書いているんですね。
糸井 スプレーをするように
書くことはないんですか。
松浦 ないですね。
手紙と一緒ですから。
糸井 自分という点と、相手という点との
2点を結ぶ直線の中に
いつも文章があるんでしょうね。
松浦 そうですね。
糸井 ぼくはスプレーばっかり
してるような気がします(笑)。
あの、仕事だと「手で書いた原稿」って
まずは編集者が見ると思うんですが
編集者のことは想像しているんですか。
松浦 はい。たとえば西田さんが
ぼくの担当編集者だとすると、
西田さんのことばっかり考えて書きます。
糸井 えっ。
松浦 で、もう疑似恋愛みたいな。
糸井 おぉ。
松浦 担当者が男性でも女性でも、
とにかくその人が喜んでくれるためには
どうしたらいいかということを考えます。
この人に喜んでもらえなかったら、
その先の人には届かないと思ってるので。
糸井 編集者が
キャッチャーミットなんですね。
松浦 そうなんです。
西田 ‥‥ぼくは、気づいてなかったです。
18年前、松浦さんの担当編集者だったのに。
糸井 愛を受け止めてなかったんだ。
西田 受け止めてなかったです(笑)。
松浦 あとは、自分の「恥ずかしい」という
照れの部分をどうするかですね。
振り切って書ければいいんですけど。
30代の半ばぐらいに1回、
その恥ずかしさを直そうと思って、
「どう思われてもいい」って
気持ちになったんですが、
最近はまたちょっと‥‥。
西田 今日も、裏でずっと
「恥ずかしい、恥ずかしい」って
言ってましたよね(笑)。
松浦 はい。手書きのものを
今日は展示させていただいてますけど、
自意識過剰なことに
けっこう恥ずかしくて。
糸井 でも、それはよくわかりますよ。
手書きの文章って
「私」そのものですから。
松浦 そうなんですよね。
でも、あるときやっぱりそれを振り切って
覚悟しないとダメだなと思っています。
誰かを思って書いてることが
全部台無しになっちゃいますから。
糸井 恥ずかしい、という話でいうと、
日記って人に見られてはいけない
恥ずかしさがあるはずなんだけど、
「ほぼ日手帳」は落として誰かに拾われても、
あまり恥ずかしくないような気がするんです。
松浦 ああ、それすごくわかります。
糸井 「手帳」って名前がついているせいかな。
日記だと、自分を過剰に裸にして
書いてしまうけど、
手帳って、スケジュールだけ書く人もいるし、
予定表だと思っているところがあるので、
その恥ずかしさがないなと。
西田 そうですね。
スケジューラーとダイアリーの中間ですね。
糸井 うん。日記や手帳、メモなど
手で書くものにジャンルがあるとすれば、
「ほぼ日手帳」は
そういうジャンルの枠を
ぶっ飛ばしちゃったような気がするんです。
松浦 他の手帳との違いでいうと、
いわゆる普通の手帳だと、
こう使って、こう役立てよう、
という目的が商品の売りとして
存在しているけれども、
「ほぼ日手帳」は買ってから、
人によっては1〜2か月ぐらい置いといて、
「私はどう使おうかな」というふうに
考える時間をもらえる気がします。
糸井 あぁ、今すごく「なるほどな」と思いました。
「ほぼ日手帳を買ったけど、
 どう使ったらいいですか」って
よく質問されるんですよ。
それは、「家を買った」というのと同じで、
「新しい家を手に入れたから
 似たような間取りで、
 いい使い方をしている人がいたら
 参考までに見せてもらおう」
という感じなんですよ。
とっても自由度が高いがゆえに
考えさせちゃうんだなと思います。
松浦 でもそれは素敵なことですよ。
たとえば1個のコップを買ったときに、
「これをどう使おうかな」と考える時間を
さりげなく与えてくれるものが、
ぼくは「いいもの」だと思うんです。
「ほぼ日手帳」もそうなんですけど、
ポンと目の前に置いておくだけで、ぼんやりと
「自分が思う素敵な暮らしってどういうものかな」
と考える機会を与えてくれるものだと思います。
不思議なもので、
それを最初に狙っちゃうと作れないんですけど。
糸井 ありがとうございます。
それは最高の褒め言葉です。
松浦 だから、それだけでも十分、
役割があるから、
すごいなあと思いますね。
糸井 ご自分の作りたい雑誌について
語っているのと同じですね、きっと。
西田 「手帳」つながりですね。
糸井 あ‥‥そうか、『暮しの手帖』だ。
気づいてなかった。
西田 「今日もていねいに」がスローガンです。
糸井 (笑)

(つづきます)
2013-10-09-WED
前へ このコンテンツのトップへもどる 次へ
 
感想をおくる ツイートする ほぼ日ホームへ
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
 
ようやくお目にかかることができました。『アンパンマン』の生みの親である、やなせたかしさん、94歳の登場です!