辛酸
朝吹さんはセレブな学校に通われていた
印象があります。
お金持ちの方が集まっていたんですか?
朝吹
セレブな子はいましたけど、
それをひけらかすような人は、
ほとんどいなかったです。
でも、お金持ちのレベルがすごかったので、
未だに記憶に残っていることは
いろいろあります(笑)。
辛酸
どう、すごかったんですか?
朝吹
あの、記憶に残っているのが、
友だちの家の中にある竹林が広すぎて、
道に迷ってしまったことがあって。
単独行動をしてしまった自分が悪いのですが、
帰れなくなっちゃったんです。
途方に暮れて泣いていたら、
友だちのお家のお手伝いさんが
探してみつけてくれた(笑)。
辛酸
竹林で迷子ですか。
それ、東京の話ですよね?
朝吹
はい、東京なんですよ。
その子は、ポニーとか孔雀も飼っていましたね。
辛酸
まったく想像がつかないです。
朝吹
まだ、バブルの名残もあって、
全身シャネルスーツのお母さんが、
幼稚園にポルシェで迎えに来ていたり。
でも私の母は、1969年のウッドストックに感激した
ロック女子だったので、
きらびやかな感じとは、縁遠いひとですね。
辛酸
それは素敵なお母様ですね。
どういうところで遊ばれていたんですか?
朝吹
いちばん好きだった場所は、
渋谷の五島プラネタリウムです。
母親にせがんで、
よく連れて行ってもらっていましたね。
辛酸
ああ、東急文化会館の中にあった
プラネタリウムですよね。
今はヒカリエに建て替わってしまって。
朝吹
そうなんですよ。
好きだった遊び方が、
プラネタリウムを観た後に、
下の階に入っている「永坂更科 布屋太兵衛」で
お蕎麦と甘い卵焼きを食べて、
三省堂のマンガだけの本屋さんに行って、
ストリートファイターの同人誌を買って。
24年組のマンガもそのとき買い集めて。
そのプラネタリウムは、ときどき、
ミネラルフェアをやっていて、
鉱物をのぞくのも好きでしたね。
辛酸
プラネタリウム、卵焼き、同人誌、鉱物‥‥。
ものすごく、
カオスな遊び方ですね(笑)。
朝吹
カオスですよね(笑)。
でも、そんな遊び方ができるあの場所が、
とても好きだったんです。
星をみて「いいなあ」と思って、
星座早見盤を買うんですけど、
実際の東京の空では星なんて見えなくて、
すぐに捨てた記憶があります。
だから余計に、
あの場所でみえる星が特別で。
辛酸
素敵なエピソードですね。
プラネタリウムがなくなってしまって、
悲しいですね。
朝吹
悲しいですね。
辛酸さんは、どこで遊んでいたんですか?
辛酸
私は東京の中学校に進学したんですけど、
場所が市ヶ谷だったので、
周りに遊べるところがなくて。
期末試験が終わると、
新宿や渋谷まで出ていました。
でも、両親が教師だったので、
遊び方を知らなかったんです。
友だちと見よう見まねで、
原宿とかに繰り出していたんですけど、
一度すごく驚いたことがあって。
朝吹
どんなことがあったんですか?
辛酸
中学生の時に初めて、
竹下通りに行ったんです。
そうしたら、
店員さんとじゃんけんして
勝たないと入れないっていうお店があって(笑)。
朝吹
なんですかそれ、
聞いたことないです(笑)。
辛酸
朝吹さんもそうですか(笑)。
私はその時、
原宿ってすごい街なんだと思い知りました。
ただからかわれただけだと思いますけどね。
そのお店には入れないし、
お金もあまり持っていなかったので、
入れるお店で安くてダサいアクセサリーを買うのが、
精一杯の東京での遊びでした。
でも東京の人って、遊び方が違いますよね。
朝吹
この間恵比寿三越のフードショーで、
幼稚舎からの友人にばったり会ったんです。
立ち話をしていたら、
「私、もう全然キラキラしてない」と言われて。
でも両手にショッピングバッグを
いくつも抱えていて、
物質的にはすごくキラキラにみえました(笑)。
その時に、このいつもどこかアンニュイな感じが
「東京の人か」と。
辛酸
両手に紙袋ですか。
それはキラキラですし、
東京の人っぽいかもしれませんね。
朝吹
名古屋の女の子はわかりやすく、
マークがついているひとつのブランドで、
たくさんのお買い物をすると聞いたことがあって。
逆に東京の人は、
いろんなブランドの紙袋を、
いっぱい持っているイメージです。
いろんなお店にちょこちょこ行って、
いろんな物を買って、遊ぶんです。
その子のショッパーを
ちゃんと確認してなかったんですが、
いろいろ持ってた気がします。
辛酸
情報も最新スポットも多いからだと思いますけど、
ひとつのところにとどまらないですよね。
それぞれに好きな場所がありますし。
朝吹
そうですね。
東京とは何か? と聞かれても、
同じものを思い浮かべられないと思うんです。
同じ象徴がない街ですよね。
(つづきます。)
2017-08-14-MON
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN