東京の子。辛酸なめ子さんと朝吹真理子さんからみた「東京」 東京特集
第三回 時が来たら去る。
──
お二方は東京がお好きですか?
朝吹
好きか嫌いかで問われれば、
好きです。
辛酸
私も好きです。
朝吹さん、東京の中で
苦手な場所はありますか?
朝吹
苦手な場所‥‥どこだろう‥‥。
あえて言うなら、
下北沢が馴染めないですね。
駅に降りるのは、
鉄割アルバトロスケットの戌井昭人さんの、
芝居をみに、スズナリに行くときくらいですね。
辛酸
ああ、私もわかります。
下北沢に行くと、
自分の理性というか
平常心がおかしくなってしまって、
ちょっとしたミスが多くなるんですよ。
──
ガ、ガーン。
‥‥私、下北沢大好きでよく行きます。
朝吹
ああ!すみません、伝え方が悪くて。
個人的に苦手というだけで、
好きな人が多いことはわかっていますよ。
辛酸
そうです、そうです。
とってもわかります。
──
そうですか。
フォローいただいてしまって、
すみません。
でも、どうして苦手なんでしょうか?
朝吹
あの、すごい偏見なんですけど‥‥、
自我が強い感じがします。
辛酸
ああ、わかります。
人の気持ちが渦巻いていますよね。
ポジティブな夢や希望もあれば、
行き場のない野望も。
一度はまったら、
抜け出せなくなる街だと思います。
ときどき、モラトリアムな
おじさんとか見かけますよね。
──
自我‥‥。
モラトリアム‥‥。
たしかにそうですね。
私はそんなおじさんたちを見るのが好きなので、
下北沢が居心地いいのかもしれないです。
朝吹
私は根無し草のように、
漂って、流れて、消えていく。
そういう感じが好きなので、
下北沢の根を張ろうとしている感じが
怖いんです。
もちろん、
地縁があるのって心地いいことでもあると思うので、
住み着く人が多いのもわかります。
辛酸
駅からしばらく歩くと、
いい感じの住宅街もありますもんね。
高円寺も似た感じかもしれないですね。
朝吹
高円寺に行った時は、
もう、始発が待てなくて、
深夜にタクシー乗って帰りました。
辛酸
そんなにダメだったんですね(笑)。
しばられたくないんですね。
──
あ、あの‥‥。
私、高円寺も大好きです(笑)。
朝吹
ああ!また、失礼なことを(笑)。
いや、気持ちはわかりますよ。
私たちもあえて言うなら、
馴染めないというだけで。
辛酸
はい、わかります。
下北沢も高円寺もいい街だと思うので。
朝吹
きっと、寄る辺なく漂って生きていくのが、
好きなんだと思います。
辛酸
近い考え方だと思いますが、
私も東京の、
すこし人と距離のある感じが好きなので。
朝吹
いいですよね。
東京という大きな土地があって、
そこに来たい人が来て、
時が来たら去って。
いろんな人が出たり入ったりしている。
そういう、
ちょっとさびしい感じが好きです。
辛酸
地縁という感覚の人が少ないから、
「地元だから応援します」というのもないですよね。
朝吹
ないですね。
将棋の藤井聡太さんが、
地元の瀬戸市をあげて応援されている様子を
TVで拝見して、
こういうことがあるのか、と思いました。
「東京都生まれだから、サイン会来ました」
なんて、言われたことないです。
辛酸
たしかにないですね(笑)。
朝吹
話は飛びますけど、
私、高校は女子校だったんですが、
国語の先生が「男は踏台、使い捨て」と
授業中にしょっちゅう言っていて。
幸せになるためには、
男の人をうまく利用しなさいって
ことだと思うんですけど、
東京らしい授業だと思いました(笑)。
ちょっとさびしい考え方ですよね。
辛酸
‥‥「男は踏み台、使い捨て」。
それはまた、別の話になりそうですね(笑)。
朝吹さん、
下手に土地を買わないほうがいいですね。
しばられちゃいますから。
朝吹
ああ、そうかもしれないですね。
身軽でありたいので。
(つづきます。)
2017-08-13-SUN