ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 セキュリテ被災地応援ファンド 1周年記念シンポジウム 篇
第3回 丸光食品の熊谷敬子さん、 客席から登場。
猪尾 今、石渡商店さんでは
どのような「新しいチャレンジ」に
取り組まれていますか。
石渡 私どもの会社では
「一般の商品が2割、業務用が8割」
という割合なのですが、
業務用ですと
和食に特化したフカヒレ商品
つくっておりました。
フカヒレというと「中華のイメージ」が
強いと思うんですけど、
私どもでは
フカヒレ茶碗蒸し、フカヒレの天ぷら、
フカヒレのお刺身
などを、
お出ししておりました。
猪尾 フカヒレで和食‥‥って
なかなか、ないですよね。
石渡 震災後は、そうした業務用だけでなく、
一般の方々に直接、食べていただける商品も
開発していかなければと思っています。
地元の牡蠣でオイスターソースをつくるとか、
おいしい食材が
まだまだ、たくさんありますので。
猪尾 石渡商店さんのファンドには
2500人の出資者の方がいらっしゃいますが、
コラボレーションという面で、
たとえば
出資者の方々と、
どんなことができたらいいな、と?
石渡 まだ計画段階ではありますが、
2500人でつくるフカヒレ商品
考えています。

これまで、フカヒレって
ふだん、なかなか食べる食材ではなかったと
思うんです。
そこで、みなさんに
ふだんから食べていただけるフカヒレ、
それってどんな商品なんだろうと
お聞きしながら
開発していけたらと考えております。
猪尾 丸光食品さんでは
今も、引き続きファンドは募集中ですが
「出資者のかたとのつながりは
 お金だけじゃない」
と、つねづね、おっしゃっていますね。
ここ数年、ネット販売に力を入れてきて、
これから、という矢先の震災でした。
せっかく集めた名簿も
一瞬のうちに、津波に流されてしまいました。
‥‥そのあたりの思いは
家内のほうが熱いと思うんで、ちょっと一言。
敬子 (客席最前列から立ち上がり)
顧客名簿を集めるのは本当に大変でした。
通信販売なんてやったことない
ゼロの時点から、
どうやってお客さまの名簿を集めるのか。
自分たちでチラシをつくって
振込先を書いて、
でも、商品をお送りしたのに
お金をもらえなかったらどうしようとか‥‥。
配送の段ボール箱ひとつから
まったくの手探り状態ではじめました。

お客さま第1号は
私の友だちだったんですけど、当初は
「なんで一袋170円のうどんに
 850円も
 宅配便代をかけなきゃいけないの?」

とか、言われていたんです。
猪尾 なるほど‥‥。
敬子 丸光の商品は、どれも、
近くのスーパーで売っているような商品です。
つまり、袋のそばやラーメンを
通販で買う感覚って、なかったと思うんです。
それでも、何年もかかって
やっと8000人くらいまで、顧客名簿も増えて‥‥
だから、それがすべて津波で流されたのは
本当にショックでした。

でも、このファンドに参加させていただいて
感じたことは、
「お金を出資していただける」ということと
同じくらい
出資者してくれたみなさんが
いつか
丸光のお客さまになってくれるかもしれない、

と思うことが、嬉しいんです。

いつか、丸光の麺を食べてくださるかもしれない。
そう思うと、
希望とワクワク感で、いっぱいになりました。
猪尾 現在では、1700名弱のかたに
ファンドへのお申し込みをいただいています。
敬子 最近は、震災後でありながらも
丸光のファンになってくれたみなさんと
お話するのが楽しくて。
工場や資材が流されたことについては
ガックリしてるんですけど、
会社はまた‥‥つくればいいし。

うちは、従業員16人の
田舎のちいさなうどん屋ですけれど、
1700名の方が
応援してくださっているということを
いつも、感じています。

その方々と一緒に
丸光という会社を再建していくんだと、
丸光はもう
「みんなのうどん屋」なんだ
と思って、
大企業のような気持ちで
がんばっていこうと思っています。
 
ミュージックセキュリティーズは ちゃんと儲かってるの‥‥?
客席 事業者のみなさまが本当にすごいパワーで
私も経営者なので、
負けていられないなと思っています。

で、事業者さまはすごい元気なんですけど、
はたして、この仕組みで
応援ファンドを運営してらっしゃる
ミュージックセキュリティーズさんは
儲かっているのか

ということが、少し気になります。
この素晴らしい仕組みを
ぜひとも、持続していただきたいので、
その点、おうかがいしたいです。
小松 ありがとうございます。

私たちも、私たちで
事業として、きちんとやっております。

これは、できる範囲でやるだけの
ボランティアではなく、
本気でがっちりコミットメントしながら
今後10年間、
事業者さまと一緒に我々も成長する、
そういう取り組みです。

長期的なスパンの取り組みになりますので
私たちも10年間で
成功できればいいと思っております。
河野 この仕組みをつくるというとき、
手数料は「一口500円」だと言われて、
我々、出資を受ける者からも
そうじゃなく、
もっと何パーセントか受け取るのが
当たり前なんじゃないかという話をしたんです。
そうしたら
「いや、被災地支援という意味を持つ
 ファンドですから
 僕たちは、
 500円の手数料でなんとかしますから
 大丈夫です」と。
でも、実際フタを開けたら
ファンド準備の合宿所では雑魚寝だし、
鍵のかからないような宿に泊まったり、
もう、何かほんとに‥‥。
会場 (笑)
山田 声を大にして言いたいのですが、
ミュージックセキュリティーズさんに入る
手数料が、一口500円ですよね。
それで、
最大で10年のお付き合いになるんです。

つまり「500円」を「10年」で割ったら
年間たったの50円です。
これって本当に、すごいことです。

ミュージックセキュリティーズさんは、
「新しいお金の使いかた」を
提示してくれたんだと思っています。
だって、自分が共感した人たちにお金を預けて
その会社の復興に、使ってもらえる。
これって本当に、革新的な仕組みだと思うので。

これからの社会を考えたとき、
こういう「新しいお金の使いかた」は
ぜひ広まっていってほしいという
願いもあって、
私自身、そうとう肩入れしております(笑)。
小野寺 仮に、ミュージックセキュリティーズさんの
資金が足りなくなって
ミュージックセキュリティーズ・ファンド
というものが立ち上がった暁には
我々みんなで出資すると思いますので
その点は、大丈夫だと思います。
会場 (笑)
小松 (苦笑)

<つづきます>
2012-07-04-WED
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