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徳光 |
ここに前川清さんの
ポスターが貼ってありますけれども。
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糸井 |
はい。
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徳光 |
ぼくね、
「演歌の歌手ってうまいなぁ」
って思うんですよ。
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糸井 |
うまいです、うまいです。
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徳光 |
五木ひろしさんは
EXILEを歌ってもうまいですからね。
みなさん、本当に苦労して
いろんなことを積み重ねてきたうえで、
それでなおかつ、
後ろを振り向かずにですね、
「半歩でも前へ」「半歩でもうまくなろう」
というような気持ちがずっとあるわけですね。
なぜなら、後からどんどん
自分よりうまい人たちが出てきます。
そのためには常に1馬身、
2馬身の差をつけていなければいけない、
そういった、彼らなりの
自らに課しました責務を
追求しているのかもしれません。
だから、本当に歌はうまい。
それはある種、
テクニックのうまさなんですが、
テクニックのうまさに、ときとして、
よろめいてしまうんです。
テクニックと知ってて負けちゃうんですよ。
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糸井 |
テクニックって、そういうもんですね。
しかもやっぱり、
テクニックだけということは
ありえないと思います。
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徳光 |
ありえないでしょうか。
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糸井 |
特に歌は、
「微細な筋肉のコントロール」ですから。
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徳光 |
あぁ、なるほど(笑)。
うまいこと言うなぁ。
いい言葉ですね、
「微細な筋肉のコントロール」(笑顔)。
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糸井 |
いや、あの(笑)。
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徳光 |
おつづけください。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
つまり、歌い手が
「ここまでだろう」と思ってる先が
まだあるはずなんです。
「ここまでだ。わかった」と言ってるやつが、
わかった顔して歌ってるものは
おもしろくないんです。
だけど、その先の何かを求める人が
声帯という暗闇で
体に響かせて音を鳴らしてるわけですから、
どうしても自分が出てしまいます。
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徳光 |
ああ、そうですね。
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糸井 |
「うまいの向こう側」を
我がものにしようと思ってる人たちの
やってることですから、
そこは、しびれます。
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徳光 |
考えてみれば、
ひばりさんがそうでしたね。
ひばりさんはもう
最後の最後まで向上心があったと思います。
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糸井 |
そうですね。
‥‥人って、一度頂点に立つと、
おそらく何していいんだか
わかんなくなるんだと思うんですよ。
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徳光 |
あぁ、そうかなぁ、うん、うん。
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糸井 |
努力目標が見えている若い人のほうが
よっぽど楽しく生きられます。
だって、ラーメン屋をはじめるときに、
「ラーメンをうまくする」ということは
わかりきった努力でしょう?
だけど、美空ひばりさんが
「もっとうまくなりたい」というのは、
本当に大変なことです。
イチローさんが褒められる理由はそこですよね。
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徳光 |
そうでしょうね。
まさに当てはまります。
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糸井 |
報道陣たちがつまんないことを言うと、
イチローが、
「そんなことでいいんだったら、
終わってるよ、俺は」
という顔をしているときがありますよね。
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徳光 |
「そんなことをいま聞くのか?」
ということですね。
中田英寿さんにもそういうところが
あると思います。
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糸井 |
うん。「てっぺん」って怖いでしょうねぇ。
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徳光 |
そうでしょうねぇ。
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糸井 |
徳光さんは、
「てっぺん」みたいなことは‥‥?
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徳光 |
それを感じなくていい
職業だったんですよ。
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糸井 |
そうかぁ。
ま、それはぼくもそうです。
ずるく、なだらかな場所にいるつもりで
生きてきています。
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徳光 |
私の仕事は
まさにそうですねぇ。
「ギャランティでてっぺん行く」とか、
そういうことはまた別でしょうけども、
そんなに「てっぺん」のある職業ではありません。
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糸井 |
「てっぺん」を感じられないということが
どれだけ助かることなのか、
はかりしれないですね。
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徳光 |
はい。
「いい仕事選んだな」と
思うときがあります。
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糸井 |
だけど本当は、どの職業も
「てっぺん」なんかないのかもしれない。
そう思っちゃうだけで
気が楽になりますね。
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徳光 |
あぁ。そうかなぁ(笑顔)。
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糸井 |
きっとそのことを、
イチローあたりの人たちは
知ってるのかもしれない。
だから「この場所からでも俺は探してる」という
自信があるんですよ。
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徳光 |
そうかもしれない。
イチローは、いまのポジションから、
冷静に探してますね。
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糸井 |
スポーツだと
「てっぺん」を避けるために
引退する人もいますからね。
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徳光 |
それはいわゆる「引き際」と
呼ばれるところですね。
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糸井 |
そうだと思います。
「『てっぺん』に立っちゃったな」
という恐怖を感じさせられるのは
本当は気の毒で。
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徳光 |
そうですね。
それを避けるのも
いいと思います。
(つづきます) |